ミィレと翻訳機の中の異世界
嵐の前の日常回その2
一部の最後に出てきた、ミィレも日本語を勉強しているという説明を。
ミィレは椅子の背もたれに大きく背中を預け、腕を高く上げて伸びをする。
机の上に置かれたノートには、沢山の異世界の文字が書かれていた。
時刻はそろそろ夕方になる。休日の今日は、朝から日本語の勉強をしていたが、そろそろ終わりにしよう。これ以上続けても、頭に入る気がしない。ちなみに、アサは図鑑を貪り読んでいるはずだ。
ミィレはノートを閉じ、翻訳機の「翻訳する機能」を終了した。この翻訳機は、彼女が日本語を学ぶということで特別に貸し出されたものだ。紛失すると、かなり面倒なことになるので、使わないときは保管室で管理する必要がある。
ただ、もうちょっとだけと、今度はフォルダを移動した。まだ読めないが、漢字で「絵」を意味する言葉と、カタカナで「書類」を意味する場所だ。
ここには、色々な絵が保管されているので、それを見ることにした。異世界の動物や植物、各国の風景や料理の写真や絵だ。何かの参考になったり、会話するときに使えるからと白峰が入れてくれたものだ。
「それにしても、お嬢様も白峰さんも、凄すぎですよね」
苦笑を浮かべつつ、ミィレはぼやいた。
ミィレはまだ、ようやく「ひらがな」と「カタカナ」と呼ばれる文字を大分覚えつつあるというところだ。どうしてもまだ、「い」と「り」だとか「ソ」と「ン」のようなものが見分けがつきにくい。
一文字の呼び方が、単語によって変わるということは少ないらしいので、そこは法則性がきっちりしていて分かりやすいのだが。
その一方で、イングリッシュは同じ文字でも単語によっては読み方が変わるらしいので、難しそうだと思う。正直、いつかイングリッシュも覚えて欲しいと言われないか、言われたときどうしようか考えると恐い。もしそうなるとしても、本当にいつになるか分からないけど。
そんな状況もあり。自分の言語習得ペースを考えると、あの二人の学習能力は想像を超えているとしか言いようが無い。つくづく、どういう頭の構造をしているのかと思う。
何かコツとかあるのかと聞いたら、二人とも返答は同じようなものだった。「まずは単語を覚えていけばいい」「あとは、それを構文に沿って繋げるだけ」「慣れの問題。簡単でしょ?」と。
それを聞いても、ミィレには「そんなわけないでしょう」と、乾いた笑みを浮かべることしか出来なかった。白峰の友人も、同じような反応だったと、そんな話を聞いて安心したが。
でもまあ、「自分なりのペースでいい」とアサには言われているので、焦らずにやっていこうと思っている。天才と比べても落ち込むだけだ。比べるのは、自分がイメージできるだけの、理想の自分でいい。
「そのうち、魔法でもこういう真似、出来る様になるんですかね?」
ポチポチと翻訳機を操作しながら、ミィレはぼやいた。
この翻訳機が電気の力によって動いているというのは、以前に聞いている。だが、電気を発生させる魔法はあるが、こんなことが出来る様な使い方は存在していない。
そして「なら、やり方によってはこちらでは魔法で生み出した電気の力で、こういったものを動かせるようになるのか?」という疑問も湧く。ティケアが訊いたのだが、白峰は「その可能性は極めて高い」と答えていた。そういった点でも、魔法は注目されているのだと。
まだ実現はしていないが、これから、こちらの世界の魔法とあちらの世界の技術が融合することで、色々と凄い変化が起きるのかも知れない。難しいことは、ミィレには分からないけれど。
「ふふっ」
可愛い動物や綺麗な花を見て、ミィレは口元をほころばせた。アサにとっての図鑑ではないが、こういうものを見ていると興味深いし楽しい。
それから、料理の写真が続いていく。どれも美味しそうだ。お菓子の類いも綺麗で、食欲をそそる。
「あっ」
思わず声を上げて、ミィレは指を止めた。半透明の丸くてぷるぷるしていそうな食べ物が皿に載っていた。ミィレの好きなお菓子に似ている。これは、ひょっとして、いつか白峰が言っていた「わらびもち」という食べ物かも知れない。
明日、白峰に会ったら確認してみよう。
次回から、マスコミ編の本編に戻ります。
平日に投稿した前回と今回の話に気付いていなくても、続きは違和感なく読めるという。
【ボツネタ】
カタカナの学習に悩むミィレと、教えるアサ。
元ネタはこち亀ですね。どこかで、そのまんまのネタを見掛けた気もします。
アサ「これが『ソ』」
アサ「これが『ン』
アサ「これが『シ』」
アサ「これが『ツ』」
ミィレ「全部同じじゃないですか!?」
アサ「全然違うわよ。もっとよく見なさい」
ミィレ「ええ~?」
アサ「そしてこれがカタカナの『リ』と平仮名の『り』」
ミィレ「……(滝汗)」