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“聖剣”はポニーテールと共に  作者: 飛鳥
一章〜幼年期
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一章11〜“剣聖の一撃”

 


 橙色の太陽が、地平線に沈んでいく。

 夕暮れとはどの世界でもそこまで差はないものらしい……否、都会暮らしだった俺には非常に美しいものに見える。


 そんな夕日に照らされる見慣れた庭…こと修練場。


 その中でも、シグナスとクリスが木剣を片手に向かい合っている。

 それを囲むように俺やドレイク、そしてザスティンがその様子を見守っていた。



 なぜこうなったかというと少し時間を遡る。




 ✴︎✴︎✴︎



「クリス様、私と戦って頂けませんか?」


 昼頃から飲み始めたドレイクとザスティン、夕食なんてなんのそのという雰囲気だったので、空気を読んだリドルフ達が酒のつまみも用意して、さらには寝室などの用意も同時進行で働く中、ドレイクとザスティンの会話が途切れたタイミングで、真剣な顔でクリスへ話を切り出した。


 俺は勿論クリスも、そしてシグナスも酒を飲んでいない。


「僭越ながら、私は剣の道を歩む者、剣聖の名を背負われるクリス様と一度手合わせしたいと思い、今日は父上に同行しました」


 真面目な顔でクリスを見つめて語り始めるシグナス。

 クリスは隣にいる俺やドレイクの顔をチラチラと見てから真面目な顔を作り、シグナスの言葉に向き合った。


 ザスティンは何も言わずに、視線がクリスへと移る。


「…クリス」

「はい、わかってます!その申し出、受けさせていただきます」


 ドレイクの目は、剣聖として受けなさい。そう語っているようにも見えた…。

 クリスもわかっていたようでドレイクに視線を移す事なく強い目でシグナスを見て頷いた。




 ✴︎✴︎✴︎



 木剣を片手にお互いに向き合う。

 クリスからすれば使い慣れた木剣ではあるが、しっかりと感触を確かめるように見つめている。


 対してシグナスは、貸し出された木剣の重さなどを確認するように握って、軽く振って感触を確かめているように見える。

 どこかの白髪の天然パーマのように、ヤスリで削っておいたりしてないかどうか確認しているのだろうか?…そんな奴いないな、うん。


「準備はいいな?」

「「はい」」


 2人の間に立ったザスティンが、2人の顔を交互に見てからそう告げる。


 特にルールを決めるつもりはないのだろうか?

 魔法はダメだとか何だとかそういうのはあえて取り決めるまでもないとか?そんな暗黙の了解的なのもあるのか?

 また後でクリスに聞いておこう。


「宜しくお願いします」

「こちらこそ、宜しくお願いします」


 先に言葉を発して構えたシグナス。

 両手で木剣を構えた正眼の構え、真面目な…というよりオーソドックスな感じは何となくだが予想通りな感じである。


 対してクリスは半身だけ相手に向けて、片手で木剣を握って地面に鋒を傾ける構え。


 ザスティンは既にドレイクの隣に移動していた。

 その様子から見る限り、俺とエイルーナの時のように合図はないようだ。


 真面目な表情の中に少し緊張が見えるシグナス。

 向かい合うクリスは、当たり前かもしれないが普段の優しそうな…というよりは少し抜けているように見える表情ではないが、シグナスのように緊張を含んだ真剣な顔付きってわけでもない気がする。

 どこか冷たく感じるその表情、そして突き刺すような集中を感じる。


「ほう…」


 声を漏らしたのは、含むような笑みを浮かべるザスティンだった。


 俺がいうのもなんだが、隙がないのだろう。

 いや、本当にわかるわけじゃないし本当に俺がいうのも変なことなのだが…。

 少なくとも今俺が横からクリスに向かっていっても触る事も出来ないのだろう。いや、普段から触れないね。


 シグナスが深く息を吸い込んで、そしてゆっくりと息を吐いた。

 見方によっては隙なのかもしれないが、クリスはその隙を突くわけでもなくどっしりと構えて待っているように見える。


 そうやって視線をクリスに移している間にシグナスは動き出していた。

 クリスやドレイクが俺の前でそんな動きをしなかった…というよりする必要がなかったから仕方ないが、前世も含めて見たことのない刹那的な速さで、踏み込み、そして木剣を振り抜いていた…はずだった。


 木剣同士が激しくぶつかる音のようで、でも少し違う音。

 シグナスの手に握られていた木剣は、持ち手である柄の部分から上がへし折られていた。




「…参りました…」


 己の手に持つ木剣に視線を移して、その状況を悟ったシグナスが負けを認めた。

 この言葉と同時にクリスは構えを解いて脱力し、いつも通りの柔らかな表情に戻った。


「流石ですクリス様、私にはその剣を目で追う事も出来ませんでした。」


 少し悔しそうながらも、結果に納得しているのがなんとなくその表情から伝わってくる。

 俺の目ではシグナスの踏み込みが辛うじて見えた程度で、足よりも圧倒的に速く動く剣なんて勿論見えなかった。

 そして、クリスの剣なんてもっと見えなかった。


「噂よりも凄まじいな、剣聖」


 そう評価を口にしたザスティン。


「いえ、たまたま上手く噛み合っただけです」


 2人の称賛に、少し恥ずかしそうによくわからない言い訳をするクリス。

 本気?のクリスの剣を今回初めて目の当たりにしたが、確かに凄まじいの一言だった。

 木剣をへし折る激しい音が響くと同時に、すべて終わってしまっていたのだ。

 これが剣聖である。



 今日まで俺の中で少しクリスを甘く見ていたところがあった。

 別に剣聖というのを疑った事なんてないが、普段はどっちかというと少し抜けているというかなんというか…。良くも悪くも普通の女の子な感じがしたが、今日の一件で評価は一変したと言える。

 一言で言えばカッコ良かった!!いやマジで!


 こんな風にカッコよくなれればな、とそうモチベーションが上がるのと同時にふと思い出したかのようにキョロキョロと周囲を見渡した。


 エイルーナが見ていない…また今度話してやろう!

 きっと羨ましがるだろう!


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ここまで読んで頂きありがとうございます。 稚拙な文章ストーリーではありますが、 気に入って頂いた方は 『感想』『評価』『ブックマーク』『レビュー』 して頂けると嬉しいです。
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