譲れない願い
こういう、無駄に重いサブタイトルを使うと。
後々、もっと適した回に使えなくなるんじゃないかと恐い。
何だか、複雑な思いだ。
それが、佐上の正直な気持ちだった。
突如として、異世界行きが言い渡されて。いつまでこっちにいなくちゃいけないのかと、いい加減大阪に帰らせてくれと思う気持ちはある。
けれど同時に、まだアサ達と一緒にいられるというのは、嬉しくないと言ったら嘘になる。折角仲良くなれたのに、さよならというのは寂しい。
思わず、陰険な眼鏡が脳裏に浮かんだ。
「いや、あいつは関係ないけどなっ!」
頭を振って月野のイメージを追い出す。ここで彼を思い浮かべるとか、あのアホを意識しているようで嫌になる。
頭を掻いて、嘆息する。
あの悪夢の記者会見を終えて、数日が過ぎた。
結果として、各局が全国放送で各の信頼を貶めた訳だが。それで彼らが大きく変わったかというと、体質の改善にはまだまだ遠そうだ。
自分達に都合の悪い話は、CMカットや編集切り取りで放送しない。そうやって彼らは印象操作をすると前々から言われていたわけだが。
ある局は生放送だというのに、佐上の反論からほとんどCMだらけとなってしまい。別の局ではスタジオの様子ばかりが流れた。またある別の局では夜のニュースでそこら辺の部分はばっさりカットした。こうして、生放送を見ていた人達から更に疑惑を持たれることになった。
マスコミによっては、自分達に向けられた疑惑を誤魔化そうとすればするほど墓穴を掘る有様だ。そして、こういったマスコミの疑惑を追っていたブログサイトや動画の格好のネタになっている。
国民的に知名度が上がってしまった佐上達について、これはネタになると取り上げるところもある。昔の知り合いにインタビューして「どんな人でしたか?」だとか、そんな話だ。
無論「だから、それもプライバシーの侵害だろ」とネットでツッコミが入った。外務省からも、苦情を入れて収まったが。
まあ、それでも異世界に取材に行ける権利を獲得するのに、強硬にこれまで通りの方法を続けるのは得策ではないと判断したのか、彼らの間でも態度を変えつつあるところも出てきたようではある。
しかし、月野や白峰の過去が放送されると、つい気になってしまうのは、我ながらゲスな根性しているよなあと思う。この手の報道がなかなか無くならない理由がよく分かる。
彼らはあまり気にしていないようだが。男って、そういうものなのだろうか? それとも、彼らの肝が太いだけなのだろうか? うちらのご近所さん、エラいことになっているっぽいんやけど。
ネットもネットで、自分らをいい玩具にしているので、大概である。
自分が、友人のために駆けつける、そんな情に篤い人間として評価されるのは気恥ずかしいながらも嬉しくはある。しかし、アニメの演説台詞を差し替えた動画だとか、そんなものが量産されていた。
イラストもそれなりに描かれている。検索した限り、卑猥なものが無いのは、安堵したが。同時に「ああうん、アラサーやもんなあ」みたいな感情もあったりする。
月野も「外務省の鬼畜眼鏡」「マスコミ絶対潰すマン」「裏切りボイスの悪魔」とかそんな扱いで、色々と動画でネタ扱いされていたりするが。それは許す。もっとやれ。両親にもウケているらしいし。
でも、こんな状況だと確かに月野が言ったように、ほとぼり冷めるまで異世界に引っ込む方がいいのかも知れない。外務省としても、何かあったときに直ぐに訊ける人は近くにいて欲しいと。
じゃあ柴村技研としてはどうなんだと訊いたが、そこも了承済みだった。つくづく、手回しがいいことだ。
社長曰く「もっと日常的に使っている会話のデータが欲しい」「各国の訛りにも対応して皇共語を訳せるようにしたい」「いっそのこと、東京に支社を増やす計画も」「場合によっては、そこの支社長にお前を」とか言っていた。最後はマジで勘弁してくれと思う。
仕事も終わり、ビジネスホテルのベッドの上で、佐上はスマホの盤面を叩く。皇剣乱ブレードのログイン画面へ。
「ああっ!?」
そこで、気付いた。むしろ、今まで気付かなかったことの方が問題だ。
皇剣乱ブレードのログイン画面を閉じ、電話を掛ける。相手は母親だ。
『もしもし。弥子ちゃん。どうかしたの?』
「うん。一大事やねん。ちょっと、おかんに頼みたいことがあるんや」
『何? 届けて欲しいものとか、あるん?』
「いや、そういうのとちゃうんや。おかんも皇剣やっていたやろ? うち、こないだも言ったけどこれから異世界暮らしになるやんか。戻ってくるまで、うちの代わりに皇剣のイベントやってくれへん? IDとパスワードは教えるからっ!」
異世界でネットが使えるとは思えない。となると、スマホゲームもプレイが出来るかどうか。
『ええ? それ、うちも時間厳しいんやけど』
「うっ。じゃあ、おとんは? にゃんこれやっていたやろ? システム的にほとんど同じやし、なんとかなるんちゃうか?」
『おとんも、にゃんこれのイベント優先になるんじゃない? あの人、いつもマタタビ級の勲章取るのに一生懸命だし。それに噂では、今度のイベントは、はるにゃんの新コスが報酬らしいから』
佐上は呻いた。
「せやなあ。おとん、はるにゃん大好きやし」
『そもそも、規約上そういう真似ってあかんやろ。うちもやけど、おとんはそういう真似は好きやないから、ちょっと協力出来へんわ』
「まあ、そうかも知れんなあ」
アホやけど、こういうところはしっかりしている両親である。
「分かったわ。無理言ってごめん」
『うん。残念やろうけど、戻ってくるまでしっかり気張りや』
「はぁい」
電話を切った。
しかし、それで諦めきれるかというと。やっぱり諦めきれない。
佐上はメールを起動した。宛先は白峰。月野だと勘づかれそうで恐い。
「異世界って、スマホとか使える?」「仕事の連絡とか、色々とネット使えないと辛いことになりそうやねんけど」「何とかならん?」。大体、こんな内容で文面を考えて、送ることにした。
頼むから、これで何とかなってくれっ!
にゃん娘これくしょん。通称にゃんこれ。
様々なにゃん娘を育成し、戦隊を編成してダークキャッツ団と戦う戦隊運営SLGである。
「鬼畜眼鏡」。かなり前に、知り合いから紹介されて体験版だけやったBLゲー。
好奇心って猫を殺すね(吐血)。
月野の外見はこれの主人公がベースだったりしますが。