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呪いの一族と一般人  作者: 守明香織
第三章 呪いを暴く話
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第7話 村の祭り



 残り二軒の物件は隣接してあった為、あっさりと見学は終わった。

 腕時計で時間を確認すると、時刻は昼の一時を過ぎている。


「よかったら、親睦も兼ねてウチで飯を食いましょう!」

 富持(とみじ)の提案で、お昼ご飯を御馳走になる事になった。


 再び村長宅に戻る。

 最初に案内された客間で、村長を含めて六人で食卓を囲んだ。


 座卓の上には素麺(そうめん)冬瓜(とうがん)の煮物、ピーマンの炒め物、ナスとキュウリの漬物、茗荷(みょうが)の甘酢漬けが並んでいた。どれも美味しくて、日和(ひより)は笑顔で食べ進めた。


「どうでした? 気に入った家はありましたか?」

 村長の木木塚(ききづか)の言葉に、壮太郎(そうたろう)は頷く。


「どの家も風情があって良かったですね。特に、最初に見せて頂いた家が興味深かったです。ねえ、(じょう)君」

 丈が頷く。木木塚は上機嫌になった。


「あの家は、二年程前にリフォームしたばかりですからね。綺麗だし、立地も良くてオススメですよ」

「本当、いい家ですよね。でも、どうして空き家になっているんですか?」

 壮太郎が興味津々と言った様子で尋ねる。


「前は、年寄りの婆さんが一人で住んでいました。加齢で体が動きにくくなって、二年前に家を改装したんです。ところが、体調を崩して入院して、一ヶ月前に亡くなりました。婆さんの子供も全員自分の家を持っているから、空き家になったというわけです」


「そうなんですね」

 木木塚の説明に、壮太郎は納得した様に頷いた。


 日和の向かい側の席に座る富持がニコニコ笑いながら口を開く。


「日和さんは、どの家が気に入りましたか?」

 日和は食事の手を止めて考える。

 家を見るのは楽しかったが、本当に移住するわけではないので答えにくい。


「そうですね。どの家も良い雰囲気でしたし……一番を決めるのは難しいですね」

 日和は言葉を濁して愛想笑いで誤魔化した。


「何なら、この家に一緒に住むのはどうですか?」

 富持の提案の意味が分からず、日和は戸惑う。


 よく知りもしない他人と同居など、日和には考えられない。富持にとっては普通のことなのだろうか。

 富持はジッと日和を見つめていた。その目が何を考えているかは、日和には察する事は出来なかった。


「日和さんは慎重な性格ですから、じっくり考えたいと言っていました。あと二日はあるし、ゆっくり決めたら良い」

 丈が助け舟を出す。日和は安堵しながら頷いた。


 食事を再開した日和を、富持がジッと見つめていた。



 食事を終えて小休憩を取った後、富持が引き続き村を案内してくれる事になった。


 村の中を歩くと、村人達の生活の様子が見えた。

 畑仕事をしている人、トラクターに乗ってのんびり移動する人。縁側で野菜の下拵えをしている人、庭に洗濯物を干している人。

 長閑(のどか)な村の日常が広がっていた。


「ここが集会場です。明日、この場所で祭りが行われます」

 集会場には公民館のような小さな建物があり、建物の周りは広場のようになっていた。


 シャン、シャン。

 複数の鈴が鳴る音が聞こえて、日和は立ち止まって視線を向ける。


 広場にある木造の小さなステージの上で、白い着物を着た十代前半であろう二人の少女が舞を踊っていた。双子なのか、二人はよく似た顔をしている。

 四十代半ばくらいの年齢の女性がステージ前の椅子に腰掛けて、少女達に舞の指導していた。


 神楽鈴(かぐらすず)を手に持った少女達は、ゆったりとした丁寧な動きで息ぴったりに舞う。

 少女達の舞は、以前日和が有名な神社で見かけた神楽舞によく似ていた。


「あれは?」

 丈の問いに、富持がニコリと笑う。


「明日の夜、村の守り神を称える豊穣の祭りが行われるんですよ。数年に一度行われる祭で、村娘三人が選ばれて巫女役になります。あの娘達は今回の巫女役です」


「あの三人が巫女役なんですか?」

 壮太郎は、”少女達を指導している女性も含めるのか”という意味の問い掛けをする。富持は可笑しそうに笑って首を横に振った。


「アレはあの二人の母親で、舞の指導役です。何より、巫女には大事な条件がありますから」


「条件?」

 日和が首を傾げると、富持はニヤリと笑みを浮かべた。


「ええ。巫女は代々、生娘(きむすめ)が条件なんです」

(…………………まあ、色々な風習があるもんだな)


「お祭りかー。見てみたいなー」

 壮太郎の言葉に、富持は嬉しそうに頷く。


「ええ。皆さんも参加してもらう予定です。祭り自体は小さくて面白く無いですけど、酒と御馳走をたくさん用意しますから」

「それは楽しみですねー」

 壮太郎はニコニコと笑顔で答えた。



 集会場を離れて、再び村の中を歩く。

 村ですれ違う人は、大半が男性だった。中年の男性達が日和に向かって親しげな様子で話しかける。


(あ、女の人だ)

