これが私のジャーナリズム
本日投稿分の二つ目。
微妙に、海棠がキャラ崩壊したような気がする。
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【友好の祝杯】
ゲートが発生したその日、衛士隊長を務めるサラガ=ツスルギは向かい合う警察機動隊に対し、如何にして敵対の意志が無いことを伝えるか腐心していた。
彼はそのとき、問い掛けに反応を怠らないこと、笑顔を絶やさないことを心がけていたという。
その甲斐もあって、警察機動隊の桜野信也にも彼の想いは通じていた。このとき、桜野もまたサラガのことを信頼出来る相手であると判断していた。
では、ここで更に一歩踏み込んで、友好的な関係を築くにはどうしたらよいか。サラガは考えた結果、目の前の警察機動隊達と酒を酌み交わすことを提案した。職務を忘れた訳ではないが、彼は酒を通じて多くの友を作ってきた経験があり、今回もまたその経験を活かせると考えてのことだった。
部下の一人から、家にある秘蔵の酒を取ってきて貰い、彼はその酒を桜野に渡した。これが毒ではないということを証明し、先に飲んで見せると、桜野もまた彼に続いたのである。
桜野は、サラガの様子を見て、これが好意の証であると判断した。鑑識に回すことも考えたのだが、それでは好意を無下にすると思い、勇気を出して頂くことにしたのだった。
「これほどにまで美味い酒は、飲んだことが無い」と桜野は語っている。桜野はサラガに、言葉は通じずとも感謝を述べた。また、自分達はこうして友として付き合うことが可能なのだと、お互いに確認し合った。酒で心が通じたと言えよう。
また、この出来事は彼らだけではなく、日本とイシュテンの外交関係者達にも互いに友好的な関係を築くことが可能であり、そのような方向で交流を進めていこうと判断するのに大きな影響を与えたと言える。
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【世界に羽ばたく万能翻訳機】
どのような経緯で、柴村技研が外務省に翻訳機を提供することになったのか。それは、社長の柴村厚志の経歴から説明する必要がある。彼は、かつて大学でSF小説に出てくるような万能翻訳機の実現を目指していた研究者だった。しかし、当時のIT技術の限界から、彼の理論は到底無理な夢物語として扱われ、彼は学界を追われることになったのだった。
しかし、彼は夢を諦めることなく、音声技術の研究開発を行う会社を立ち上げ、大手企業からの依頼を請け負いながらも、翻訳機の研究を進めてきたのであった。
その夢は社員にも「面白い」と受け継がれ、彼らの協力と昨今のIT技術のより、実現に近付いてきたのであった。
そんな折に起きたのが、ゲートの発生と異世界との接触である。当時、異世界対策室では如何にして言葉の壁を超えるかという問題に頭を悩ませていたが。柴村技研でもこの翻訳機があれば、異世界の人達と言葉が通じるようになるのではないかという話題で持ちきりであったという。
一か八か。その思いで、柴村技研の技術者の一人は外務省に一通のメールを送った。外務省はそのメールに深い興味を持つことになる。なるべく早く、現物を確認させて欲しいと、その技術者に返答したところ、技術者は大急ぎで支度をし、翌日始発の新幹線で大阪から東京までやって来たのであった。
万能翻訳機とは、どのようなものかというと、一言で言えば言葉を覚えるAIである。しかし、AIであるためにまずは言葉を学習をさせる必要がある。その学習と調整を行っているのが、柴村技研を初め、彼らに協力している世界中の研究者やエンジニアである。
実はその学習にも、まずはおおよそ構文がどのようになっているのか予測が付けられないと難しいものがあった。しかし、これは異世界担当の外務省職員によって解決されることになる。この職員は世界の十ヶ国以上の言語をネイティブ並に話せるという、驚異的な言語習得能力の持ち主だった。異世界に赴き、彼らとジェスチャーを交えて会話をすることで、言葉の始まりと終わりが決まったパターンになることが多いということから、イシュテン語が日本語の構文と近しいのではないかという仮説を立てたのだった。
その仮説は当たることになる。翻訳機の技術者は、それまでの開発で用意されていた日本語パターンでAIに学習をさせたところ、翌日には簡単な言葉であれば日本語とイシュテン語で翻訳が可能となったのであった。
