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この異世界によろしく -機械の世界と魔法の世界の外交録-  作者: 漆沢刀也
【マスコミ炎上編】
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スキャンダル

ようやく、章タイトル詐欺ではなくなってきた感。

 白峰晃太の朝は、報道の確認から始まる。

 今、その国で何が起きているか? それに対して誰がどのような主張をしているのか? 外交官として、世情の情報を把握しておくことは重要だ。無論、チェックするときはマスコミ報道だけではなく、公的機関の発表も確認する。


 PCを立ち上げ、ブックマークしているいくつかのニュースサイトの一つを開いた。

 思わず、頬が引き攣る。


 "ファーストコンタクトの呆れた真相"


 そんな見出しが、記事の一つに載っていた。

 迷わず、その記事を開く。そして、流し読みをする。大雑把な内容はこうだった。ゲートが発生し、異世界と繋がった夜に警察機動隊とあちらの警察との間で、酒宴が繰り広げられたのだと。


 よりにもよってそんな一大事で酒宴を繰り広げるなどという、警察機動隊の緊張感の欠落。食べ物が毒かどうかも分からない中での浅慮な行動。国家権力の隠蔽体質。記事はそんな諸々を声高に糾弾していた。

 スマホが鳴った。

 手にして画面を見る。月野渡からだった。


「もしもし、おはようございます。白峰です」

『おはようございます。月野です。起きていましたか。早朝からすみません。急ぎ、連絡したいことがあったもので』

「はい、報道の件ですね?」

『既に見ていましたか。話が早くて助かります』


「何でも、警察機動隊とあちらの方達のファーストコンタクトの件が、マスコミに露見したとか?」

『はい。ですが、それだけではありません。他にも色々と』

「えっ!? 他にも?」

『そうです。詳細は後ほど話があります。まずは急ぎ、対策室まで来て下さい』

「分かりました。今から向かいます。失礼します」

 白峰はスマホを切った。


 そして、出る前にテレビにスイッチを入れる。朝のニュース。電波での報道の状況も、少しは確認しておきたい。

 キャスターの横に並んだトピックには、ファーストコンタクトの他にも「外務省職員と美人技術者の間で行われた、高級ホテルでの密会」「生贄として差し出された新人外交官」などといったタイトルが並んでいた。

 テレビ局の系列会社の新聞社記者が、口角泡を飛ばしている。

 それだけ確認すると、白峰はテレビを消した。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 対策室に到着すると、あちこちで電話が鳴りっぱなしだった。どこから掛かってきたものかは分からないが、明らかに処理能力を超えている。その場にいる職員が、受話器を取っては、何事かを手短に答え、すぐに受話器を置いている。そして、またすぐに受話器を上げる。

 その一方で、政治家や各省庁の高官。桝野もだが、彼らは会議を開いていた。これからどうするのかを話し合っているのだろう。


 対策室の片隅で、月野が席に着いていた。小走りでそちらに向かう。

「すみません。お待たせしました」

「いえ、大丈夫です。座って下さい」

 月野に促され、白峰も席に着いた。

「まず簡単に状況の確認をします。既にご存じというか、いくつかニュースも見たと思いますが、私達のこれまでの活動がスキャンダルとしてマスコミに報道されました」


 こんな感じだと。月野は机に置いた数々の雑誌や新聞を広げた。いずれも、全国紙の新聞と有名な雑誌だ。先日、白峰がカレー屋の参考の為に買った雑誌もある。

 思わず、白峰も顔をしかめる。表現に多少の違いはあれど、強烈に国家権力の悪事を暴く社会正義の姿が、そこにはあった。魔女狩りか何かを想起させる。


「何故、今になってこんな事に?」

「それは分かりません。マスコミの狙いとしては、これを機に異世界へ取材しに行く大義名分や権利を奪い取ろうとしているのではないか? 上は、そんな風に考えています」

「どういうことですか?」

 月野は深く溜息を吐いた。


「どうやら、マスコミはこの異世界ネタに対して、相当フラストレーションを溜め込んでいたようですね。白峰君の働きもあり、我々も最大限努力して、あちらの情報を提供してきましたが。彼らにしてみれば、それでも美味しいネタを目の前にしてお預けを食らっている状態だったわけです。情報を手にする主導権は、是非とも手に入れたいところです。異世界に行って、直接取材がしたいと」

「ですが、そんなことまだ出来るはずがない」

「はい。その通りです。出来るはずがありません。こちらにしてみれば、その為の準備も何も整っていない。そんな中で強引に話を進めていけば、それこそ大問題になりかねません」


 白峰は目を細めた。

「『なりかねません』ではなく、まず間違いなく『なる』のではないですか?」

「そうですね。その通りです」

 自分が放ったあまりにも冷たい声色に、白峰自身が驚き、我に返った。


「すみません。月野さんを責めるつもりではなかったのですが。どうやら、苛立っているようです」

「いえ、私は気にしません。ですが、業務の妨げになると思うのなら、気を付けて下さい」

「はい」

 白峰は頭を下げた。


「話を戻しましょう。異世界に行きたい彼らは、ここで恐らくこう考えたのだと思います。外務省を初め国家権力の不信を煽り、民衆の支持を集め。ここで、本当に信頼できる情報を発信できる存在は、マスコミなのだと訴えます。そうやって集めた支持で、国家を揺さぶって取材する権利を得ようとしているのだろうと。この国は民主主義国家ですからね、国民の声には逆らえません」

「そんなに上手くいくものかと言いたいですが。有り得そうですね」

 白峰も、ここに来るまでにニュースサイトのコメントを確認している。まだ様子見といったコメントも多く、一気にマスコミが支持されるというような事態にはなっていないが。色々と揺さぶられている様には思えた。


「どこから、こんな話が漏れたんでしょうか?」

 白峰が説明されていた限り、そこの対策は万全に思えていたのだが。

「分かりません。そこは調査中です。ですが、彼らはとにかく情報を抜き取る手段には長けていますからね。結局は、遅いか早いかの問題だったという事かも知れません」

「確かに、そうですね」

 白峰は大きく嘆息した。


「そこで、今日は白峰君にはこのようなことになった説明をあちらにして欲しいのです。あと、あちらの警察の人にも、ひょっとしたらですが何かあったかもしれないので、聞いて欲しい。とにかく、情報を集めて下さい」

「分かりました。アサさんはどうしますか? こちらに、来て貰うのですか?」

 月野は首を横に振った。


「いえ、あちらで動くにはアサさんの協力が必要なことも多いと思います。アサさんにも、そのように伝えて下さい。これらの新聞や雑誌も持っていって下さい。その方が、説明しやすいかと思います」

「分かりました。佐上さんはどのように?」


「これから、私が連絡します。別途連絡あるまで、泊まっているホテルに待機して貰います」

「分かりました」

 では、行ってきます。と、白峰は席を立った。今日は忙しい一日になりそうだ。

ちょっと、この章だけキャラ達にストレスがかかる展開になるかと思います。

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