第六回星新一賞ジュニア部門応募作品「理想的な男と女ロボット」
「理想的な男と女ロボット」
「今日はケントが好きなハンバーグよ」
「よかったな、ケント」
「やったー!」
今日は、ロボットのお母さんが来てちょうど2年の日。前のお母さんがいなくなっちゃうのは悲しかったけど、ロボットのお母さんは前のお母さんよりもずっと優しくて、僕は大好きなんだ。
「じつはお父さんとお母さんから、ケントに重大発表があります」
「え!なになに」
「じつは、私のお腹の中にケントの弟がいます」
「じゃ、じゃあ僕はお兄ちゃん!」
「うん、そうだよ」
それから僕は、お母さんをいつも以上に大切にして、お手伝いをたくさんしました。すると無事に、僕の弟のライは生まれて来ました。それから6年後。
「お父さん、僕気になることがあるんだけど」
14歳になった僕には1つ疑問がありました。それは、この周辺の町にロボットじゃない女の人がいないことです。学校や町のお店には人間にそっくりの女の人のロボットがいるので今まで気にした事がなかったのですが、よく考えたらこの町には人間の女の人が全くいないのです。
「たしかにそうだな。これにはロボットのある欠点が関係しているんだ。それは、男のロボットは女の子しか産めず、女のロボットは男の子しか産めないこと。もう中学生なんだから、ここから先は自分で調べてみなさい」
お父さんに言われた通りに僕はインターネットでロボットのことを調べてみました。すると、いろいろなことが分かったのです。
お父さんが生まれる前、ある会社が日本の少子化を止めるため、理想的な男と女ロボット作った。人間そっくりで子供を産むこともできるロボットだ。ロボットはあっという間に世界に広まり、子供も増えた。人間の女の人をほとんど見たことがないからいまいち分からないけれど、本当の男や女に似たロボットより、理想的な男や女のロボットの方がプログラムが簡単で作りやすいそうだ。そして時代と共に、男のロボットと結婚する女の人や、女のロボットと結婚する男の人は増えていった。ここで、お父さんの言っていたロボットの欠点が問題になるんだ。ロボットと結婚した男の人からは男の子が産まれ、その子もロボットと結婚して男の子が産まれる。逆に、ロボットと結婚した女の人からは女の子が産まれ、その子もロボットと結婚して女の子が産まれる。この連続で世の中は、女のロボットと人間の男の町と、男のロボットと人間の女の町に分かれたんだ。これが僕の疑問の答えみたい。人間同士で結婚するのも、理想的なロボットと結婚するのも、どちらもいい生き方だと僕は感じた。でも、なぜか分からないけれど、胸の奥になんだかモヤモヤしたものが溜まった気がするんだ。
「行ってきます」
モヤモヤの正体は分からないままだけど、僕はまたいつも通り、この町で暮らし続けます。いつかは女の人の町にも、行ってみたいな。
それから10年後、僕はもう大人になった。女の人の町にはまだ行ってないけれど、この10年間で、僕はたくさんのことを学んだ。10年前とは比べ物にならないほど、成長しただろう。そして今、あのときのモヤモヤの正体が分かった。それは、世界では少子化が問題になっていないことだ。それどころか、世界では人口の急増がずっと問題になっていた。それなのに人口を増やすためのロボットは世界中に広まっている。それにロボットの人口も増えている。知らず知らずのうちに地球上では人が増えすぎている、この恐さ。それが僕のモヤモヤの正体だったみたいだ。やっと気づくことができたけれど、ロボットと結婚して子供を4人も産んだ今、もう遅かったかもしれない。
「お父さん、話があるんだ」
このモヤモヤについて、お父さんに話してみた。
「うん。たしかにそうかもしれないな。今の世界人口の増加スピードはこれまでと比べ物にならない恐ろしさを持っている。でもそんな考え方ができるこの世界は、実はとんでもなくいい世界かもしれないぞ」
「どういうこと?」
「お父さんが子供の頃、まだロボットが人間とは認められていなかったんだ。ロボットが奴隷のように扱われたり、ロボットの血を引く子供がイジメられたりする事件がいくつも起きていた。それにくらべて今のケントやほとんどの人は、当たり前にロボットやロボットの血を引く人間を人間と同じように考えている。ケントのそのモヤモヤも、ロボットを人間と認めていないと思いつかない考えだろう」
「たしかにそうかも」
「そんなことよりお前ももう親なんだから、こんな話してないで子供と一緒に遊んであげたらどうなんだ」
「う、うん。そうするよ」
そういえば最近、子供たちと話してもいなかったな。よし、今日は思いっきり遊ぶか!
「ただい……」
ジュッッ!
ザザァ…………
崩れた。
0。
常に更新され続けてきた地球上の全人口が、今、消えた。
日本の少子化を止める為、開発された理想的な男と女ロボット。これが、全ての理由だった。開発者たちの本当の目的は、日本の少子化を止める為でも金儲けの為でも無かった。世界の人口増加を止める為。そのため、ロボットの遺伝子には少し仕掛けがあった。ロボットが十分に広まった頃、その遺伝子を持つ者が全て崩れ去り、人口が急激に減少するという仕掛けだ。開発者たちの仕掛けは完璧で、見事に役目を果たした。だが開発者たちは最後の最後に、人間の理想を追い求める欲の深さを読み誤ってしまったようだ。