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この異世界によろしく -機械の世界と魔法の世界の外交録-  作者: 漆沢刀也
【異世界生活開始編】
97/279

アサ邸で昼食を

お昼になって、昼食をご馳走になりながら、自己紹介をするの巻。

ティケアとか、かなり久しぶりの登場な気がする。

 昼になり、迎えに来て貰った馬車で、白峰達はアサ邸へと訪れた。

「え? 何? これ?」

 案の定というか、馬車から降りて佐上がポカンと口を開ける。

「ああ、やっぱり最初はそうなりますよね」

 海棠が苦笑を浮かべた。


 何しろ、彼女が見ているものは、まさしく白亜の豪邸という奴なのだ。門構えも立派で、壁にも彫刻が施されている。

「えっと? ここが、アサのお屋敷なん? いやまあ、お嬢様だって知ってはいたけど」

「その通りですよ。いやもう、私も初めて来たときは驚きましたもの」

「あの子、貴族やとは聞いていたけど。ほんまにお姫様なんやな」

 佐上の口から乾いた笑いが漏れた。


「何を今更言っているんですか」

 静かな口調で言ってくる月野に、彼女は唇を尖らせたが。

「でも、緊張 しなくて いい です。佐上さん。お嬢様 は いつもの 佐上さん 好き です から」

「はい。それは、分かってます。本当に、優しい人ですね」

 微笑むミィレに対して、佐上も大きく頷いた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 アサの屋敷の一室にて、白峰らはテーブルを挟んで、アサ達と相対した。

 年長である月野を両脇から挟む形で白峰らは着席し。アサの両隣にはティケアとミィレが座っている。

 彼らの目の前には、ブロック状に切り分けられたパンに、焼き魚やサラダが並んでいる。


「どうかしら、いい家は見付かった?」

「はい、お陰様で。この後、実際に確認しに行きますが、候補を大分絞り込むことが出来ました」

「それはよかったわ」

 月野の答えに、アサは満足げに頷く。


「紹介が遅れたけれど、こちらがティケア=ルエス。我が家の色々な仕事を取り仕切っている人間よ。以前は外交の仕事をしていたのだけれど、父の頼みでこちらで働いて貰っているわ。市議会との連絡とかも、ティケアにしてもらっているの」

 アサに促される形で、ティケアは頭を下げた。


「ティケア=ルエス です。いつも アサ 姫 様と よい 付き合い 嬉しく 思います」

「月野渡です。日本の外務省に勤めています。こちらこそ、アサさんにはお世話になっています。また、白峰も日頃からお世話になっております。お会い出来て光栄です。よろしくお願いします。こちらは、佐上弥子さんです」

 アサがしたように、月野も佐上へと手を向けた。

 それに従って、佐上も頭を下げる。


「佐上弥子です。翻訳機の調整をしています。アサさんにはお世話になっています。よろしくお願いします」

 「よろしく」と、ティケアは頭を下げた。

「さて、それじゃあ折角の料理が冷めてもいけないから、お話は食べながらにしましょう?」

「そうですね」

 アサの声に、各が頷く。

 そして、アサ達はしばし瞑目し、胸に拳を当てた。白峰達もまた、胸の前で「頂きます」と手を合わせる。


「ところで、こちらの世界の外交関係者や学者の方達もこちらに向かっているそうですが。いつぐらいに到着しそうか、分かりますか?」

 月野の質問にアサが答える。


「今朝届いた連絡によると、一つ前の港を出たみたい。だから、あと二、三日くらいにはここに着くと思うわ」

「分かりました。では、その後、折を見て彼らにもご挨拶させて貰えたらと思います」

「ええ、分かったわ」


「あの?」

 海棠が手を挙げる。

「そういえば、私は聞いていないんですけれど。その人達もここ、ルテシア市に住むんですか? 何となくなんですけど、私達だけがこっちに来て、こちらの人が私達の世界に住まないというのも違和感があるんですけど」


「海棠さん。その話については、こちらの学者と、ええと、国境を越えて働く資格を持つ報道関係者は希望者がそちらの世界に住むことになります。外交関係者は、ルテシア市に集まりますが」

「まあ、そういう形で互いのバランスは取ろうとしているわけです。例のスキャンダル騒動が無ければ、我々の世界からも同様に、数人に搾った報道関係者と学者に来て貰うつもりだったのですが」

「う、それについては、ごめんなさい」

「いえ、あなたのせいでは全くありませんので、気にしないで下さい」

 肩を落とす海棠に、月野はキッパリと言い切った。


「そうですよ。それに、桝野局長も言っていましたけど。裏を返せば、外務省としても信頼出来る記者を確保したかったんです。結果的に、あれで海棠さんを仲間に出来たのだから、そう悪い話でもないんですよ」

