一章間話〜“アルミーナの初恋?”
〜アルミーナ視点〜
私はアルミーナ・ナスタート。
リドルフ・ナスタートの娘であり、アストラル家に仕えるメイドです。
魔法使いの姉と何かと天才らしい妹に挟まれたちょっと可哀想な美少女。
そんな私もメイドなので与えられた仕事する。
この仕事も別に嫌ではないし、もはや習慣になっている。
仕事をあまりやらなくてもいい妹が羨ましく感じる事もあるけれど…私は妹みたいにそんな才能はないし、他の事に特別興味があるわけでもないのだから。
この辺境の田舎町にある屋敷は無駄に大きい。
使用人の数とアストラル家の人数を足しても部屋が余りすぎる。
その全ての部屋を基本的に毎日掃除する私達の立場を考えて欲しい…これは本音。
正直使わない部屋はもっと頻度減らしてもいいんじゃないかと……。
朝は勿論アストラル家の人たちよりも早く起きると母と妹は朝食の準備を始める。
私と姉は庭の手入れ。
日が昇る前くらいで私達は起きて活動を始めるのだ。
「ターナ姉…この前のお見合いどうだった?」
「上手くいっていたらもうここには居ないと思わない?」
「それもそだねぇ」
私は今14歳でもうすぐ成人だ。
成人になると勿論見合い話がやってくる。
私達ナスタート家も例外ではない。
ただ私達の両親は見合い話は持ってくるが強要したりしない。
普通は自家より位の高い貴族との繋がりが欲しいから、娘達を嫁がせて関係を繋げたりするが、私達はアストラル家との主従関係とはいえ非常に力のある家の庇護下にある。
故に無理に強要されない。
もしかしたら優しさなのかも知れないけれど……。
「あぁ、もうすぐミーナも成人だし不安なのね」
姉は何か悟ったように口元を手で覆ってクスクスと笑っている。
姉は女の私から見てもキレイだと思う。
容姿端麗で作法などは使用人としては勿論、貴族としても生きていけるように母から私達は躾けられてきた。
スタイルも良く若くして魔法も使える。
それに比べて私は…。
容姿で姉に勝るとは思えない。
長く美しい姉の髪に憧れて伸ばそうとしたこともあったが、手入れが面倒くさくてバッサリ切って以降ずっと短い。
唯一勝ると言えるのは胸が私の方が大きいくらいだが、姉も十分大きい…。
「いやね…ターナ姉が見合い上手くいかないのに私が上手くいくのかなーってさ…、ターナ姉はなんでいつも断ってるの?良い人じゃなかったとか?」
お互いに作業の手は止まることはない。
水を撒いたり雑草を刈ったり、木の手入れと作業をしながら話をする。
何年も何年も続けてきた事だ。
「この前紹介された人はね、若くてカッコいい人だったわ、バルメリア王国の貴族だし」
「優良物件じゃないの?」
姉は険しい表情で、私に視線を移した。
「でもその人…未婚なのに子供が3人もいるの」
「貴族だし珍しい話じゃないと思うけど?」
私の返事にわかってないわね…という顔をした。
言いたいことはわかるけどそれを差し引いても、このご時世ではいい話の方だと思う。
「じゃあミーナはどんな人がいいの?」
予想していなかった質問だった。
この流れで予想していなかった自分もどうかと思うけど…。
そんな時に脳裏を過ぎった人がいた。
✴︎✴︎✴︎
先日メニアからの来客の方々が来た時の事。
エルフの王族であるアルメニアの名を持つ2人、私は王子シグナス様の寝室の準備を担当した。
その日は他にも仕事が非常に多くバタバタしていたので、つい疲れが出てしまいあろうことかそのベッドで眠ってしまった。
その後部屋に荷物を取りに入って来たシグナス様に発見されてしまった。
肩を揺すられて目を覚ました私の目の前にはシグナス様のいた。
「あっっ!!」
思わず声をあげようとした私の口を押さえて、彼は自分の口に人差し指を立てて意思を伝える。
「失礼…」
外を気にするように視線を向けてから一言告げると、自分の荷物の中から水筒を取り出してベッドのシーツに水を零した。
「えっ…」
私は意味がわからず唖然としたが、同時にターナ姉が空いている扉から中を覗き込んで来た。
「ミーナ、何処にいたの?」
「私がシーツに水を零してしまってね、そこで声をかけて処理をお願いしてたんだ…忙しいのにすまないね」
少し状況を飲み込むのに遅れてしまったが、シグナス様が自分を咄嗟に庇ってくれたのだと理解した。
「いえ、そういう事でしたら問題ありません、ミーナは終わったら食事の用意を」
「わか…はい!」
シグナスの言葉に納得したターナ姉はそのまま一礼して自分の仕事に戻っていった。
「あ、ありがとうございます」
「気にしないで、急に泊まるだなんて迷惑かけてすまない」
✴︎✴︎✴︎
一緒シグナス様の事が浮かんだが、彼はエルフの王子、私とは立場が違うのは理解している。
「んー…やっぱ優しくてお金持ちかなぁ、あとイケメン!」
「もうちょっと真面目に考えだ方がいいわよ?ミーナも、もう他人事って話じゃないんだから」
ちょうど作業を終えたところだったから、ため息混じりに私にそう言って屋敷に戻っていく。
私達は基本的に生活リズムを崩さないように非常時で無ければいつもと同じスケジュールで動く。
この後は屋敷内の清掃がある。
秘めた想いはあれど、分不相応な想いなのだ。
なんとなくこの想いが恋なのだとそう思うけど、これは望んでしまえば辛くなる気がする。
だからしまっておこうと思う、特に何かあったわけじゃないけれど、きっとこれが私の初恋なのだから大切に……。
「とりあえずお見合いでいい人見つけよう!」