第1話
意識がボンヤリする。まるで頭を思いっきり殴られたかのように痛い。
ああ、頭の中で声が響く。
「——————‼‼、‼‼‼——————」
確かお気に入りのアニメを見ようとしたところで意識が、
意識が。
あれ、俺、どうなってる?
一気に意識が引き戻された。
急激に襲ってきた息苦しさに悶える。頭が割れるように痛いし、お尻の方がなんか押されている感じがする。なにより、視界が真っ暗だ。
状況が読み込めない。
「——————‼‼‼————」
くぐもった声が聞こえてきた。何を言っているのかは全然聞き取れないけれど、なんだか励まされている気がする。ぼんやりその声を聞いていると、ふと、足元に意識を集中したくなった。脳が警鐘を鳴らしている。「今足を押し出さなければ死ぬ」と。理屈は全く分からなかったが、ここは本能に従った方が良い気がした。
足を蹴りだす。
すると、にゅるんとした気がした。
更に押し出す。
またにゅるんとした。
しばらくあがいていると、お尻の方からものすごい圧で押されている気がした。
またにゅるんとした。
頭痛に耐えながらしばらくこの謎の感触を楽しんでいると、急に頭が締め付けられる感触に陥る。
非常に痛い。今までの10倍は痛い。しかし耐えられないわけではない。なら少しだけ我慢しよう。なぜだかそう思った。
永遠に続くかと思われたこの時間は、俺の視界を白い閃光が奪うと共に終わりを迎えた。
あまりの苦痛と息苦しさに思わず声を出してしまう。
「っんぎゃあぁぁぁぁぁ」
自分の発した音に耳を疑う。
なぜなら、
それは紛れもなく、
「おぉ、元気な赤ちゃんですねぇ~!奥様、よくぞ奮闘されました!」
赤ちゃんの泣き声だったからだ。
この日、商家の当主エスニア・ドーガンが妻、アンネは三男のライアンを産んだ。長男、次男共に難産であったが故にかなり心配された出産であったが、蓋を開けてみればあっけないほどの安産。
後に産婆はこう語る
「あの坊主はすぽーんと生まれてきたでさ。でもまあ、今考えりゃああんときからそんな性格してたんだな」
商家の三男であった為、あまり期待された子では無かったものの、良い意味でも悪い意味でも周囲を引っ掻き回していく為、将来的にはエスニア商家もそのあおりを食らうことになるのだが......それはまた、別のお話。
さて、そんなこともいざ知らず、当の本人と言えば————————
しばらく固まっていた赤子は自分の置かれた状況を理解し、
「おん.........ぎゃああああああああああ」
また泣いた。