表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪いの一族と一般人  作者: 守明香織(呪ぱんの作者)
第一章 呪いを見つけてしまった話
4/360

第4話 禁呪【取リ替エ】



「呪い?」

 日和(ひより)はポカンとする。


「はい。貴女(あなた)は呪いなどの類は信じない方でしょうか?」

「……無いとは思いませんが、私の考えでは、呪いは思い込みの場合もあるんじゃないかと。妖怪みたいな感じで、説明出来ない現象に理由付けする為や存在した方が都合がいいから作り上げている人もいるんじゃないかなと思っています」


 妖怪も幽霊も宇宙人も、存在の否定はしない。日和は全知全能ではない。見たことがない、知らないから、存在しないということはないと思う。ただ、空想や妄想という点も否定は出来ないと思っている。


 総一郎(そういちろう)は満足そうに頷く。


「確かに、その要素もあるでしょう。しかし、今回は存在する呪いです」


 総一郎が(じょう)を見遣る。丈は頷き、日和の前に三枚の写真を並べて見せた。


 一枚目の写真には、溌剌(はつらつ)とした笑顔を浮かべた少年の姿が写っていた。

 二枚目の写真にも同じ少年が写っていたが、苦しげな表情を浮かべて横たわっている。少年の腹部には、黒い一本線が描かれていた。

 三枚目の写真は、腹部を大きく撮ったもの。二枚目の写真で黒い線だと思っていたものは、線ではなかった。刃物で切り裂かれたような傷口に、昨日神社で見た大量の黒い虫が張り付いていた。


 日和は顔を歪めた。まだ小学生くらいの子が酷い怪我を負っていること。その上、得体の知れない虫が体を這っているなど只事ではない。


 言葉を失くす日和を見て、総一郎が口を開く。


「私達は、呪いにまつわる仕事をしています。呪術を使って、呪いの調査や解呪をする。今回も、その子の両親から依頼を受けて調査をしていました。そこで、呪いが行われている場所を見つけた」


 日和はハッとして、写真から顔を上げる。総一郎が頷いた。


「ええ。昨日、貴女が訪れたあの神社です」


 昨日見たものが、日和の頭の中を()ぎる。

 地面に描かれた魔法陣のような紋様、二体の人形、大量の黒い虫。『儀式みたいだ』と感じたが、まさしく”呪いの儀式”だったということだ。


「昨日、調査の為に神社を訪れた碧真(あおし)君が見つけたのは呪具と術式、そして、貴女の髪留めでした。また、貴女が神社から走り去るところを碧真君が目撃しています」


 総一郎が、にっこりと笑う。


「これは、貴女が『呪いをかけた術者』という風に見えますね」


「は!? なんでそうなるんですか!? 違います!!」

 日和は目を見開いて驚く。濡れ衣を着せられて、心臓がドクドクと嫌な音を立てた。


「私はその子のことを知らないし、呪う理由がない! 第一、人を呪う方法なんて知りません!!」

「たまたま見かけた幸せな家族が妬ましくて呪ったとか?」

 嫌味な笑みを浮かべて言う碧真を、日和はキッと睨みつける。


「私は見ず知らずの人の不幸を願って傷つけるほど、人格破綻していない!!」

「へぇー、どうだか。今まで人を呪いたいと思ったことはないのか? 殺したいとか、妬ましいとか、憎いとかさ」


「っ、それは……」

 日和は動揺して口を(つぐ)む。


「あるんだな? はっ! 立派な人格破綻者じゃねぇか」

 碧真が嘲笑う。


 日和の胸の中に、過去の想いがジワジワと蘇る。想いが重たい鎖のように絡みついて、指先が震えた。


「……ええ、ありますよ。お綺麗に生きてきたなんて言わない。人に対して、嫉妬も恨みも殺したい思いも抱いたことがある。ドス黒いもの持ってるよ! 呪う力があるのなら、とっくの昔に何人も呪ってる!!」


