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呪いの一族と一般人  作者: 守明香織(呪ぱんの作者)
第一章 呪いを見つけてしまった話
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第9話 現れる術者



「術者が誰か分かったんですか?」

 碧真(あおし)の問いに、(じょう)が頷いて口を開く。

 

「被害者と関係ある人物の中で、疑わしいのは母親の姉。名前は鬼降魔(きごうま)幸恵(ゆきえ)。四十二歳。(うま)憑きだ。二十八歳の時に一般人の男性と結婚し、三ヶ月前に離婚して、十一歳の一人息子とアパートで二人暮らしをしている。今日の午前中に元旦那に子供を預けて以降、行方が掴めなくなっている」


「術者は、自分の妹の子供を狙ったという事ですか? 離婚した旦那ではなく?」

 美梅(みうめ)は信じられないと言いたげな表情を浮かべる。丈は苦い顔で頷いた。


「鬼降魔幸恵は実家とは疎遠で、家族とは妹の結婚式以来会っていなかった。両親は一ヶ月前に交通事故で二人とも亡くなっている。妹とは、両親の葬式の時に会っているな。被害者に会ったのも、その時が初めてだ。子供間のトラブルはなかったようだ」


 妹の子供に対して何か恨みがあったのだろうか。けれど、子供同士の間でトラブルは無いのに、一度しか会っていない妹の子供を恨むだろうか。


「被害者の少年は鬼降魔の血を引いていて、力があった。しかし、呪いをかけられてから加護を使役出来なかったと言っていた。鬼降魔幸恵の子供は、鬼降魔家の力は受け継がなかったようだ。もしかしたら、妹の子供が持つ鬼降魔の力を自分の子供に与える為に奪い取ろうとしたのかもしれない」


 調べた情報と推測を述べた後、丈は口を閉じた。


「……来ます」

 美梅が呟き、日和(ひより)を除く四人が立ち上がった。


 ザワリと、空気に何かが混じるような気配。鳥肌が立った日和の腕を、美梅が掴む。


「外へ出るわよ。中では自由に動けない」

 総一郎(そういちろう)、丈、碧真は既に外へ出ていた。美梅に腕を引かれながら、日和も外へ出る。


 辺りは、すっかり夜になっていた。

 こちらの心を急かすように、庭の草木が激しい音を立てた。湿気を帯びた生温い風が肌に纏わりつく。


 離れから漏れる光と庭にある石灯籠(いしどうろう)に照らされて見えたのは、神社で見た大量の黒い虫が日和達を取り囲むように(うごめ)いている姿だった。


「……真正面から来るとか、短絡的すぎる馬鹿だな」

 碧真が見ている先には、大きな黒い影が揺らめいていた。


「日和さん。私から離れないで」

 日和の一歩前に立った美梅の横に、大きな黒い影が現れる。

 美梅に付き従うように存在していることから、美梅の加護の(とら)なのだと感じた。


 鬼降魔家の四人は、警戒するように、碧真の先にいる黒い影を睨みつけている。日和には黒い影にしか見えないが、あれが呪いをかけた術者が使役している加護の(うま)なのだろう。


 黒い影が(いなな)くと、午の両脇の茂みが音を立てて揺れた。ガサガサと茂みを掻き分けて、小さな黒い影が姿を現す。石灯籠の明かりに照らされて、その正体が明らかになった。


(ぬいぐるみ?)


 そこに立っていたのは、赤いリボンをつけた可愛らしいクマのぬいぐるみだった。

 クマのぬいぐるみが二本足で歩き出すと、何かを引きずる音がした。ぬいぐるみが引きずっている物が、明かりに照らされて光を放つ。


 ぬいぐるみが引きずっていたものは、包丁だった。


 日和は顔を引き攣らせる。

 茂みの影から、新たにウサギ、ペンギン、ひよこのぬいぐるみが現れた。動くぬいぐるみというだけなら、ファンタジーのような光景ではあるが、他のぬいぐるみの手にもナイフやハサミやノコギリが握られている為、ホラーでしかない。


 碧真は無表情で人形達を見下ろす。人形達の黒い(つぶら)な瞳が碧真を捉える。人形達は一斉に碧真へ飛びかかった。

 素早い動きで跳躍したぬいぐるみ達の得物が、月明かりを反射させて怪しく光る。


 ぬいぐるみに向かって、碧真が何かを投げつけた。突き刺さる音が複数聞こえたと同時に、ぬいぐるみが地面に縫い付けられる。ぬいぐるみ達の体には、細い銀色の棒が突き刺さっていた。ぬいぐるみ達がバタバタと動いて暴れるが、深く突き刺さった棒が抜ける事はなかった。


「わざわざ複数用意したのなら、別々に襲わせればいいものを……」

 馬鹿にするように、溜め息混じりに悪態をついた碧真が指を鳴らすと、銀色の棒から青白い炎が上がる。ぬいぐるみが次々と燃えて、黒い(ちり)となって宙に消えていった。


「すご……」

 現実では起こらない光景に、日和は呆然と呟く。


「あれくらい、私にも出来るわ」

 美梅が張り合うように不満気に呟いた。


 午である黒い影が動く。碧真に向かって真っ直ぐ突き進むかと思った影は、跳躍して美梅に向かって来た。


「美梅さん」

 静観していた総一郎が美梅に声をかける。黒い影が襲いかかって来るというのに、美梅は嬉しそうに笑った。


「ああ、この子の餌になってくれるのね」

 美梅が、自身の横にいる黒い影を撫でる。美梅が使役する寅の体が赤い光を帯びた。


「喰らいなさい」


 風が巻き起る。

 赤い光を纏った寅が、跳躍してきた午に飛びつく。午は攻撃を(かわ)そうと体を(ひね)ったようだが、寅は逃さないとでも言うように喰らい付いていく。


 次から次へと起こる不可思議な出来事。日和は目の前の光景を呆然と見ている事しか出来なかった。


「日和さん!」


 美梅が日和の手を引っ張る。

 突然手を引っ張られた事に驚いていると、黒い小さな影が日和の体を横切った。驚いて振り返ると、黒い影が横切った場所に生えていた草が、刃物で切られたように宙を舞っていた。


 黒い影が飛んできた茂みの方へ視線を向けると、無数の黒い小さな影が日和に向かって飛んでくるのが見えた。

 美梅が懐から取り出した扇子(せんす)を開いて、飛んでくる影に向かって投げる。


 投げられた扇子が宙に浮いたまま回転する。回転した扇子が、襲いかかってきた無数の影を弾いていく。弾かれて粉々に砕けた黒い小さな影は、地面に落ちると、塵になって消えた。


 美梅が守ってくれなければ、日和の体は細切れにされていただろう。日和はサッと顔を青ざめた。


 美梅は髪に挿していた(かんざし)を一本抜き取り、黒い影が飛んで来た茂みに向かって投げつける。


「ぎゃあぁぁっ!!」


 悲鳴が上がり、日和はギョッとして茂みを見る。

 木枝が折れる音と葉が擦れ合う音がして、黒い影が立ち上がる。黒い影は呻きながら、茂みを押し潰すように前のめりに倒れた。


 石灯籠の明かりに照らされた黒い影の正体は、一人の女性だった。



閲覧、いつもありがとうございます。

次回は7月31日(金)の12:00投稿です。

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