一章2〜“魔法”
ハイハイ免許皆伝からしばらくの時が流れた。
苦しい掴まり立ちの練習を経て、俺は自分の足で立ち上がって歩く事が出来るようになった。
立ち上がって歩くという当たり前の事のはずなのだが、しっかりその当たり前が出来た時は感動したものである!
他の子供と比べて早いのかはわからないが、記憶があるというのはアドバンテージなのは間違いない。
聞いた話でしかないが、少し前に産まれた使用人の子より早いとのことなので、やはり歩くという動作を…体の使い方を知っているという事が大きいのではないかと思う。
そして拙いながらも言葉を理解して発する事が出来るようになった。
今更ながら俺の名前は…“レオリス・アストラル”
というらしい。
愛称…というより略称はレオである。
やはり日本人ではない名前だった。
今更どうこう言うつもりはないが、寂しい気持ちもあるし、何より慣れないのであった。
そしてこの屋敷の住人の紹介をしようと思う。
誰になのかは分からないが……。まぁ、自意識にだ。
アストラル家現当主であり、俺の祖父の“ドレイク・アストラル”
見た目は厳ついお爺ちゃん。いくつかわからないけど体格も歳を感じさせない、だけど中身は孫には甘……なんて事は今のところそんな要素はない。
性格も厳格で頑固で、絵に描いたような厳しいお爺ちゃんである。
次はその妻、俺の祖母である“ミトレア・アストラル”
何だかんだと隙を見ては構ってくる、わかりやすい孫ラブな感じの優しいお婆ちゃんって感じだ。
ただ食事の時など全員が揃っている時には、完全に気配を消して空気と化す。
あの旦那の影響か、もしくは元からかわからないがもし前者であるなら同情する……。
そして“クリス・アストラル”俺の母だ。
俺に対してニコニコと笑いながら幸せそうにしていると思う。
しかしこの屋敷では肩身が狭いのか…特に祖父の前では暗い、何か話すときも気が弱そうに…というか何か言いにくそうにしている様子が見える。
その態度が気に入らないらしい祖父が、また厳しく叱りつけ、また叱られるのかもと、引き気味になる母…正に負の連鎖ならぬ負のループである。
そして俺は父の顔を知らない。
恐らく母の肩身が狭いのはこれにも関係しているのだろう。
それは後にまた……。
執事の“リドルフ・ナスタート”
細身の白髪メガネの年老いた紳士。
使用人全体の長であるのか、色々仕切っている様子を見かけた。
彼はメガネが似合う…賢く仕事が出来そうで、かつ優しく見える。
そして4人のメイド
リドルフの妻でメイドの“メイリーン・ナスタート”
その娘の……
“ミリターナ・ナスタート”
“アルミーナ・ナスタート”
“エイルーナ・ナスタート”
エイルーナに限れば4歳くらいの子だが、メイド服を着て2人の姉の後ろをついて回っている。
もしくは俺の祖母ミトレアの世話をしている。
世話をしてるというよりされているというべきか…ミトレアは立場を気にせずに接するので、メイドとして働く母メイリーンの代わりに小さい子の面倒を見ていると言ったところだ。
ナスタート家でアストラル家に仕えている形だ。
前世では経験があるわけない事なので、正直距離感がよくわからないので不安もあるが…
ここまでくると世界の文化や歴史が気になるところだ。
もし核戦争か何かで文明が滅んだ後が今だとしたら、かつての歴史などはどうなっているのか……。
もしかしたら全く違う形で進化したりとかするのだろうか?
