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この異世界によろしく -機械の世界と魔法の世界の外交録-  作者: 漆沢刀也
【マスコミ炎上編】
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どうしてこうなった?

大暴れした後、頭が冷えてきたら後悔に押し潰れる佐上。

月野の判断とかの説明回。

 何で、あんな真似をしてしまったんや。

 佐上は頭を抱え、机に突っ伏していた。何かもう、このまま消えてしまいたい。

 誰かが近付いてきた気配がする。


「おはようございます。海棠さん、起きていたんですね」

「あ、月野さん。おはようございます。すみません。私、寝てしまって。全然気がつかなくて」

「いえ、お疲れだったのは分かっていますから」


 可愛らしい女の声と、憎たらしい男の声が聞こえてくる。あーそっかー、さっきまで隣の席で寝ていた若い女の子。海棠はんか。初対面がこんな情けない姿やなんて、もうどんな顔したらいいんや。

 聞き耳を立てるつもりでもないのだが。聞こえてくる彼らの会話から周囲の様子を伺う。


「あの。この人、大丈夫なんですか?」

「大丈夫ですよ。この席の人は、今日は夜まで来ませんから」

「いやいや、そういう意味じゃなくて」

「まあ、あれだけ暴れれば、疲れもするでしょう」

「暴れる? 一体何があったんですか?」


「白峰君。まだ海棠さんには説明していなかったのですか?」

「すみません。これから、動画を見て貰うところです」

「私、本当についさっき起きたばかりなんです」

「なるほど」


「記事は、予定通りに投稿されたんですよね? そして、新聞各社は対応に迷ったのか朝刊には載せなくて。朝のニュースでは、記事のことを印象操作だって批判されていたんですよね? 一方で、ネットで知った人達は肯定的な反応で記事を拡散して、ニュースとネットの両方を見た人は、報道の仕方に違和感を感じた。それでも、マスコミは生放送を引っ込めることは出来なかった。そこまでは説明を聞きました」

「そうですね。そこまでは、すべて計画通りの動きでした」


「それでは、これがその動画なんですが」

 佐上から見て右斜め前にある白峰の席から、音声が流れてくる。

「こうして外務大臣とアサさんからの発表に続いて、質疑応答になりました。そこで、マスコミはアサさんに対して誘導尋問と印象操作をしようと仕掛けたんです」


「それで、アサさんがやり込められたとか?」

「いいえ、違います」

 動画から、自分の怒声が聞こえてくる。その声に、佐上はびくりと痙攣した。


「とまあ、こういう訳です」

「いやいや? どういう訳ですか?」

「佐上さんが記者会見の会場に突然押しかけてきたんです。ちなみに、今そこの席で燃え尽きている人です」


「ええっ!? この人が佐上さんなんですか?」

 うん。そりゃあ驚くと思う。こんなアホが異世界の言葉の翻訳機を担当しているなんて、誰も思わんわ。

 佐上は涙を零した。


「何でそんな真似を?」

「ここからは、私の推測ですが。どうやら、ここのところ、ほとんどビジネスホテルに籠もりっきりだったことや、一連の報道で相当にストレスが溜まっていたのではないかと思います。特に、アサさんに対する風当たりや、海棠さん達に対する裏切りに腹を立てていたのではないかと」

「それで、どうやって?」

「佐上さんには、自粛をお願いしていましたが外務省への出入りを禁止していた訳ではありません。マスコミが来る前に、外務省のどこかにいたのでしょう。女子トイレかどこかですかね?」


「記者会見の様子はどのように?」

「スマホにイヤホンをして、外務省が配信した生放送をネットで見ていたとか」

「なるほど」

「本当のところは分かりませんけどね。後で、落ち着いたところで話を聞かせて貰いますけど。一応、報告しないといけないですし」

 大正解。

 佐上は机に突っ伏したまま、頭の上で腕で丸を作った。


「当たり。ということみたいですね」

「流石、月野さん。佐上さんのことよく分かってますね」

 何もかも見透かすこいつ、本当に恐い。

 それでも、アサに難癖が付けられるまでは、我慢する気だったのだが。


「まあ結局。記者が色々と言ったところで、とうとう佐上さんの我慢が限界に達して、こうして殴り込んできた。そういう訳ですね」

「それは分かりましたけど。でも、白峰さんや月野さんも記者会見に出てきたのは、何故なんですか? 佐上さんを止めようとは思わなかったんですか?」

「自分は思わず、体が動いてしまいました。佐上さんと同様に、言いたいこともあったし。佐上さん一人には出来ないと思ったので」


「私は、この流れは利用した方がいいと考えたので」

「利用ですか?」

「はい、そうです」

 少し間を置いて、月野は続けた。


「私達の作戦は、外務省とマスコミの間で判断に揺れている、印象で判断する人達を取り込もうというのが主旨でした。そういう意味では、佐上さんの行動や発言はインパクトが大きい。非常に印象に訴える力が強い訳です」

