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この異世界によろしく -機械の世界と魔法の世界の外交録-  作者: 漆沢刀也
【マスコミ炎上編】
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アサと記者会見

 これはまた、随分と騒々しい記者会見だ。それがアサの印象だった。

 スキャンダル報道の翌日、彼女は予定通りに記者会見に参加した。といっても、今はまだ壇上の脇で待機しているだけだが。

 会場では何十人という記者が席に着き、カメラを壇上の外務大臣に向けている。フラッシュとタイピングの音が鳴り止まない。


 参加している記者も、肌の色や髪の色が様々だ。日本だけではなく、海外の記者も招いているという話だった。

「先ほどのご説明を頂きましたが、ファーストコンタクトにおいて警察機動隊の方々が、向こうの方達に提供された酒を飲み騒いでいたというのは事実なのですね」

「説明したとおりです」

 どよめきと共に、フラッシュが激しくなる。


「ファーストコンタクト時では互いの食べ物が有害でないことの保証はありません。そのような真似の危険性について、想定は無かったということでしょうか?」

「その時点では、そのような真似をするという想定そのものがありませんでした。ただし、報告を受けた警察機動隊の方々には、何かあれば速やかに医者に診て貰うように通達しています」

「しかし、それで機動隊の方々が亡くなっていたこともあります。そのときは、どのように責任を取るつもりだったのでしょうか?」


「仮定を前提とした質問には、お答えすることは出来ません」

「提供された飲食物に対し、鑑定を行わなかった経緯について確認させて下さい」

「既に説明したとおりです。現場指揮者の判断によるものです。その表情などから、あちらの警察の隊長が善意で提供したと判断し、その想いに応えようとした結果となります。これは非常に勇気があり、また以降の交流においても大きな意味を持つことになったと我々は考えています」


「つまり、対策室としては警察機動隊の判断を肯定的に見ている。そのような認識でよろしいでしょうか? 何らかのペナルティは、無いということですか?」

「その認識で結構です」

「では、ペナルティが無いにも拘わらず、この情報を隠蔽したことについて、どのようにお考えでしょうか?」


「開示する必要が無いと判断したため、説明しなかったまでの話です。隠蔽の意図はありません。事態が落ち着き影響の検証が終わったタイミングを見計らい、いずれ発表する予定です」

「それはいつの時期を予定していたということでしょうか?」

「適切なタイミングを見計らって、行います」

「警察機動隊の飲酒について、情報公開の必要が無いと判断した理由について、詳細をお聞かせ願えないでしょうか?」


「伝えるべきはファーストコンタクトの成功という結果であり、また諸々の過程については詳細をまとめられていなかった。他にも、体制や方針について伝えるべき優先度の高い話がありました。故に、必要が無いと判断した結果になります」

 次々と記者達の手が挙がる中、また一人「どうぞ」と促される。彼は、所属している新聞社を名乗り、質問を続けた。


「異世界へと赴き、交流をしている外交官の方ですが、ほとんど経験の無い若者を選んだという情報があります。それは事実でしょうか?」

「担当者に対するプライバシーと、今後の活動への影響の理由から、そのような質問には答えることは出来ません。ただし、こちらも既に説明しましたが。その外交官の高い言語習得センスや人柄など、様々な評価を総合的に判断し、外務省は最適な人材を選択しました。また、先日にそちらのアサ外交官と天皇皇后両陛下で二度の謁見、そして親書の交換が実現出来ました。このように、交流は友好的に進めることが出来ているのも、その担当者の尽力による部分は大きいです。相応の結果を出していることから、何も問題は無いと判断しています」


「異世界のような未知の場所に送り込むことについて、生け贄のような発想は無かった言い切れるのでしょうか?」

「断じて、そのようなことは有り得ません。そのような発想で選ぶことは、その担当に対しても、またイシュテン国に対しても失礼な話だと考えます。故に、そのような真似はしていません」

 外務大臣は強い口調で反論した。この強い否定を図星と見るか、単なる強調と見るかは、人によるだろうとアサは思う。ただ、年齢だけで見れば自分も同じようなものだ。それに対して、マスコミからは生け贄だという発想が出てこないのは、些かご都合主義に思える。