 想いを断ち切るように、震えた指先を握りしめる。日和は真っ直ぐに、碧真を睨みつけた。


「けど、私はそんな力を持っていない!! もう誰かを呪いたいなんて思ってないし、呪いの力なんていらない!! 誰も呪ってなんかいない!!」

 感情が昂りすぎて目に涙が滲む。碧真が僅かに目を見開いた。


「赤間さん、落ち着いて。……碧真、総一郎。二人共、(たち)が悪いぞ」

 丈が(とが)めると、総一郎は苦笑した。


「すみません。少し揶揄(からか)ってみたくなりまして」

「……は?」

 日和は呆けた声を出す。総一郎は呑気に笑っていた。


「貴女が術者ではないという事は、最初からわかっています。あれは、一般人には出来ないものです。ほんの(たわむ)れのつもりでした」

 混乱する頭で、ゆっくりと総一郎の言葉を理解した日和は……。


「はあぁ!!???」

 キレた。


 罵倒したいが、怒りが凄まじくて適当な言葉が出ず、金魚のように口をパクパクさせる事しか出来なかった。


「でも、貴女は嘘を吐くことが大変不得手なようですね。呪う力があるなら呪っているなど、愚直にも答えてしまうとは」

 総一郎の言葉に、碧真が追い討ちをかけるようにニヤリと笑った。


「さっきの『嘘を見破れなかったら〜』のドヤ顔はなんだったんだろうなぁ?」


「……あなた達、二人とも大嫌いだぁ!!」

 日和は涙目で声の限り叫んだ。自由に動けるのなら、今すぐ二人に飛び蹴りを喰らわせて走って逃げただろう。


「二人共、ふざけすぎだ! さっさと本題に入れ。……赤間さん、本当にすまない」

 三人の中で、まともな人は丈のみらしい。


「俺達が君を連れてきたのは、君が何を見て、何が起こったのかを知りたかったからだ。場合によっては、君の命が危ない」

 丈の言葉に、日和は驚く。


「私の……命が危ない?」

(どういうこと? 呪われたのは、この写真の男の子じゃないの?)


「まず、今回行われた呪いについて、お話しましょう」

 総一郎が真面目な顔に戻り、口を開く。


「今回の呪いは、鬼降魔(きごうま)家でも ”禁呪” とされている『取リ替エ』という術です」



■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 鬼降魔家 禁呪【 取リ替エ 】


 二つの対象の所持しているモノ同士を入れ替える術。

 取り替えられるモノは、所有する持ち物、健康、寿命、能力、地位、恋人、存在など様々。

 取り替えるモノは複数指定可能だが、対象同士が所持しているモノでなくてはならない。



 【 方法 】


 一、依代(よりしろ)を二体用意する。


 二、両方の依代に、取り替えたいモノの名称を書く。


 三、取り替えを行いたい者達の体の一部を、別々で依代に埋め込む。


 四、術式を描き、呪いを行う場を作る。


 五、呪いたい相手の体の一部を埋め込んだ依代を十三日間かけて破壊していく。効果が表れ始めるのは十日過ぎ。十三日後に術が完成し、取り替えが完了する。


 【 注意点 】


 一、依代は十三夜をかけて壊すこと。十三夜を迎える前に壊し切ってはならない。また、十三夜目には必ず破壊すること。破った時、呪いは成立せず、無効となる。


 二、この呪いは他人に見られてはならない。破った時、呪いは変質し、術者に代償を要求する。代償の大きさは取り替えたいモノによって異なる。


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■




「禁呪?」

 日和が首を傾げると、術の説明をした総一郎が頷く。


「鬼降魔家には ”禁呪” とされる術があります。かつては使われていましたが、大きな災厄を招いたものや危険すぎる術は、歴代の当主達によって封印されています。禁呪を使用した場合、術者は罰を受ける。一族では、禁呪は使ってはならないとされています」


 総一郎が眉を寄せて表情を曇らせる。


「ただ、禁呪に手を出す者もいます。一部の者が残した書物または口伝(くでん)によって、禁呪が受け継がれている。今回の術者も禁呪の知識があったのでしょう」


(呪いだけでも危険そうなのに、”禁呪” って相当危ないんじゃない?)

 日和は顔を(しか)める。


 危険な術を使用してまで、術者は何を取り替えたいのだろうか。


「条件を破った場合、呪いは変質します。本来の願いは叶わず、術者に相応の代償を求める。変質した呪いを元に戻したければ、呪いを変質させた要素を取り除かなければならない」


 日和はハッとする。日和が転がり落ちて『呪いを見た』のは、条件を破る事になるのではないだろうか。

 日和が見たことで呪いが『変質』し、術者は代償を支払わなければならなくなった。日和の命が危ないというのは……。


「呪いを成功させる為に、術者は貴女を殺すでしょう」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