なんて考えながら屋敷の中を散策していた。
ちなみにはじめはメイドや執事のリドルフなどが俺(2歳ぐらいの子供)が一人で屋敷の中をウロウロと歩き回るのをやめさせようとしたが、いかんせん子供心は止められるとやりたくなる…おっと中身もまだギリギリ子供と言ってもいいはずだ、うん、セーフだ。
何かしら隙を見ては脱走するので、屋敷の中であればいいんじゃないか、というミトレアの意見で、少し放置されるようになったのである。
そんな時見つけてしまった……ある日の厨房での話である。
厨房ではミリターナとアルミーナが夕食の準備をしていた。
とりあえず食材という物が気になった俺はテクテクと厨房に入り込む。
そんな俺にアルミーナが気付かなかった。
テクテクヨタヨタと歩く俺は棚に軽く肩をぶつけた。
たまたまだろう。
俺がぶつかった軽い振動で、棚に置いてあった恐らくリンゴと思われる赤い果実が棚から床に落ちた。
その床に落ちたリンゴがアルミーナの足元に転がる。
物音に気付いたミリターナ、そして遅れて気付いたアルミーナが振り向いて俺を見る。
ああ、なんだ、またこいつかという顔をしながら一度作業の手を止める。
「レオリス様?なにイギャッッ‼︎」
流石にないと思っていたが、そんなベタな……。
アルミーナはリンゴを踏んで派手に転んだ。
アルミーナが転んだ時、さらには座っている間、メイド服のスカートが捲れて中がしっかり見えていた。
そこを凝視してしまうのは中身思春期真っ盛り猿、つまりは男子高校生なので仕方ない事だと思ってほしい。
「いたたたた…」
「ミーナ!レオリス様の前でなんて格好しているの!すぐに立ち上がりなさい‼︎」
ミリターナが俺の視線に気付いたらしい。
アルミーナを叱って立つように促す。
別に気にしないよ?と言いたいが…そういう訳にもいくまい…、ちなみにオレンジだった。
ちなみにミリターナは金髪のロングヘアー、トリートメントのCMに出れそうなくらいの綺麗なストレートヘアーだ。
比べてアルミーナは金髪なのは同じだが、ショートカットで少し癖っ毛だ。
知的そうなミリターナと活発な感じのアルミーナ。
何より…二人とも巨乳だ。
この国?では15歳で成人と認められるんだとか…。
ミリターナは来年で成人らしいから今14歳。
アルミーナは10歳、ちなみにエイルーナは4歳。
ちなみに俺はもうすぐ2歳だ。
ミリターナの胸は前世ではなかなかそんなやつ居なかったなぁと感心するレベルだ。
アルミーナなんて10歳とは思えないサイズだ。
おっと、ゲスいおっさんみたいな事考えている。
いかんいかん。
良く考えたら2歳にしては俺は動けてる気がするな。
いや、こんなものなのかもしれないが、こういう事で図に乗るのは良くない気がするし、謙虚にいこう!
「あー、すいませんねレオリス様!よっと…アダッッァ!」
ミリターナに叱られて立ち上がりながら軽く頭を下げるアルミーナ。
その態度が気に入らないのかミリターナからの手刀、つまりはチョップのツッコミが入る。
「ミーナ?お母様に報告しましょうか?」
ツッコミの後、スッゴイ爽やかな笑顔でミリターナがアルミーナに…威圧している。
関係ないはずの俺からしてもちょっと逃げ出したい……。
アルミーナもきっと同じ気持ちだろう、彼女は顔を青くしながらすぐに俺に向き直り、深ーく頭を下げた。
「レオリス様申し訳ございません!ご無礼をお許しください!」
「い、いいですよ、こっちこそ邪魔してすいません」
ミリターナは何か呆れ気味だが、アルミーナの様子を見てとりあえず溜飲を下げたようで、彼女も後ろで頭を下げていた。
こんな小さいガキにそこまでしなくてもいいだろうに……メイドの仕事も大変だなぁ。
「ミーナ、肘擦りむいてるわよ、全く…」
その後アルミーナの肘を見てミリターナが怪我をしているのを発見する。
そんな光景を普通に見ていた俺の目は丸くなった。
ミリターナがヒーリングと呟いた。
その指先が薄い緑色の光に包まれる。
その指先がアルミーナの肘の擦りむいた患部を撫でるように触れると、すぐに傷が無くなった。
えっ……
ままままま魔法?