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この異世界によろしく -機械の世界と魔法の世界の外交録-  作者: 漆沢刀也
【マスコミ炎上編】
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佐上弥子の居場所

今回は、佐上回ですが。つくづく、シリアスが続かないキャラだと思う。

 昼食時の混雑を避けて、佐上はビジネスホテル近くにある定食屋に入った。チェーン店の定食屋で、外観や内装も明るく、女性でも入りやすい。

 佐上も、美味しければ男だらけのラーメン屋だろうと気にせず突撃しては、食べて帰る神経の持ち主のつもりなのだが。地元から遠く離れた異郷の地では、まだそういう真似をするのには、少し抵抗がある。

 大阪に帰る前には、折角だから東京のラーメンも回ってみたいと思っているが。


 大きな窓に沿って並ぶ二人組用のテーブル席に座り、彼女は生姜焼き定食を頼んだ。

 肩を落とし、溜息を吐く。

 スマホを取り出して、ニュースを眺める。どれもこれも、政府や外務省の批判一色に染まっていた。個人の書き込みを見ると、そんなマスコミはおかしいという論調も見掛けるが。


 気が滅入るのなら、見なければいい。そうは思いつつも、気になって仕方ない。せめて、翻訳機の調整でもしようと思っていたのだが、ついホテルの部屋に備え付けられたテレビを見てしまい、どうにも集中出来なかった。

「何で、こんな事になるんや」

 前々から、マスコミというものは事件を煽るものだとは、父親から聞かされていた。政治だとか経済だとか、そういう難しい話に興味の無い佐上にとっては、妙にそういう話にのめり込む父を鬱陶しいと思っていたが。なるほど、やられた側は堪ったものではないし、問題だと思う。


 マスコミに勘ぐられないため、しばらくは外務省との接触を控えて欲しい。月野からはそう言われた。仕事は仕事で、自分で用意できるから大丈夫だと答えたけれど。

 12時を回った頃には、白峰も異世界から戻って来たそうだ。あちらの警察官に、マスコミの若い女性記者と接触して、色々と話してしまった人間がいたのだと。そう、月野から連絡があった。


 その女性記者に、悪意があったかどうかは分からない。けれど、月野が言うには、外務省にはマスコミから「ひそかに情を通じ、これを利用して」協定に関する機密を抜き取られた過去がある。そのため、今回もそのパターンかと、神経を尖らせている人達も多いそうだ。

 ちなみに、その事件の顛末としては、暴いたマスコミ記者は無実となった。そして、記者に騙されたと言ってもいい職員は、機密漏洩を理由に逮捕されたという。


 記事のためには何をしてもいいのか? という問題に対しては、マスコミ界隈ではその記者の行動を讃える者も多いらしい。

 マスコミというのは、本当にえげつない真似をしよる。と、佐上はその話を聞いたとき、顔をしかめた。


 今頃は、対策室は白峰の報告を元にマスコミ対策を議論しているのだろう。白峰も月野も、ひょっとしたらアサもそこにいるのかも知れない。

 そう考えると、何となく自分だけが仲間外れにされたような気がしてしまう。

 無論、その場にいたところで自分に何が出来るわけでもないということは分かっているのだが。


 スマホの中に、明日には記者会見が開かれるというニュースが浮かび上がった。そして、そのニュースも「対応が遅い」だの何だのと、そういう批判が埋め尽くされていた。対策室かて、色々と考えや説明を纏めるのに忙しいやろに。

