星と踊る山羊の夢
光徒歴程(原典)第七章第十一節『Pac rocir hibad』より
夢描く者の物語
夢描く者 パク・ロシル・ヒバドの伝承
星と踊り 大地と歌う
心を灯す かの者の調べ
ア シャンテ トゥエル リリ クル エルス
ア ルーヴェ トゥエル ララ アストマ
パク・ロシル・ヒバドはラングレヌスにある夢の泉に生息していた、鱗のない魚の下半身を持つ山羊です。彼は蒼石英で作られた笛を吹き、しばしば心の弱い者の夢に現れては、その者を不思議な踊りや音楽で勇気づけていたと伝えられています。またロシルは朗らかで優しい性格であり、星の子と歌ったり踊ったりして過ごしておりました。そのため、多くの星の子から愛され親しまれ、泉には常に多くの星の子達がおり、毎日とても賑やかだったそうです。
ロシルは星の王に呼ばれ、戦う力のない星の子達を匿い守るよう命じられました。彼は避難してきた星の子達と共に、毎日戦士達のために祈り続けました。祈りは聖樹の根を伝い、遠く離れた戦場まで届き、戦士達に魔力を与えました。それでも戦死してしまった子らのために、ロシルは宵刻も祈り続けました。
「どうか行く川の流れが澱まず、亡き星の子らが全て、再びこの地へ舞い戻られますよう。」
ロシルは星の子戦争終結後も生き続け、多くの星の子、聖獣達を見送りました。
最初に死んだのは祝声の魚。彼女は世界を愛したまま喉を閉ざしました。
二番目に死んだのは雷角の駿馬。彼は走り続けて光になりました。
三番目に死んだのは双頭の狐。彼は風のように去っていきました。
四番目に死んだのは白金の羊。彼の強き心が環の結び目となりました。
五番目に死んだのは聡慧なる蠍。彼の言葉が人々の魂を揺り起こしました。
六番目に死んだのは巨刃の蟹。彼の光が環に極白の輝きを与えました。
七番目に死んだのは猛り火の獅子。彼の名が希望と未来を紡ぎました。
八番目に死んだのは花冠の女王。彼女の身体は決して澱まぬ世界機構となりました。
九番目に死んだのは幸戴く鹿。彼女は多くの種をこの世界に蒔きました。
十番目に死んだのは黒金の角牛。彼は王の戻るべき座標を守り続けました。
「……とうとう、貴方と私だけになってしまいましたなぁ。」
幾万の時を生き続けたロシルは、泉の浅瀬で横になったまま、もう目を開けることも、体を動かすこともできなくなっていました。星の子らが彼の周りで必死に何か言っていますが、それももう聞こえません。代わりに、水の中を揺蕩っているような音と、キラキラと輝く星の羽音、地響きのような息遣いが聞こえてきます。
「……ああ、私にも、星の声が聞こえるようになって参りました。もう少し、もう少しと、今日まで生きておりましたが……、やはり、貴方を残して逝くことになりますか。」
地響きの音の起伏が、少し早くなりました。まるで泣いているように思えたので、ロシルはもういうことを聞かない肉を持ち上げ、優しく微笑んで見せました。
「夢を見ました。彫像の前を、順繰りに巡る夢。仮面か何かをつけているのか、視界ははっきりしませんでしたけれども、皆が一人ずつ、彫像の前に立っているのが分かりました。……姿形は違っていましたが、それは紛れもなく、あの時、星の王に呼ばれた我々なのです。もしもこの先、貴方が幾万、幾億もの時間を生き、我々を観測し続けてくださるならば、私が描いたこの夢が叶えられたことを、次に会う私にお伝えいただけますか。」
そう言うと、ロシルはふっと息を引き取りました。空は堰を切ったように曇り始め、やがて静かに雪が降りました。星の子らは夢の泉の底に祠を作り、そこに彼の聖躯と笛を安置し、石碑には彼が教えてくれた多くの歌を刻みました。以下は彼が題を「再会」とした歌の一節です。
時間は幻想に過ぎず、たった一瞬消えるだけ
再び暁光に目覚める時を、貴方と共に待ちましょう
再び黄昏に眠る時を、私と共に参りましょう
どうか全ての魂が、光の中で道に迷いませぬよう
貴方は座標、我々は船
願わくば、再び相見えんことを
夢の泉には今でも多くの観光客が訪れ、心の中で彼に悩みを打ち明けるのだそうです。するとその日の夜、優しい老人の声が頭の中に響き、励ましてくれたり、アドバイスをくれるのだとか。悩みがある方は、ぜひ夢の泉でお祈りしてはいかがでしょうか。