表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この異世界によろしく -機械の世界と魔法の世界の外交録-  作者: 漆沢刀也
【マスコミ炎上編】
72/279

変わっていく体制

親書を交換したことで、状況がまた色々と変わってきたと。

 グランドヒルホテルの和食レストランにて。

 箸を置いて、佐上は手を合わせた。

「ごちそうさまでした」

 何となく、近頃は出される料理の味が、少し分かるようになってきた気がする。大きな山を越えて、余裕が出てきたというのもあるだろうが。舌が肥えてきたような気もする。


 いかん。これはいかんなあ。と、佐上は内心ぼやいた。こういう美味しいものばかり食べていたら、そのうちタコ焼きや好み焼きを受け付けない体になってしまわないだろうか? そんな懸念が浮かぶ。

 いつまで続くんやろな? この仕事?

 ふと、そんなことを思った。気付けば、もう結構長く東京にいる気がする。


「佐上さん」

「え? あ、はいっ?」

 正面の席に座る月野から、不意に声を掛けられ、佐上の声は裏返った。

「な、何ですか?」


 また何かやらかしてしまったんやろか? うぅ、嫌やもう。このド腐れ眼鏡。そこまで悪い奴やないっちゅうんは、分かってきたけど、お説教はなあ。

「いえ? 僭越ながら、出会った頃に比べたら、随分とテーブルマナーも上達しましたね。と、そう思いまして」


 佐上は目を細めた。

 今、一瞬やけどこいつ、笑わなかったか? 本当に、うっすらとやけど。目の錯覚か?

「そうですか? 自分では分からないですけど」

「ええ。例えばそちらの焼き魚ですが。以前に比べて、綺麗に骨しか残っていませんし」

「え? まあ。確かに」

 言われて気付く。以前も、そこまで汚い食べ方をしていた訳ではないが。でも、確かに以前とは違う。ちなみに、アサは早々にこちらのマナーをマスターしていた。これはやっぱり、育ちの違いか。


「よかったわね。佐上さん」

 隣で、アサが笑みを浮かべてきた。

「よかったって、何がですか?」

「月野さんに褒められて。認められた? と言った方がいいのかしら?」

 アサに言われ、佐上は腕を組んだ。首を傾げる。


「なあ、あんたさっきの。うちを褒めたつもりやったん?」

「そのつもりですが?」

 佐上は少し驚いた。こいつに、そんな神経があったとは。

「そうなんか? えっと、有り難うございます」

「いえ、それも佐上さんの努力有っての賜物ですから」

「あ、はい。どうもです」


 何やろ? この気恥ずかしさ。

 でも、褒められて悪い気はしない。

 こんな風に付き合いが続くのなら、もう少し東京にいてもいいのかも知れんな。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 それは、突然の話だった。

「ところで、佐上さんの扱いについて、今後はどうするつもりなのかね? 外務省はどのように考えているのか、あれば聞かせて欲しい」

 ギクリと、胸が痛んだ。


 総合対策室への報告。

 報告のほとんどは月野がやってくれている。自分は、たまに何か訊かれたときに答えるくらいなのだが。

 質問してきた男の肩書きは覚えていない。確か、どっかの大臣だった気もする。

「報告を聞く限り、アサさんも大分日本語を習得しているようです。その上で、今のまま今後も佐上さんに協力をお願いする必要があるのか? そこが少し気になります」


 確かに、その通りだ。

 自分は言葉を通じるようにするために、ここに来た。そして、その問題も大分解消されつつある。だとしたら、自分の存在価値はあるのか?

 佐上には、思い浮かばない。

「佐上さんにも、無理を言って随分と長くこちらに留まって貰っている状況ですしね」

「あのっ!」

 思わず、佐上は手を挙げた。

 一斉に、会議室の視線がこちらに向いた。何か考えが有ったわけでもない。

 佐上は、口籠もった。頭が真っ白になりそうになる。

「あ、ええとですね? 私のことでしたら、気にしないで下さい。状況が状況だと分かっていますから。大丈夫です」

 声、震えていたなあ。と、言ってからどこか遠い意識でそんなことを思った。


「その指摘は尤もですな。今すぐには答えられませんが、考えることにします。佐上さんの申し出は、大変ありがたく思いますが」

 確か、桝野とかいう人だったか? 月野から、外務省の偉い人だって教えられた人が、続けて答えた。

 この話の流れ。ひょっとしたら。いや、多分そうだろう。自分の役目は、もうここで終わりになる。


 折角、ちょっとは仲良くなれたと思ったんやけどな。

 それが、寂しく思えた。ここに来たときは、まさかそんな風に思うとは考えもしなかったけれど。それで、さっきはつい手を挙げてしまった。


「ああそれと、話は変わるけれど。ゲートの警備についても、少し考え直して欲しい点があります」

 今度は、警視庁の代表が手を挙げた。

「と、言いますと?」

「交通規制の緩和に伴い。今ではゲートを囲んだ百メートル四方程度しか封鎖が無い状態です。また、先の親書交換以降、要人の来国も頻繁に行われるようになりました」

 それで、白峰も今では地下鉄を使って通っている。いつぞやの宣言通り、規制の解除がされてもタクシー通いという真似はしていない。


「そこで、今は対テロ対策に人員を割きたい状態です。ゲートの警備も厳重にしたい。交流の付き添いについて、一考をお願いしたい」

 他にも、その後は色々と話し合われていたような気がするが。

 佐上の頭には、ちっとも入ってこなかった。

普通に考えると、佐上の役目はもう終わったのかも知れませんが。

出来れば、このままフェードアウトはさせたくないですね。

書いている側としては、彼女は凄く使いやすくて便利なキャラなので。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