 報道の中立性って、なんなんやろなと。佐上は内心ぼやく。


「ひょっとして、このままもう、うちは大阪に帰らされるんかな?」

 最悪、もう二度とアサや月野、白峰に別れの挨拶すら出来ずに。

「嫌やなあ。そうなったら」

 そういうのは、あまりにも寂し過ぎる。

 窓の外は曇り空だ。それがまた、何とも陰鬱な気にさせる。


「お待たせしました」

 店員が生姜焼き定食を佐上の前に置いた。彼女は店員に会釈を返し、スマホをテーブルの脇に置く。

 テーブルに備え付けられた箸を手に取って。ご飯、漬け物、そして生姜焼きの順で口に運ぶ。

「やっぱり、うちの舌。肥えてしもたんかな?」

 苦笑が浮かぶ。

 食べ慣れた味。そして、月野の目も無く気兼ねなく食べられるというのに。どこか、美味しくない気がした。


 と、スマホが震えた。

 面倒やなあと思いつつ、佐上はスマホを見る。

 グループチャットツールが、着信を知らせていた。柴村社長の名前だった。


"佐上? そっちは大丈夫か? なんや、マスコミが色々言うとるようやけど"

"ちょっと気になってな? まあ、それだけや。忙しかったらあかんけど。落ち着いたら、連絡くれ"


 佐上は小さく笑みを浮かべた。

 ほんま、こんな自分みたいな平社員に気を遣ってくれるなんて。ええ社長やと嬉しくなる。


"大丈夫です。朝も言いましたけど、うちはしばらく外務省さんと一緒に行動すること、無さそうですし"

"ただ、すんません。ちょっと仕事にはあまり集中出来てないみたいです"

"そうか。まあ、仕方ないわ。立場上、休めとは言えんけど、無理はせんでええからな?"

"サボりはあかんけどな?"


 ぐへぇ。と佐上は呻く。


"いや、流石にサボりはしませんて"

"それより、そっちは大丈夫です?"


 柴村技研も、マスコミから槍玉に挙げられている。外務省との癒着だの。自分が外務省職員を誑し込んだだの。まったく、冗談じゃないと思う。誰が、あのド腐れ眼鏡なんぞを誑し込むかと。


"ああ、まあ大丈夫や。みんながおるからな。仕事に集中したら、そっちが優先になっとる"

"五月蠅いから、電話線は引っこ抜いたけどな。まあ、どうせ必要な連絡は俺の携帯で連絡取れるし"

"こっちから、何かマスコミに情報を漏らした人、いるんです?"

"いや? 外務省さんからも聞かれたが、みんなさっぱり心当たりが無い。連中、産業スパイより恐ろしいな"


 まったくだと佐上は思う。


"ところで佐上? お前、美人技術者とか言われて、舞い上がってたりとかせんのか?"


 へっ。と佐上は嘲笑を浮かべた。


"冗談やないです。マスコミの煽りに舞い上がるほど、うちは自惚れてませんて"

"そうか? でも、前に月野さんに送ってもろた写真。美人に撮れていたで?"

"その話はもうええですから。社長以外、見せてないですよね?"

"ああ、当然や"


 佐上は安堵の息を吐いた。

 だが、それも一瞬のこと。


"みんなに見せたで?"


 佐上の表情が凍る。


"何で、そないなことするんですかっ!?"

"いや、だってあれ、フリやろ? 『やるなよ? 絶対やるなよ? 絶対やぞ?』っていう"

"違いますって"

"せやけど、みんな褒めとったで? あの様子だと、帰ってきたら、何人かお前にプロポーズするんとちゃうんか?"

"勘弁して下さい"

"お前も、もう少し自信持てばええのになあ(笑)"


 やっぱり、大阪には当分の間、帰りたくなくなってきた。この社長、ええ人やけどこういうところ、困る。

 半眼を浮かべ、佐上は大きく溜息を吐いた。

ひょっとしたら、ご存じの方も多いかと思いますが。

「ひそかに情を通じ、これを利用して」の事件は、実際にあった事件を参考にさせて貰っています。

なるべく、中立性を意識して創作するようにしているつもりですが。思想や信条って、どこまで出していいものかは気になるところです。


しかし、自分も関西にいた経験はありますが。

正直、フリというのはよく分からないです。違和感あったら、ごめんです。

関西の人達が、ウケ優先で行動を決定しているようには思ってますが。本気で止めてと頼んでいる真似が、それでも本人にとってウケると判断したら、強行するのかどうかは判断付かないです。

個人的には、人それぞれのようにも思えるので、柴村社長は「(善意から)やっちゃう人」という感じに捉えています。

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