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真夏のサイン  作者: 星海芽生
3/6

°○2話

「遅い!!」



部屋に入った瞬間

耳鳴りがするほどの声で怒鳴られる。


予想通り、部屋では

私の担当が、仁王立ちで帰りを待っていた。



「僕が電話に出てる間に、何処行ってたんですか!」


「何処って.....うーん、決めてないなぁ、ブラブラしてた」


「ブラブラ!? そんな暇ないんですよ!」


「そうねぇ〜、梶くん作ってくれないもんねぇ〜」


「僕のせいですか!? 僕は一応余裕を持って組んでるのに、先生がギリギリまで逃げ回るからじゃないですかぁ!」


「うっ、...とはいえ、流石に労働基準法に反してるとおも」


「作家...特に先生にはそんなもの通用しません!」


「そんなことが許されていいと思う!? みんな平等じゃないといけないのよ!」


「あーもう! 屁理屈言ってないで、さっさと仕事してください! 暇が欲しいなら、早く原稿上げてくれれば出来ますから!!」



ほらほら、って、梶くんが私と背中を押して

パソコンの前に座らせた。


スリープモードから立ち上がった画面には

絶望的なほど真っ白な原稿画面が映っている。


それからそっと、目を逸らし梶くんを見れば、

梶くんが顎で戻せと促してくる。

超絶怒っているようだ。



「誰も私の本なんて待ってないって〜」



観念して、少しずつ文字を打ち込んでいきながら、口では文句を垂らしていると

何を言ってるんですか!!と、一際大きい声で怒鳴ったかと思えば

梶くんは一度外へ出て、何やら大きめの箱を持って帰ってきた。

パソコンの横にどんと置かれた、その箱はしっかりと封がされていて中が見えない。


「見てください」


「え、なにこれ」


「浅井渚先生宛のファンレターです」


「えっ、こんなに!?」



ええ、こんなにです。と何故か胸を張っている梶くんの前で、ドキドキしながら、封を剥がし箱を開けた。

隙間なく入れられた封筒の数々。

一通手に取り宛名を見れば、確かに私の名前が書いてあった。

そのまま丁寧に封を切り、入っていた手紙を読んでみる。



『浅井先生へ。

 いつも先生の作品を楽しく読ませて貰ってます!

 先生の書く作品は、笑いや感動も沢山詰まっていて......』



便箋びっしりに書かれた感想と応援に目が潤む。

実は、初めて読んだファンレター。

こんなにも嬉しいものだなんて。



「どうですか? 皆さん、先生の作品を待ってるでしょう?」


「うん...、待ってくれてる...」


「応援してくれてる人がいるのに、書かないなんて言いませんよね?」


「言わない! 書く! 今すぐに書いて原稿上げる!」


「その意気です! じゃ、終わるまで僕はここで待たせてもらいますね」


「え」




キーボードに手を乗せようとして、宙に浮かせたまま止まった。


そしてゆっくりと後ろを振り向く。


その視線に気が付いた彼は、にっこりと笑った。




「なにか?」


「いえ...別に」


「そうですか。早く終わらせてくださいね」


「...はい」




綺麗すぎるその微笑みに、今までファンレターが渡されていなかったのは

今日のような日の為の、策略だったことに気づく。

そして、自分が如何に、単純な人間であったかということも。



「...はあ」



今日何度目かもわからなくなったため息をつき

私は泣く泣く執筆中の作品を終わらせる為

パソコンと向き合うのだった。

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