「なるほど」

「ですので、ここは佐上さんのやりたいようにやらせてしまった方がいい。そう判断しました。白峰君が向かっている間に、上には報告と説明をしていました」


「それで、佐上さんを誰も止めなかった訳ですね」

「その通りです。そういう意味では、白峰君の発言も有効に働きました。本人の口から、マスコミの報道は全くの嘘だと言い切った訳ですからね。後は、論理的な反論もしないといけないので、私も合流しました」

「それで、どうなったんですか? 白峰さんは、ある意味期待以上の成果だって言っていましたけど」


「そうですね。我々のプライバシーを犠牲に、国民の支持を得ることに成功しました」

「実際に、月野さん達の顔や人となりが伝わったことで、国民から理解が得られたとか。そういうことですか?」

「はい、そんな感じだと思います。これまでは、異世界と直接交流している存在が、顔の見えない誰かだったわけですが。記者会見の結果、実際に顔の見える、情の通じる人間になったわけです。これは、国民からの信頼を得るという意味で、今後の対策室の改善点にも繋がっていくことになると思います」


「ちなみに、世論はどのように確認したんですか?」

「だいたいは、ニュースのコメントなどの変化ですね」

「何だか、動画サイトやイラスト投稿サイトの一部では、ネタにされてしまっているようですけど。特に佐上さんは、イラストまで描かれているようですが」

「まあ、それは仕方ないでしょう。というか、仕事早いですね。些か、美化されすぎな気もしますが」


「仕方ない訳あるかいっ!」

 むくりと、佐上は上半身を起こした。聞き捨てならない。あと、月野は必ず後でしばくと、誓う。

「おんどれ、月野。流れを利用って、何してくれるんや。止めろやボケぇっ!」

 泣きながら訴える。


「いや、止めろと言われても。乱入した時点で手遅れでしょう」

「それでも、ちょっとは被害が抑えられたやろっ! うち、どんな顔して大阪に帰れっちゅうんや。こんなんもう、結婚出来へんやんかっ!」

「恋人がいたんですか?」

「おらんけどっ!」

 安堵したように、月野が肩から力を抜いた。


「いないんですか。なら、よかったじゃないですか」

「いいわけあるかっ! 未来の旦那様の話やっ! どう責任取ってくれるんやっ!」

「責任とか言われても。強いて言うなら、佐上さんの責任では?」

「うっさいうっさいっ!」

 歯を剥いて威嚇する。月野は肩を竦めるだけだったが。


 その隣で、白峰が人差し指を立てた。

「じゃあ、月野さんが責任取って、佐上さんをお嫁さんにするとか?」

 佐上は目を細めた。

「白峰はん? 言うていい冗談と悪い冗談あるで?」

 月野が嘆息する。

「そうですよ白峰君。そういう話は冗談でも勘弁して下さい」


「なんやと、この野郎っ!」

「いや、佐上さん。あなた私にそういう気は一切無いんでしょう? ならいいじゃないですか。実際、仮にそんな話になったらそれこそマスコミが嬉々として取り上げるんです。冗談にしても面白くありませんよ。これは」

「やかましいっ! そうやけど、お前に言われるのは腹立つんやっ!」

「理不尽過ぎませんか?」

 ぷいっと、佐上は顔を背けた。


「というか、自分の方こそ空気の読めない冗談を言ってすみません」

 白峰が頭を下げる。

「ええっと、佐上さんも気持ちが昂ぶっているようですし、別の話題とかありませんか?」

 海棠の提案に、月野が頷く。


「それも、そうですね。そもそも、その話をしてきたんでした」

「桝野局長は何と?」


"はい。私達が異世界に行って生活することが、正式に決まりました"


 佐上は思わず目を見開いた。


「しばらく、マスコミも我々について騒ぎ立てそうですしね。ほとぼりが冷めるまでという意味でも、丁度いいのではないでしょうか」

「え? それ、まさかうちも入っとるん?」

 訊くと、月野は小首を傾げた。


「当たり前じゃないですか」

 真顔で言ってくる。

 佐上は頭を抱え、声なき声で叫ぶ。何でこんな事になるんやっ!

ぶっちゃけ、こんな長い章を書いた大半の理由が、佐上を退場させないためだったりする。

次回から、異世界生活開始編です。

それでも、最初はマスコミ編の後始末的な話になりそうですが。

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