第5話
さて、いろいろと好き勝手に動ける可能性が浮上した訳だが..........だからと言って、何も出来そうにない。
意識ははっきりしているが所詮は一歳児。武道とか魔法とかやってみたいけれど、まずもって話にならない。体は動かないし、魔法についてはアンリさんに聞いてもやんわりと話を逸らされる。その為、出来ることが減ってきて手持ち無沙汰になりつつある今日この頃である。
一周回って勉強したくなってきた。人間、やる事がなくなると無駄に知識を詰め込みたくなるとどこかで聞いたことがあるが、それもあながち間違いではなかったようだ。
そんなわけでこの日はアンリさんにお願いして、父の書斎へ連れて行ってもらいました。聞いた限りでは、たくさんの本が無造作に置かれているんだと。専門書とかありそうでワクワク、ドキドキである。
しかし専門書を読んだら驚愕である。内容が安直で薄っぺらいし、むしろ俺が新理論を打ち出してアンリさんの度肝を抜いちゃった。
————————————そういう絵空事を描いていた時期が、僕にもありました。
正直、異世界舐めてた。
全く、歯が立たなかった。
え、ナニコレ。書いてある内容がアンリさんの解説付きでも全く理解できない。前アンリさんが読み聞かせしてくれた本が児童書に感じるほどに難しい。例えるなら、言葉の一語一語の意味は理解できるのに内容が頭に全く入ってこない論文的なヤツ。一瞬で俺の鋼メンタルも砕け散った。
「一応、坊ちゃまの為に読む本は選んでいたんですよ?」
お気遣い、痛み入ります。
その後も色々と本を読もうと努力したのだが、途中で性根尽き果ててしまった。見かねたアンリさんが
「あの、一歳の坊ちゃまに申し上げるのはいささか問題な気もしますが......もしよろしければ勉強をお教えしましょうか?」
と救いの手を差し伸べてくれなければ、もしかしたら俺は一生勉強嫌いになっていたかもしれない。
俺の部屋に戻ると、さっそく色々と準備してくる、と言ってアンリさんは部屋を出て行った。
俺はその時、選択を間違えてしまっていたのだろう。気付いた時には遅かった。
翌日、俺の目の前にうず高く積み上げられたるは厚みのある本の数々。「さあ坊ちゃま、お勉強を始めましょう」と笑顔で迫るメイド。一歳であることを理由に遠慮しようとしたら、
「それだけお話出来るのですから、大丈夫です。知識は詰め込めるうちに叩き込.....詰め込まないと」
と有無を言わさぬ勢いで詰められた。最後の砦である母に助けを求めたものの、母は始終ニコニコ。そういえば意思疎通が出来ないんだった。
追い詰められた俺は、
「さあ、坊ちゃま、楽しくお勉強をしましょうね?」
「......あい。」
そう頷くしかなかった。ああ、もしかしたら俺は一生勉強がトラウマになるかもしれない。
読んで下さりありがとうございました。これからもぼちぼち投稿していくつもりですので、ブックマークとか付けていただければ幸いです......