海棠文香の夢
今回から、新キャラが出ます。二十代前半女子。若いです。これで少しは、登場人物の平均年齢を下げられるのだろうか?
まだプロローグ的な話なので、ちょっと各エピソードが細切れですね。
でも、もう少しで仕込み的な話も終わりかと。
海棠文香は眉根を寄せて、PCモニターに向かっていた。
オフィスの中。自席で、先ほど取材してきた内容を原稿として書いていく。パチパチパチパチと、キーボードをひたすら叩く。
書いている記事は、異世界カレーの美味しいお店だ。都内で美味しいお店として、話題になりつつあるお店を訪れては、異世界風と言われているカレーを食べて、その記事を書く。大抵のお店が「企業秘密」とか言ってくるので、そこをそれとなく、書ける範囲がどこかを聞き出しながら、読み手の興味を煽る文章を考えていく。
まあ、何だかんだで「秘密」を語りたい人情というものもあるので、頼み込めば「これ以上は流石に」とか言いつつ、その一歩手前までは教えてくれたりする。
しかし正直、美食家でも何でもないのだから、どこのカレーを食べてもあまり味の違いは分からないように思う。いや確かに、どこも美味しかったのだけれど。本当に些細な違いを文章化するあたり、どう表現すればいいのやら結構頭が痛い。まあ、それも店主のこだわりに沿って書けば、それっぽくなるものだと学んだけれど。
「でも、流石にカレーばっかりだと飽きちゃうわよねえ」
こんな企画を立案した上司と、それに立候補してしまった自分を殴ってやりたい。
「異世界かあ」
就職して、約一年と半年が過ぎた。雑誌記者なんて仕事を選んだくらいだから、海棠も自分も好奇心は強い方だと思っている。そして、異世界ネタは彼女の好奇心を刺激して止まない。異世界カレーの企画に立候補してしまったのも、それが理由だ。
兎に角、何だろうと異世界のネタは知りたい。そしてそれを多くの人達に広めたい。
「でも、本当。どんなところ何だろ?」
外務省のwikiも見ている。ひょっとしたら、いつか異世界に行ける日も来るかも知れないと、簡単なイシュテン語を勉強してみたりもしている。発音は、正直言って自信無いけれど。
しかしだ。本当にそんな日が来るのだろうか? それがいつになるのか? その予定も、クリアする条件もさっぱり見えない。外務省から発表が無い。本当に、お役所というのは肝心な情報を出さないと思う。
異世界について出てくる情報は、多い。けれど、どれもそれは、あくまでも外務省を通して出てきた情報でしかない。
一般市民の読者のニーズに対し、十分に応えているかというと、そうじゃない。ここはやっぱり、異世界に行って、直接ネタを取ってきて、それを多くの人達に伝えたいのだ。いつまでもカレーだの何だのと。そんなネタを続ける訳にもいかない。
しかし、今はまだ訪問の許可が下りない。
そしてつい最近また、規制が追加された。主要な観光地への出入りが制限されたのだ。視察や他の観光客の妨げにならないようにと。異世界から来た人に対し、囲み取材はしないという約束も守っていたというのに。
読者達が興味を持ちながらも、中々情報を得られない場所へと赴き、そして情報を集めて周知する。それこそが、マスコミの本分である。社会正義である。外務省は、そんなマスコミの崇高な指命を理解していないのではないかと思ってしまう。
人によっては「いつまでもマスコミを異世界に送らないのは、何か隠したいことがあるからではないか?」「情報統制をしている可能性が」と言っている人もいる。海棠自身としては、「いやまさか、それは流石に無いだろう」と思っているが。
けれど、権力の監視もマスコミの使命だ。疑いを持っておいて、悪いことはない。
けどまあ、何だかんだと思考を巡らせたところで。結局のところ、最終的に行き着く結論はこれに尽きる。「自分も異世界に行きたい」。
「異世界かあ」
もう一度、呟く。
もしも、本当に異世界に行くことが出来たなら? 聞いてみたいことは山ほどある。
実際のところ、アサ=キィリンではなく一般の人達は、こちらの世界のことをどう思っているのか? 外務省のお役人は、本当に誠実に彼らと向き合っているのか? どんな風に彼らと接してきたのか? 外務省の発表は、真実なのか? 魔法とは、実際にはどんな感覚なのか?
「何とかして、直接話せないかなあ。異世界の人と」
それも、出来るだけ自然に。警戒心を抱かせずに接触したい。
でも、もう有名な観光スポットには入り込むのは難しい。
マスコミを監視する人間というのも、結構いるようで。先日も、とある大手新聞社の記者が潜入したところ、そういった輩に見つかった。そして、あっという間にネットで拡散され、お役所にも発覚。厳重注意されることとなった。
元々、捏造や誤報を繰り返す新聞社だとネットで評されているところなので、ネット上ではその新聞社叩きがますますエスカレートすることとなった。ちょっと遠くから写真に撮ろうとしたくらいで、そこまで口うるさく言うことないだろうにと思う。
でもまあ、そんな状況の為。もし可能性があるとすれば、彼らがそういう観光スポットにいないところを狙うしか無い。
「でも、それも難しいのよねえ」
そうなると、範囲が広すぎて絞れない。観光スポットは色々あるし、そこに移動する手段も色々と迂回しているらしい。
外務省からはなるべく控えて欲しいと言われつつも、それでもネットで流れる目撃情報を追うと。「何でその経路で次の目撃情報がここ?」と言いたくなるようなこともしばしばだ。
これについては、国が欺瞞情報も流しているのかも? などという噂すら、マスコミ関係者の間ではあったりする。まあ、一日に複数の異世界人が訪れているようなので、一人の動きだけを追うみたいなことが難しいというのが、真実だろうが。
海棠は小さく嘆息した。
取りあえず、明日の取材に行ったときは、先日の目撃情報で見掛けた蕎麦屋に行ってみよう。
流石に店主に、それが本当だったかとか、どんな様子だったかを根掘り葉掘り聞くような真似は出来ないが。それでも、異世界の人間が虜になったらしいという蕎麦がどんなものかは、ちょっと興味ある。
案外と、それで向こうで噂になって、ひょっこりとまた来てくれる人が出てくるかも知れないし? いや、可能性は低いと思うけれど。
「あの、海棠さん?」
「うえっ!? あ、はいっ?」
不意に後ろから声を掛けられ海棠はびくりと体を震わせた。
首を後ろに向ける。カレー取材に一緒に行った先輩が立っていた。
「カレーの原稿、いつぐらいに出来上がるかな? 間に合いそう? さっきから手が止まってるけど? 何か書けないところとか、あるの?」
「……あ」
言われてみればそうだった。いつの間にか、異世界取材の妄想にばかり意識が向いてしまっていた。
「大丈夫です。ちょっと考え事していただけで。間に合います」
「そっか。じゃあいいけど」
「はい、すみませんでした」
頭を下げ、海棠は再びカレーの記事に意識を向けた。
白峰の登場予定とかを考えると、あれ? またこいつ影が薄くなりつつある??
ま、まあもうこれで当分は、ストーリーに深く関わってくるような新キャラが増えることは無いはずだし(汗)。
裏でアラサー葬女キャラが。
「うちはもう、お払い箱なんや。これからは若くて可愛い女の子が、うちの役割を担当するんや」
とか、嘆いている妄想が浮かんできますが。
そんなこと無いからね? まだまだ、彼女には「活躍」して貰わないと困るんですよこれが?
海棠文香のキャライメージを設定メモに追加しました。
あと、旧バージョンの女性キャライメージを差し替えました。