終:旅立ちの前に
白尽地帯の管理局に立ち寄り、帰還した旨の報告を行う。ニクシーが居ないことについて聞かれたが、正確に伝えるわけにもいかず、負傷して先に病院に送り届けたことにして誤魔化した。白尽地帯については危険度が高く怪我人も頻繁に出るために、保険受け取りの申請を勧められはしても、誰一人として誤魔化しを疑う者はなかった。
そのまま、携帯食料等の補充と、預けていた機械式単車を受け取る手続きを済ませ、空いた側車に二人分の荷物を載せると、それ以上何かを行うことも無くその場を後にした。
「……」
軽快に走る単車が伝える小気味のいい振動と、原動機の順調な駆動が、ビアンカの体を支える。吹き抜ける風はどこまでも爽快なものだった。
しばらく走って、夕方ごろに辿り着いた、白尽地帯への緩衝地帯にある街に入り、宿をとる。荷物を置き、部屋のベッドで一息ついた。
「うん?」
すると、指にはめた指輪“蒼の吹雪”が、淡く輝きを放ち始めた。それは優しく、ふんわりとした光量で明滅し、まるで語り掛けているようだった。
「はは。大丈夫。今はゆっくり寝ときなさい。またすぐに未体験の冒険三昧になるんだから」
ビアンカは、その明滅に応えると、白尽地帯での食事の際に、グリージョアに手渡されていた紙切れを開く。
「落ち着いたら見てみると良いって言われたけど…。これは、何だろう?」
そこには、地名らしきものが書き込まれている。幾つかの分類で分けられているようで、街らしいものと遺跡らしいものの名前が、混ぜて書かれている。
「魔法文明に関する何かがあるところ?単におすすめの観光ポイント?」
内容についても考えても、皆目見当がつかないので、紙切れを閉じてメモ帳に挟み、今後の動きについて考える。
(ニクシーの目覚めがいつくらいになるかが良く分からないから何とも言えないけど…。グリージョアが言うには、出てくるには私の許可が必要らしいから、勝手にポンと出てくる可能性はない。なら…)
目線を天井から外し、先ほどメモ帳を見やる。
(最初はヴィオラに報告かな?今回は多くの事が起こりすぎたし、セプターの事について何か知ってるかもしれない。それに、光仁回帰派のこともある。闇楽浄土派も暗躍しているみたいだし、ついでに色々と調べてみるか…。今後襲われないとも限らないし)
ビアンカはベッドから起き上がり、荷物の中身を確認する。自分の衣服の整理と、ニクシー用の装備もいつでも使えるように準備していく。
「これでよし。取り敢えず、出発は明日にして、今は休もうかな…」
全ての支度を終えたビアンカは、着替えだけを手に取り、部屋の浴室へと向かうのだった
※第二部は、本話を持って完結となります。設定等の説明話ばかりでしたが、ここまでのお付き合い、有難う御座いました。