 別の記者が手を挙げる。

「翻訳機を提供している大阪の柴村技研の女性技術者と、外務省職員の間に特別な関係が疑われていますが、これについて見解をお願い致します」

「男女の仲という話は全くの事実無根です。この件についても、プライベートな問題であり、また本人達も強く否定しています」


「柴村技研には多額のお金を融通しているという話もありますが?」

「こちらも、配付した資料にありますように、柴村技研様に対しては、その価値を正当に評価しそれに見合った金額をお支払いしています。それ以上でもそれ以下でもありません」

「これらの金額を見積もりしたのは、どちらになるのでしょうか?」

「外務省の然るべき担当が行いました」


「その然るべき担当というのが、女性技術者と近くお仕事をされている方だという話もありますが。如何でしょうか」

「その職員も関わってはいますが、彼一人ではありません。複数の担当でチェックを行い、その上でこれらの金額を算出し、また不正な使途が無いことを確認しています」

 つまりは、男女の仲などという個人的な理由や、単独犯のような真似で、金は動かすことは出来ていないということ。そういう説明だ。

 その後は、似たような。そして繰り返しのような質問が続いていく。こういう質問のされ方に対して、怒りや隙を見せずに答えていくというのも、なかなかに忍耐がいると思った。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 外務大臣への記者会見が終わり、アサの出番となった。

 日本だけではなく、こちら側との認識に相違が無いということの証明のため。ということになる。

 また、あくまでも現地の外交官ということでこの場にいるだけであり、内容によっては王都からの回答を待つ必要があるので、その場では回答しないということも記者達には伝えている。

「こんにちは、アサ=キィリンです。本日はよろしくお願いします」

 マイクの前で軽く頭を下げる。自分の声が大きく部屋に響く感覚というのは、ちょっと新鮮に思えた。


 記者達のどよめきが収まるのを待って、続ける。

「今回、こちらの世界で私達についてどのように報道されているのか、私は改めて確認しました。そして、お互いの世界で報道というものの認識には差があるのだと分かりました」

 まあ、これも世界が違えば当たり前なのかも知れない。問題は、それを今後どうやって乗り越えるか? なのだけれど。


「例えば、警察の人達が互いに初めて会ったとき、確かにお酒は飲みました。しかし、私はそれを良いことだったと考えています。こちらの人間が差し出した食べ物とお酒を嫌がらずに受け取り、そして信用して食べてくれたこと。またお返しにそちらの食べ物とお酒を交換してくれたこと、とても嬉しく思います。その信頼する勇気に、私は彼らに敬意を払います」

 まあ、実のところを言うと、当時その報告を来たときは「乱暴すぎる」と衛士隊長のサラガに強く不満を抱いたものだが。


 ゆっくりと、言葉を選びながら。しかし、はっきりと話すことを心がける。

 少しだけ深く息を吸って、続ける。

「私達の世界では、一般的に報道とはこういう話を伝えます。不要な不安を煽ったり、貶めるような報道というものは、価値を見出すのは難しい話になります」

 記者達の間で、ざわめきが起きた。


「それと、私達の世界に訪れている外交官の方ですが。私も面識はあります。どのような人か、詳細はお伝え出来ませんが、とても信頼出来る人であり、私達の交流を深めることにおいて適した人だと私も思っています。それと、柴村技研の技術者の人と、報道されている外交官とも知り合いですが、お二人には何ら疚しい関係はありません。私としては、私の信頼する人達をこのように侮辱的な報道されることは遺憾に思います」

 アサは笑みを浮かべる。


「この国の人達。いえ、ひょっとしたらこの世界の人達が。私達に深く興味を持ってくれていることを私は嬉しく思います。ある雑誌で見たのですが、この国ではカレーと呼ばれるのですね。私達の世界の料理をこちらの国の料理として再現しようという試みが、色々なお店でされているのだと知りました」

 少し、間を置いて続ける。


「私は信じたいと思います。このように、友好的に興味を持つ人達がいて、そういう人達への情報を提供したいという報道の人達が、決して少なくはないのだということを。まず、私から伝えたいことは以上になります」

 そして、質疑応答が始まった。

プロットの予定通りなんですが、気付いたら結構な話数をこれまでに割いてるような気がする。

でも、次回からはマスコミ編の転の部分に入るので、もうそろそろ終わりが見えます。

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