第4話
まず目を開いて目に入ったのは人の群れであった。左右どちらを向いても人ばかりである。近くには自分と同じではじめたばかりであろう初心者が多くて身動きをとることができない。それを遠目にクランメンバー募集と初心者を勧誘している先駆者であろう人たちは大声をあげていた。
なんとか人波を掻き分けて人の山から逃れることが出来た。初心者が最初に現れるスタート地点であろう噴水の周りだけがやけに人口密度が高くなっていたが、そこから脱出さえできれば人は疎らで歩くのにそれほど支障はなかった。とりあえず外套の中身が半裸なんて状態は精神衛生上よろしくないので、装備を売っている場所を探しにいこうか。
しばらく歩いていると露店が疎らにあった。商品を見てみると序盤ではとれないだろう装備品や消耗品がかなり販売されていた。どうやら新規が増えることを見越して、最前線の片落ち品を最初の町であるこの場所で販売しているようだ。
並んでいる商品を見ていく中でなかなかに性能が高い装備が売られているのを見つけた。それに色合いも落ち着いていて結構好みな見た目であった。しかし性能と相俟ってはじめたばかりである身にはなかなかな値段でちょっと手が出しづらかった。具体的に言うと弓兵シリーズ一式の四倍の値段であった。単純にお金が足りない。
「そこの大きなお兄さん、何か買っていくかい?」
店の商品をじろじろ見ていたからだろうか蓙に座っていた女性に声をかけられる。声をかけてきたその女性は手入れされた輝くような金髪に、吸い込まれるような蒼い眼。ローブを身に纏っていたためにどのような服装かはわからなかった。
女性を注視すると頭上に赤いマーカーが現れたので彼女はNPCなのだろう。プレイヤーの場合は青いマーカーがでるようなので。
「いやぁ、まだ駆け出しでね。ちょっとお金が足りないかな」
女性は私の服装と背にある弓を見ると少し考え込むような仕草をする。そしてじっと蒼い眼でこちらをのぞきこみ、私が目線を向けていた装備を見ると一つ頷きこちらを見る。
「条件次第でお安くしてあげるよ?」
女性がそう言うと視界端に『クエスト発生』の文字が見える。どうやらクエストが発生したようである。……受けたほうがいいのだろうか?とりあえずクエスト内容を聞いてみようか。
「私はさっきも言ったけれども駆け出しだからそんなに難しいことはできないよ?………それでもいいなら条件を教えてもらえるかな?」
私のその言葉に女性はにんまりと笑顔になる。私は何故かその笑顔に違和感を覚えてしまった。……女性は笑顔のままこちらに話しかけてくる。
「条件って言うのは簡単さ。東の草原にいるノーマルラビットを10匹狩ってきて欲しいのさ。あんた弓を背負っているってことはそれを扱うんだろ?ウサギぐらいなら簡単に狩れるだろうさ。で、どうする?」
女性の言葉が終わるとともに視界端に『クエストを受諾しますか?』の言葉と現れる。その文字を注視していると『条件・ノーマルラビット10匹の狩猟と討伐証明の納品』『報奨・狩人シリーズ一式と???』『依頼人・???』となっていた。
とりあえずクエストは受諾する意思を示した。すると女性は嬉しそうに高笑いした。
「そうかそうか!受けてくれるか!……あぁ、俺の名前はシリカっていうんだ。露店の開いていない夜以外ならほとんどここにいるから、もしウサギを狩ったらここにきて討伐証明を持ってきてくれ。…………ウサギの討伐証明は足だからな。忘れずにもってこいよ」
他の客が来たためかシリカはそちらへと向き直り接客をはじめた。………とりあえず今後の方針ができたので、市場をまわって準備をはじめようと意気込むのだった。