第7話
「『ラピッドショット』」
思いきり引き絞った弓から高速の矢が射出され、草原に隠れ潜んでいたノーマルラビットの身体を地面に縫い止める。しばらくその緑と茶のまだら模様の身体をピクピクと震えさせていたが、体力が尽きたのかポリゴン状に爆散する。
ドロップ品を確認して…………足は無事ドロップしたのでこれで十個無事に揃えることができた。とりあえず報奨がさっさと欲しいので精神的に疲れた身体に活をいれて『最初の街』に向かって走りはじめた。
あの最初のウサギさんはどうやらレアドロップでもなく、また条件があったわけでもなく、ただ単にゴブリンの後方にいただけのラッキー当たりだけだというのがわかった。
……まぁわかるまでに何度もいろんな方法でゴブリンを倒したし、職業レベルもいつの間にか二桁になっていたが。少なくともゴブリンは300体は倒した。たしかあのとき悲鳴のようなものが聞こえていたのでラッキー当たりというのは、予想してしかるべきだったね!
そしてウサギを見つけられなかったのもやっぱり自分が迂闊だったからというのもあるからとても悔しい。……ウサギという名前に気をとられて、何故かその身体は白いのだろうと決めつけていた。……それに目視で見つけられるだろうという楽観があったのかもしれない。
最初にウサギを見つけられたのは偶然だった。ラピッドショットの有効性に気付き、気配感知も使ってみたことがはじまりだった。気配感知を使うと頭の中に平面上のマップのイメージが現れる。そして自分の半径五十メートル内のプレイヤーを青い点で、それ以外を赤い点で浮かび上がる仕様だった。
そのマップを使うことで単独のゴブリンを探すのがとても楽になったし、レベルもすごく上がっていった。まぁ、毎秒MP5消費だったので長いこと使っていることは出来なかったが。そうやって敵を探していくなかで、時折マップの端に一瞬赤い点が浮かんだと思うとすぐに消えるということが何度かあった。
最初は見間違いかなと思ったが消える点を追いかけるようにマップを展開しながら走り続けていくと、端に赤い点が残り続けたのだ。まさかと思い『ラピッドショット』を赤い点に向かって使ってみるとたしかな手応えとウサギのドロップの通知……ウサギさんはこちらの感知範囲ギリギリを逃げ続けていたのだ。
それからはマップ端に現れる赤い点に向かって『ラピッドショット』を放ち続けた。………嫌らしいことにウサギはプレイヤーが近づくと逃げ出す仕様のようで、ウサギの半径五十メートル以内に入ると逃げ出してしまう。初期の弓の射程は五十メートルもなかったためにスキルを使わないと射程に入らないのだ。ついでにいうとラピッドショットの射程は六十メートルだが一発につきMP40を消費する。
………これ見つけることできても遠距離攻撃持ちいないと倒せなくね?とか思っていたけども、後日攻略動画を見てみるとパーティー組んで囲いこんだり、罠を張っておいてそこまで誘導して狩る近接職などがいた。まぁ、いろんな方法があるのだなぁと少し驚嘆した。
そんなこんなで『最初の街』の市場まで戻ってきた。現実時間だと朝方のためかプレイヤーの数が少ないように感じる。とりあえずクエストを報告したら眠ろう。
朝方だからだろうか露店の数も少なく、人通りも少なくなっている。人が少なかったからかお目当ての人物は結構簡単に見つけることができた。
「ん?あー、新米君か。どうしたんだい?なにか用かい?」
シリカは不思議そうな顔でこちらを見てくる。ポーチからウサギの足を全部取り出し、シリカに依頼の達成を報告する。それと新米君とは呼ばないでほしいとも告げる。
「あはは、もう狩ってきちゃったのかい!随分早かったね、一週間は掛かると思ってたんだけどナァ。報酬はちゃんと支払うし、ついでにおまけもつけといてあげよう!あと君は俺の名前を知っているだろうけど、俺は君の名前を知らないから教えてくれるんならそれで呼ぶヨ」
………そういえば名前も告げずにあのとき別れていたなと今更ながらに名前をシリカに告げる。
「……ふーん、まぁこれからよろしくねロビン!あとこれは報酬の装備ネ」
シリカから渡された装備と引き換えに、ウサギの足をシリカに渡す。シリカはにこりと笑顔を浮かべながらウサギの足を受け取った。
「今回はお願い聞いてくれてありがとね。でも次からはお金を貯めて商品を買ってくれると嬉しいカナ」
次からはしっかりとお金で買うとシリカに伝えると、その場から離れて宿屋を探す。もう眠たい。宿屋を見つけるとチェックインして、そのまま案内された部屋でログアウトするとそのままベッドで眠りについた。