プロローグ
快晴だ。
照りつける太陽に目を細めながら固い土を踏みしめた。外壁にかけてある昔ながらの水銀温度計を見ると二十六度の目盛りまで赤いからだの背丈が伸びている。そろそろ外遊びも当分見納めかな、となにかを期待しつつもどこかさびしい想いだ。自分の横を、明るい色の服を着た女の子たちがキャーキャー言いながら通り抜けて行った。
「シューせんせー!見て!かまきりがいた!」
「すごいじゃん!ケイくんが自分で捕まえたの?」
満面の笑みでプラケースに閉じ込められたかまきりを見せつける男の子の機嫌を損ねないように、オーバーリアクションで出迎える。虫かごの中のそれはぐったりとしていて瀕死状態なのは大人が見れば誰だってわかる。
けれど、ここ甘平保育園の年長、五歳児クラス・くわがた組のなかでも一番の昆虫好きで知られるケイくんにとっては絵本や図鑑でよく見る虫への執着は、大好きなかまきりがいまにも死にそうな現実をひた隠す。
自分の目と手で実感したことが何よりもうれしく、それを僕に見せつけることに優越感を感じているのだろう。
先生はかまきりなんて本でしか見たことがないだろうから本物を見せてやるよ。
言葉使いは不適当だけど、そんな思いなのだ。
先生だって見たことがあるし触れるさ。けれど、ここで張り合っても意味がない。
おだてなければ、純粋な子どもを。