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呪いの一族と一般人  作者: 守明香織(呪ぱんの作者)
第一章 呪いを見つけてしまった話
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第5話 理不尽にも程がある



「殺すって……そんな」


 日和(ひより)狼狽(うろた)える。

 殺す、殺されるなど殺伐としたものは、別世界のものだと思っていた。それが、突然目の前にやってきたのだ。実感は無いが、嫌な気持ちになる。


「変質した呪いは、我々でも解呪が出来ません。術者が何を取り替えようとしたかはわかりませんが、被害者の状態を見ると、小さな物ではないでしょう。代償は大きい筈です」


 総一郎(そういちろう)は目を細める。


貴女(あなた)は、あの神社で何を見ましたか?」

 尋ねてはいるが、確信を持って聞いているのだとわかる。日和は重たい溜め息を吐き出した後、観念して口を開く。


「……木に(くく)り付けられた二体の人形と、地面に描かれた魔法陣みたいなものを見ました」


「しかし、何故その場所に? 参道からは外れていたと聞いていますが」

「……お社の近くで見つけたミニカーを拾おうとしたら静電気が起きて、驚いて足を踏み外して転がり落ちてしまったんです」

「ダッサ」

「うざいです。いちいち突っかかってこないでください陰険黒づくめ」


 馬鹿にしてきた碧真(あおし)を見ずに、サラリと馬鹿にし返す。(じょう)が引き攣った顔をする。日和に言い返そうと口を開いた碧真を制するように、総一郎が口を開く。


「貴女が触ったものは恐らく、呪いを隠蔽(いんぺい)する為の術を施した媒体です。日数をかける呪いは、他人に邪魔されないように目眩(めくらま)しの術をかける。貴女が媒体に触れたことで、術が破れてしまったのでしょう」


「隠蔽していた術を破った上に呪いを見てダメにした。殺されるな」

 碧真は感情のこもらない平坦な口調で言う。


 日和は呪いをかけた人に対して、されたくないことを『フルコンボだドン☆』してしまったらしい。


「あんた、何でまだ生きてんの? 俺ならとっくに殺してる」

「ちょっとぉ!! ……ん? 待って! 呪いを見たのは、あなたも同じじゃない!?」

 日和の後に呪いを見た碧真も、術者にとっては”殺さなければならない対象”になるのではないか。


「呪いは、あんたが見た瞬間に変質した。変質した後の呪いを見ただけの俺は殺される対象ではない。狙われるのは、あんただけだ」

 

(うわー。嫌なボッチ……)


「術者は自分を守り、呪いを成就(じょうじゅ)させる為に目撃者を殺す。タイムリミットは今夜でしょう。一刻も早く、貴女の命を奪いたい筈です。狙われるのは、呪いの力が高まる夜の間でしょうね」


 今はまだ午前中。夜が来るまで、あと数時間だ。


「貴女の体には、呪いの残滓(ざんし)があります。呪いが変質した際に、目撃者を追えるように目印を付ける術も施していたのでしょう」

(知らない内にマーキングされてた。というか、そんなに呪いに労力を()けるのなら、もっと良心的なことに使おうよ……)


「貴女は力のない一般人。目印をつけられたのなら、昨夜の内に手を出されていた筈です。我々も、昨夜は貴女の家を見張っていたのですが、術者は姿を現さなかった。何か手を出せない理由があったのか、もしくは動けない理由があったのか……」


(見張っていたって……呪いかけた人より、この人達の方が危ないんじゃない?)

