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極光なる一角の駿馬

光徒歴程(原典)第七章第十節『lsan suak Aiden』より

極光なる者の物語


極光なる者 ルサン・スアク・アイディーンの伝承



その駿馬一条の矢の如く

地上を駆ける稲妻

戦場を駆ける炎


その駿馬一条の矢の如く

それは閃光、闇を穿つ青

それは極光、天球の弓矢




 ルサン・スアク・アイディーンは月光色の毛並みと赤い瞳を持つ美しい一角馬であり、その角は常に雷を纏っていたとされています。アイディーンは双頭の狐と競い合い、度々彼らと行動を共にしていたことが、各地の伝承に残っています。

 アイディーンはある日海辺で傷ついた人魚を見つけ、介抱してやりました。人魚は彼に祝声を吐くと、すぐにどこかへ泳ぎ出ようとします。アイディーンは彼女を呼び止め、

「もし貴殿が嵐の大洋へ行くことがあれば、どうかその力で兄弟を救ってやってはくれまいか。」

 と、言いました。人魚は手を振り、海に潜って行ってしまいました。アイディーンは白い子供達を兄弟に持ち、遠い昔に彼らを置いて旅立ったことを思い出していました。

 しばらく後、アイディーンは人魚と島竜が恋仲になったことを知り、雷のように空を駆け、アリスタルコスに帰りました。アイディーンは人魚が兄弟と島竜を救ってくれたことに感謝し、二体を祝福しました。

「永遠など無いとしても、貴殿らの幸せを生涯永劫願わずにはいられない。私の限りある時の中で、この暁光を観測できたことを誇りに思う。」

 白い子供達もアイディーンと共に喜び、酒やご馳走を振る舞って島全体が祭り気分に包まれました。その晩アリスタルコスには、雨の代わりに白い花弁が降り注いだと伝えられています。


 それからというもの、アイディーンは時折故郷に帰り、兄弟や島竜夫婦の様子を見に行くようになりました。双頭の狐とはよくその話を肴に酒を交わしていましたが、ある時アイディーンははたと夫婦の話をしなくなりました。それは星の子戦争が始まった頃、二日目の輝刻のことでした。双頭の狐が理由を尋ねると、アイディーンは暗い顔で答えます。

「……やはり永遠など無かった。無いからこそ、命は輝かしい。しかし、もうその輝きを見ることは出来ない。私が壊した。星の子らが奪った。」

「まさか、島竜殿の身に何か……。」

 そう言いかけた狐を制し、アイディーンは事の顛末を彼に話して聞かせました。自分が傷ついた星の子らを救ってほしいと人魚に頼んだこと。その結果人魚はその力を過剰に求められ、絶望し、自ら喉を裂いて命を絶ったこと。

「私は私自身を許せぬ。星の子らを許せぬ。聖獣などと、人馬宮などとして、星の王の元にいる資格もない。」

 アイディーンは星装を脱ぎ捨て、地面に投げ捨てました。狐は黙って彼の話を聞いていましたが、やがて片方の頭で彼の星飾りを拾い上げ、もう片方の頭で彼を見ながら口を開きました。

「それでも我が同胞か。我が友か。永遠など無いと、誰が観測した。魂は巡り、再び島竜殿と人魚が出会うやもしれぬ。勝手に可能性を捨て、悲観するなど、島竜殿に失礼であろう。」

 アイディーンはそれでも顔を上げず、首を振るばかり。双頭の狐は一陣の強い風を送り、彼の顔を無理矢理持ち上げました。

「貴様が真に雷の聖獣、ルサン・スアク・アイディーンであるならば、人魚が帰るべき世界の有り様を、毅然として守り抜かなければならぬ。それが貴様の、島竜殿と彼女を繋げた者の責任なれば。」

 狼は唸るような声で怒鳴りました。そうして星飾りをぐいと押し付け、狼は立ち去ってしまいました。


 アイディーンは戦場を駆け巡りました。自身の目を焼き潰し、心を捨て、雷で黒き炎を悉く薙ぎ払いました。焼き潰した目から血の涙を流しながらも、彼は星の子らを決して傷つけませんでした。

 猛々しく戦う様を、星の子らは「大いなる光の矢」と呼び、天球が放った裁きの矢として畏れ崇めました。星の子戦争三日目の宵刻、彼が死に際に放った閃光の雨は、まるでかつて鳥が破った空の大穴から青き炎が飛び散った時のようだったと伝えられています。

 



歴程の表紙に描かれた三叉の両刃槍は、大いなる光の矢、つまり星の子戦争におけるアイディーンの姿を表しているとされています。

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