 六十代くらいの女性が、五歳くらいの男の子を連れて歩いているのを見つけた。野菜が入った籠を背負っている事から、畑仕事の帰りである事が窺える。


「こんにちは」

 日和が挨拶すると、女性が顔を上げてこちらを見た。女性の顔が一気に強張る。女性はぎこちなく会釈をすると、子供の手を引いて急いで去ろうとした。


「母ちゃん。痛いよー」

(お母さんだったの!? てっきり、お孫さんかと思ってた)

 足早に去っていった親子達の後ろ姿を見ながら、日和は自分の頬を両手で押さえる。

 

(私、不審者っぽかったのかなー) 

 接客業ばかりやってきたからか、日和は日常的に知らない人からよく話しかけられる。人当たりの良さには自信があったが、怖がらせてしまったようだ。


「すみませんねぇ。村の女達は人見知りが激しくて。後でよーく、言い聞かせときますので」

 富持が申し訳なさそうに笑う。日和は慌てて首を横に振った。


「いえ、急に話かけて怖がらせてしまったみたいですし。むしろ、こちらが謝らなければ」

 子供がいる親なら、知らない人に対して警戒するのも頷ける。大切な子を守りたい母親の心だろう。それを責める事は出来ないし、したくはない。


「怖がらせたままじゃ、気まずいね。日和ちゃんも村の一員になるなら、女性達と仲良くしたいよねー」

 壮太郎が同意を求めてきた。話を合わせた方がいいだろうと、日和は頷く。


「富持さん。村の女性達と話をする事は出来ませんか?」

 壮太郎のお願いに、富持は少し思案した後、笑顔で頷いた。


「明日の朝、女達は祭りの準備で集会場に来ます。その時に話が出来るようにしておきますよ」

「助かります。よかったね、日和ちゃん」

 壮太郎はニコリと笑った。


 壮太郎が話しをする機会を作ってくれた。初めから話しの場が作られていれば、警戒されて逃げられる事もないだろう。



 夕方の四時。

 村の案内が終わり、日和達は村長宅を後にする。夕食も一緒にと誘われたが、丈が宿に夕食を頼んでいたので辞退した。


 丈の車に乗り込んだ四人は、宿へ向かう。


「にしても、よく歩いたねー」

 壮太郎が伸びをして、車の座席に深く沈み込む。


(本当に疲れた……)

 歩き疲れというよりは精神的な疲労を感じて、日和は息を吐き出す。


「ピヨ子ちゃん。あの人に随分と気に入られちゃったね」

 壮太郎に揶揄(からか)われ、日和はゲンナリとした。


 富持はやたらと日和に絡んできた。あまりにも話しかけられるので、碧真(あおし)のように無表情でいた方が良かったかもしれないと後悔したくらいだ。


「赤間さん。宿に着いたら、ゆっくり休んでくれ」

 丈に言われて、日和は頷く。


(宿に着いたら、畳の上でゴロゴロしたい。自堕落に過ごしたい……)



 宿に着いた日和は、碧真と同室だった事を思い出す。 

 宿泊する部屋に置かれた座卓に顎を乗せて、日和は顔を歪めた。


(ううっ……自堕落にゴロゴロしたかったのに!!)

 願いが打ち砕かれた事に落ち込み、日和はこれから始まる気まずい時間に「ハハハ」と乾いた笑いを漏らした。


「キモい」

 日和を見下ろした碧真が顔を(しか)めて切り捨てる。日和がジロリと睨むと、碧真は呆れ顔で溜め息を吐いた。


「それに馬鹿だな」

「……突然の罵倒。何故に?」

「あんたは油断しすぎだ」

 日和は首を傾げた後、本名を名乗ろうとした時の事を思い出す。


「仕方ないでしょー。突然名前聞かれたらさー。それに、誤魔化せたから良いじゃん」

「それもあるが……。まあ、いい。あんたには何を言っても無駄だろうな」

 どうやら、碧真が言いたいのは本名の事だけではないらしい。どの事か考えようとしたが、日和は面倒になって思考を放棄した。


「あー、甘い物が食べたい。宿の食事って、デザートとかあるのかなー」

 日和は夕飯に思いを馳せた。


「食い物の事ばっかだな」

 碧真は呆れ顔で日和を見下ろした後、何かに気付いたように窓へと視線を向ける。日和もつられて窓の外を見た。


 少し離れた木陰から、村の人達であろう数人の中年男性がこちらを見ていた。

 日和達が気づいた事に男性達も気づいたのか、ゆっくりとした動きで解散して行く。


「覗き見とか、嫌な連中だな」

 碧真が不愉快そうに呟き、窓のカーテンを閉めた。


「村の外から来た人が珍しかったんじゃない? 移住希望者だって伝えているから、新しく村の一員になる人を見たかったのかも」


「だから、あんたは馬鹿なんだよ」

 碧真の言葉に日和が首を傾げた時、廊下からギシリと床の軋む音が聞こえた。


 部屋のドアの前に誰かが立つ気配がする。碧真は鋭い目でドアを睨みつけた。



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