 名前だけではなく、家まで特定されていた事に、日和は恐怖を感じた。


「赤間さん。何か他に、あの神社で見なかったか?」

 丈に尋ねられ、日和は記憶を探る。呪いの現場は、碧真も見ているだろう。日和は、ふと思い出す。


「馬の(いなな)き」

 いない筈なのに、確かに聞こえた馬の嘶き。日和が説明すると、総一郎達は眉を寄せた。


午憑(うまつ)きですかね」

 碧真がボソリと呟く。


「可能性は高いでしょう。丈、調べて頂けますか?」

 総一郎の言葉に、丈は頷く。


「午憑きは多いから、時間が掛かるぞ」

 丈の周りに不自然な風が起こり、日和の肌が粟立つ。


 無数の小さな黒い影が丈の周囲に現れて、四方八方に駆け出す。黒い影の一部が日和の前を横切って、宙へ消えていった。


「な、何!?」

 日和は慌てて周囲を見回すが、何事もなかったかのように室内は静まり返っていた。


 総一郎はニコリと笑みを浮かべる。


「さて、今お話したように、貴女は命を狙われています。私達は、一般人である貴女を守る責務がある。今日は、この屋敷に滞在して頂けますか?」

「え。お家帰りたい……」


 呪い殺されるなど御免だが、この人達と一緒に居たくない。丈はまともな人だろうが、それ以外の二人は日和の精神をゴリゴリと削ってきそうだ。


「明日の朝には帰れますよ」

 キラッキラの笑顔で総一郎は言う。


「拒否権は……」

「”()()()()()()()()安全に家に帰す”とお約束しました。私は、貴女との約束を守ろうとしているだけですよ?」

 総一郎は先程の約束を持ち出した。拒否権は存在しないらしいと、日和は項垂(うなだ)れる。


「どうせ、大学なんて遊びでしかないんだろう? それなら、行かなくても問題ないだろうが」

 碧真にバカにするように言われ、日和はキョトンと首を傾げた。


「大学?」

 大学に進学していないから知らないが、碧真の発言は全国の大学生や関係者に失礼ではないだろうか。


 碧真が何故急に大学の話をしたのかを理解して、日和は苦い表情を浮かべた。


「私は大学生じゃない。三十一歳だよ」

「は? 嘘だろ。年上?」

 碧真は驚いた顔をした後、マジマジと日和の顔を見る。


 日和はよく大学生と間違われる。仕事でスーツ着ていても『就活中の学生』と思われるし、年齢を言うと『意外と歳がいってる』と驚かれる。日和は声や行動が幼いらしい。また、借りているアパートは大学の近くにあるので、碧真は日和を大学生だと判断したのだろう。


「本当ですよ。日和さんは、碧真君より四つ上です。私より今は二つ下ですね」

 総一郎が答える。年齢まで知られていたらしい。どこまで情報が漏れているのだろうか。


「それにしては、ガキっぽいな」

 碧真の言葉に、日和はショックを受ける。”年相応の大人のお姉さん”に憧れている日和にとって、幼く見られることは嬉しくない。大人っぽい色気と落ち着きが切実に欲しい。


「仕事は?」

 日和は、またグサリと心を(えぐ)られる。


「……今は無職」

「うわー」

 日和を可哀想な目で見た後、碧真は勝ち誇った笑みを浮かべる。


「じゃあ、断る必要ないだろう。ひ・ま・じ・ん・ニ・ー・ト」

「好きでニートじゃない!! 仕事あるなら働きたいわ! お金欲しいわ!! てか、何で初対面の私にそんなに突っかかってくるの!?」

 喚く日和に、碧真は溜め息を吐く。


「あんたが先に呪いを見つけたせいで、俺の仕事が面倒になったんだ。あんな田舎まで二回も出向いたり、拘束して連れてきたり、護衛だったり……嫌味言うのは当然だろ」

「理不尽すぎる!」


 確かに仕事は増やしたのだろうが、好きで見つけたわけではない。誘拐されるわ、雑に扱われるわ、暴言吐かれるわ、命を狙われるわ。理不尽以外の何物でもない。

 悔しがる日和に、丈が申し訳なさそうな顔で謝る。


「本当にすまない。君が無事に家に帰る為にも、協力して欲しい」

 日和は投げやりになって頷いた。


「お分かり頂けたようで何よりです!」

 日和はジト目で総一郎を睨む。満面の笑みが腹立たしくて堪らなかった。



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