柴村社長と、彼の夢を受け継いだ社員達、そして外務省職員の協力によって、万能翻訳機は夢から大きく羽ばたこうとしている。翻訳機があるから、外国の言葉を覚えなくてもいいなどという事にはならないが、それでも言葉の壁を低く出来るのは大きな意味がある。地球と異世界のみならず、地球上の様々な国々で交流が易くなることで、開ける未来は多いだろう。
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【覚悟と信頼を胸に】
実を言うと、最初に言われたときは驚いた。まさか、自分にこのような大役が任されようとは。それが、異世界の担当となり、アサ=キィリンと交換する形で異世界を行き来している外務省職員の思いだった。
担当として選ばれた理由は大きく「高い言語習得能力」と「コミュニケーション能力」にある。言語は十数ヶ国語をネイティブ並に操り、異世界の言葉も早く習得出来るとが期待され。またその笑顔は非常に温和で、友好的な関係を築きたいという想いを伝えるのにも友好だろう。そのような考えからの抜擢だった。
しかし、担当職員はその抜擢に不服を抱くということは考えなかった。この抜擢にも意味があることだと考えていたし、どのような仕事であれ、覚悟を持ってやるべきだというのが持論だからだ。また、これはチャンスだとも考えていた。未知の世界というものには強く興味が惹かれる。そのようなところに行けるというのは、面白そうだと感じた。
当時、既に警察機動隊によってファーストコンタクトが行われ、友好的に付き合える可能性が見えていたことや、言葉は通じなくとも話は通じそうな雰囲気というものも、担当者の考えに影響を与えていた。
そして、その予想は当たることとなる。天皇皇后両陛下がアサ=キィリンを招き、彼女がそれによって日本に信頼を抱いたのと同様に、担当者もまたアサ=キィリンの邸宅に招かれ、歓迎を受けた。その真摯な態度に担当者は異世界の人達もまた信頼出来る人達であると判断したのだった。
「自分は彼らを信頼しているし、またその信頼に応えてみせたい」というのが、担当者の率直な想いである。今後も、彼らとは友好的な関係を構築していけるように、尽力したいそうだ。
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誤字、脱字。衍字。チェック。無し。
プリントアウトした原稿の最後の一枚を眺め、海棠は大きく息を吐いた。
「うへぇ。ふへへへへへへぇ」
口から変な笑いが漏れる。初めて異世界に行ってからここ数日、突貫工事で記事を書き上げていたので碌に寝ていない。徹夜はしていないが、寝不足気味による変なハイテンションが脳を支配していた。
そういう意味では、原稿のチェックも色々と恐いものがあるが、そこはまあ白峰や月野もチェックしてくれているので、大丈夫だと思いたい。手を抜くつもりは無いけれど。
「出来た。全部出来た。これで、これで全部っ! あはははははははははははははっ!」
「こちらも、チェック終わりました。お疲れ様でした」
「というか、大丈夫ですか? 海棠さん?」
上半身をぐらんぐらんと揺らしながら、海棠は手を大きく振った。
「大丈夫。大丈夫。大丈夫ですよ~っ!」
しかし、白峰は頬を引き攣らせ、月野も額に汗を浮かべているようだった。そこまで引くほど酷い有様に見えるのだろうか? そりゃまあ、確かにこの数日で書いた原稿は、いつもの三倍くらい書いた気はするが。親には言った上で、泊まり込みもしたし。ああ、お風呂入りたい。
「まあ、何にしても後は順次wikiにアップするだけですね。お疲れ様です。間に合って良かったです」
「というか、ギリギリまであれもこれもと詰め込まれたんですけどね。本当に、彼らも無茶を言ってくる」
白峰と月野が乾いた笑いを浮かべた。自分も今、彼らと同じような笑いを浮かべているのだろう。
時刻は、見るともう二十二時を回っていた。
「それじゃあ、後はwikiの管理担当にデータを渡して、予定時刻にアップロードしてもらうので。もう、海棠さんは帰って貰っても大丈夫ですよ」
「ああ、いえ。でも、もうちょっとここにいます。アップロードされるの、見て、おきた、く」
気が抜けたのか。急に意識が遠くなる。
燃え尽きたよ。真っ白にね。
でも、異世界の人達と会って、記事を書くのは最高に楽しかった。
デスマーチを思い出し、震えながら書いてました(滝汗)。
もう、二度とやりたくねえ。