「そ、そう言って貰えると、少し気が楽になります」

 白峰も続けると、海棠は小さく笑った。

 もう少し説明するのなら、今後の海棠にはより国民のニーズに応えた形での異世界の取材と、マスコミの勉強をしてもらうことになる。重要な役目が任される格好だ。だが、言えばプレッシャーになるだけなので、そこは言わない。


「それにしても、アサさんの家の料理って本当に美味しいですよね。この魚とか野菜って、高いものなんですか?」

「ありがとう。そう言って貰えると嬉しいわ。料理人も喜ぶと思う。でも、特別高いというものではなかったと思うけれど?」

 アサは唇に人差し指を当て、虚空を見上げた。


「料理 する 人。市場 仕入れ する。普通 の 魚や 野菜 です。だけど 選ぶ 厳しい です」

 ティケアが答えた。

 なるほどと、感心したように海棠が頷く。


「では、私達でもこういう魚やお肉は買えるんですね」

「はい。買う 出来る です」

「それは、楽しみです。私も早く、この世界の料理を覚えないと」

「私も 日本 の 料理 興味ある です。みなさん 教えて 欲しい です」


「なるほど。日本でもこちらの料理が興味を惹いているように、こちらでもそういう興味があるようなのですね。面白そうです。一度、考えてみましょう」

 にこやかに笑うミィレ。そして、ふむふむと頷く月野。一方で、白峰はぎくりと身を震わせた。

「ちなみにアサさん、何か希望の料理とかはありますか?」


「そうね。前に佐上にも教えて貰ったけれど、ニクジャガという料理。それと、そちらでいうカレーというものが、どのようなものか教えて欲しいわね。こっちでも作れないか試している料理人が多いのだけれど、本物とどこまで似ているのか分からなくて、困っているようなのよ」

「そこの事情は、日本とあまり変わらないみたいですね。パンに辛いスープを浸して食べる料理ってパシスと言いましたか? それを日本でも再現しようとしているカレー屋が多いですけれど。あと、自分も雑誌に紹介されているお店を一軒、行ってみたことあるんですが。風味は結構違いましたね。あれはあれで、美味しかったですけれど」


「えっ? 白峰さん、雑誌の紹介でですか? それ、なんていう雑誌か覚えていますか?」

「そうですね。ええと、確か――」

 白峰は埋もれかけていた記憶を引っ張りだし、海棠に伝えた。

「うわ。それ、私達が取材して書いた記事ですよ。凄い偶然ですね」


「え? 本当ですか?」

「本当です。興味があったから企画にも喜んで参加したんですけど。でもその頃、ほとんど毎日カレーで。流石に少し飽きてしまってましたね」

 海棠は苦笑を浮かべた。


「だったら一度、本物のパシスも食べて貰いたいわね」

「はい、楽しみにしています」

 と、ティケアが怪訝な表情を浮かべた。


「サガミ さん。話 しないですが。料理 苦手 ある ですか?」

 そういえば、確かに佐上の声はさっきから聞いていない。白峰を初め、どうかしたのかと、一同は彼女に視線を向けた。

「いいえ。とんでもありません。本当に美味しいですよ。ただ、少しこの食べ方で合っているのかと迷ってしまって。ここにいる人達の食べ方を見ながら、食べていたもので」


 少しぎこちなく見える笑顔を佐上は浮かべた。それに対し、ティケアは柔らかく包み込むような笑みを浮かべた。

「心配 いらない です。あなたの 食べ方は とても 美しい」

「本当ですか?」

「はい。本当 です」

 その言葉に、佐上は安堵の息を吐いた。照れくさそうにはにかむ。


「では、サガミ さん。好きな 食べ物 何ですか?」

「えっと? 好きな食べ物ですか? そうですね。ええっと――」

 若干頬を赤らめ、佐上が視線を背ける。どことなく、もじもじしている様にも見える。


「何を躊躇っているんです? 確か、好物はタコ焼きとお好み焼きと串揚げじゃありませんでしたか?」

 月野が首を傾げる。が、佐上は呻いた。

 ぎりぎりと首を回し、恨みがましい視線を月野へと向ける。


「いや、何故そこで私を睨むんですか?」

「別に」

 ティケアが軽く咳払いをしてくる。

「サガミ さん。その 料理は、どのような 料理 ですか? 私に、教えて 欲しいです」

「あ、はい。そうですね。まず、タコ焼きというのは――」

 こうして、互いに食べたい料理のレパートリーが増えていくのであった。

あんまりストーリー進んでいませんが、これでも色々と仕込んでいるんです。

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