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この異世界によろしく -機械の世界と魔法の世界の外交録-  作者: 漆沢刀也
【ファーストコンタクト編】
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報道とその反応

白峰の長かった一日が終わり。

報道の反応って、こんなところかなあと思います。

 白峰がようやく自室へと戻れたのは、夜中近くのことだった。

 コンビニで弁当と缶酎ハイを買って帰る。明日もあることだし、いつもはアルコールを飲む習慣は無いのだが、今晩は飲みたい気分だった。

「こういう気分が続いて、酒飲んで、おっさんになるのかね? っと」

 ちゃぶ台の前に座り、一人、部屋の中で呟く。脳裏には、故郷の父の姿が浮かんだ。仕事から帰ると、必ずと行っていいほど毎晩ビールを一杯飲んでいた。近頃は、健康診断に引っかかって控えているが。


 テレビを見る。ちょうど、深夜時間のニュースをやっていた。

「本日の午前10:00過ぎ、天皇皇后両陛下は、異世界より来られた使者とご引見を行われました。天皇皇后両陛下は彼女に対し、心からの歓迎の意と、今後の両世界のよりよい関係を築くことを願うと、伝えられました。彼女とは言葉は通じませんでしたが、非常に穏やかな雰囲気でご引見は行われたとのことです」


 キャスターの朗読とともに、ご会見の様子が映し出されている。VTRには宮内庁提供の文字が映し出されていた。陛下に万一のことがあってはならないと、宮内庁を説得するのは苦労したと聞かされたが、滞りなく済んで良かったと思う。噂では、両陛下のご意向もあったという話だが。

 両陛下の前で、黒髪紅眼の若い女が屈託無く、子供のように笑みを浮かべていた。ゲートで擦れ違ったときは、どちらかというと可愛らしいというよりは、上品かつ近寄りがたいものを感じたのだが。

 何にしても、これである程度は信頼を勝ち取ることが出来たと判断していいだろう。対策本部の言葉だが、白峰も同感だった。


「続いて、使者の方には病院で健康診断を受けて頂き、その後は軽い食事とともに外務省関係者との会談を行ったとのことです。健康診断の結果、日本医学界の基準では、彼女は健康とのことです。なお、健康診断の過程で採血は行いましたが、彼女の意思の確認が取れないため、倫理上の観点から研究所等へのサンプル提供は、現在控えさせて貰うとのことです。外務省関係者との会談では、彼女の出自また異世界のゲートについて確認を試みましたが、詳細は不明とのことです。ただ、彼女は高貴な家柄の出であると思われ、また異世界側にも敵対の意志は確認されないと推測されるとのことです。この会談の様子は、これまでの政府の方針通り、各国の外交機関に提供される模様です」


 少しでも情報が知りたいというのは、日本だけではない。世界各国もまた同じ話だった。政府は情報を秘匿することで疑いの目を向けられるよりも、開示して協力を仰ぐことを選択した。

 それでもなお、まだ疑いの目は完全には消えていないが。

「また、異世界からの使者と交換する形で、外務省からも異世界へと使者を派遣したとのことです。担当者の情報によると、異世界の街並みは『近代的』であり、地中海の古都を思わせる街並みだったとのこと。装甲車両や火砲の類いはゲート周囲には配備されていないとのこと。馬や大型犬など、こちらの生物と非常に似通った生き物が存在していたとのことです。こちらも詳細は、各国の外交機関に報告するとのことです。また、これにより政府は通行禁止地域の段階的な解放を検討するとのことです」


 流石に、魔法のようなものについては、報道では流さなかったか。そりゃそうだよなと、白峰は思った。あれを未確認の状態で電波に流すのは、流石に勇気がいる。

 白峰はコンビニ弁当と缶酎ハイの蓋を開けた。流石にお腹が空いた。安っぽい鶏の唐揚げが、ご馳走に見えて仕方ない。


 スマホに手を伸ばし、ネットへと繋ぐ。食事しながらこれは行儀が悪いとは思うが、一人暮らしでしか出来ないことでもある。白峰は親元を離れたが故に可能な自由を満喫していた。

 ネットの反応は、異世界から来た美人の使者の話題で持ちきりだった。

 早々に彼女をモデルにしたイラストまで描かれていたりする。日本人、ちょっとは自重しろと白峰は思った。もしもこれが彼女の目にとまったら、どんな反応が返ってくることやらと。まさか、それでいきなり戦争という事態にはならないと思うが。


 と、スマホが鳴った。液晶に移されたのは母親の電話番号だった。

「ああ、もしもし? 何か用?」

 直後に聞こえてきたのは、母親の溜息だった。

『あんたねえ。何か用? じゃないでしょ。今、大変なことになっているじゃないの。テレビ見たでしょ? 異世界から使者の人が来たんでしょ?』

「ああ、うん。そうだな」

『だから、そうだなって。ああもう、本当にあんたって子は。使者の人が来たっていうことは、あっちとのお付き合いも始めるっていうことなんでしょ? 大丈夫なの?』


「大丈夫なの? って、何が?」

『だから、危険は無いのかっていうことよ。テレビじゃ敵意を持った相手じゃ無いって言っているけど、言葉通じていないんでしょ? 本当に大丈夫かどうかなんて分からないじゃないの』

「だから?」

『だから、大変なんじゃないのって言っているのっ。あんた、異世界に行かされたりしたらどうすんの?』

 もう、既に行ってきたんだけど?

 何とも言えない脱力感に、白峰からは乾いた笑みが漏れた。


「その時はその時で、覚悟を以て仕事するだけだよ。前々から言っているだろ? どこの国に行こうと、多かれ少なかれリスクはあるって」

『それは、そうだけど』

「それに、もしそうなったとしても、報道の通り向こうにも敵対の意志は無いようだし、多分何とかなるって」

『だと、いいんだけれどねえ』

「あと、直ぐに国交を結ぶとかそういう話にもならないよ。言葉の壁もそうだし、乗り越えないといけない問題が山ほどある。今はそっちを片付ける方が重要」


『それ、どれくらいかかるの? まあ、外交機密だって言うのなら話さなくてもいいけど』

「さあ? 実際問題として外交機密になるかどうかはまだ分からないけど、とにかく時間はかかりそうだと考えていいんじゃないかな?」

『ふぅん? じゃあ、あんたが異世界に行かされる可能性は低いっていうことね。そんな状態のところに、あんたみたいな若いのを送るとは思えないもの。問題片付けている間に、どこか別の海外に赴任先決まりそうね』

「ああ、うん。ソウダネー」

 棒読み口調で、白峰は応えた。誰が派遣されているのか伝えると面倒なので、伝えなかった。

 缶酎ハイに口を付ける。疲れた体に、アルコールが染み渡るのを感じた。

次回は、異世界サイドでどういう反応になったかに触れます。

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