勇敢な白金の羊
光徒歴程(原典)第七章第一節『ul a ira』より
勇敢なる者の物語
勇敢なる者ウル・ア・イラの伝承
白金の毛並みを持つ羊 聖炎を吐き
悪しき者を倒し 大地の穢れを祓う
其の羊 劣勢の地に赴き民を救い
数多の狂猛な敵に立ち向かう
あるところに、螺旋の角と美しい白金の毛並みを持つ羊がおりました。その羊の名はウル・ア・イラ。ウルはイガルの加護を強く受け、聖なる炎を扱うことが出来ました。また、他の聖獣に比べ特に正義の心が強く、その信念は気高く尊いものであったと伝えられています。
ウルはアストロロジカ各地を巡り、弱き者のために戦いました。そのため、多くの土地に、彼の勇敢な物語が残されています。
そんな彼の最も有名な武勇伝は、“勇敢なる者”の称号を得るに至った、ある一つの戦いの話。
【ウルの毛皮】
星の子戦争六日目、暮れの刻。戦いに明け暮れ疲弊したウルは、体を休めようと虹の入江に立ち寄りました。そこには、既に多くの星の子たちがおり、戦いに疲れ、痛みや寒さに苦しんでおりました。そんな彼らに、ウルは自分の毛皮を少しずつ分けてやりました。しかし、星の子はあまりに多く、ウルは自分の身を守る白金の毛皮をほとんど無くしてしまいました。
そこに現れたのは、黒い炎を放つ恐ろしい化け物。弱々しい姿のウルを見つけ、化け物は不気味に笑いました。この好機を逃してなるものか、と。
ウルは逃げようとはしませんでした。それどころか、螺旋の角を化け物に向け、果敢に襲い掛かったのです。怯んだ化け物は一瞬退きましたが、今や力の差は歴然。次第にウルは追い詰められていきました。それでも、ウルは一歩も引かず、背に星の子たちを庇いながら、懸命に戦います。そんな彼を見て、星の子たちはボロボロの体で必死に立ち上がりました。
「皆、彼に続け!我々の共通の敵は黒い炎、穢らわしき屑星の獣だ!」
星の子の一人が声を上げると、白金の毛皮を纏った星の子たちが、それに答えて一斉に雄叫びを上げました。ウルと星の子たちは心を一つにし、化け物に立ち向かいました。その様は、まるで一体の巨大な羊のようでした。その百味一体にもなる強力な攻撃に、黒い化け物はあっけなく破れ去りました。
「ウルよ、気高き羊の王よ。どうか我々を、貴方の家来にしてほしい。」
星の子たちはそう言って、白金の毛皮を彼に返そうとしました。しかしウルはこれを拒み、
「我は従える器にあらず。しかしどうしても我の下につきたいというのならば、その毛皮を纏い、各地で弱き者のために戦うべし。白金の毛皮の加護ある者は皆、勇敢なる星の民として生き延びよ。」
と、言いました。虹の入江で充分に体を休めた後、星の子たちは毛皮を大切に纏い、ウルの言葉通り各地に散らばって戦いました。星の子たちはウルを『勇敢なる者』と呼び慕いました。
ウル亡き後、勇敢なる者の意思を継ぐ資格を持つ者として、彼から毛皮を賜った星の子の子孫が選ばれるようになりました。ウルの魂は流転の最中で、共に戦った勇敢な仲間たちの中から器を選んでいるのでしょう。