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この異世界によろしく -機械の世界と魔法の世界の外交録-  作者: 漆沢刀也
【マスコミ炎上編】
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【外伝的小話】かくして彼が選ばれた

今回はちょっと時間が戻って、どうして白峰と月野が選ばれたのかとかそういうお話。

 桝野は執務室の中で、しかめっ面を浮かべていた。

 例のゲートが出現し、異世界と繋がってから一週間が経とうとしている。

 進展はほとんど無い。

 何だかんだで、ゲートを挟んであちらの人間と対峙している機動隊員が上手く応対してくれたおかげで、ここまで衝突が起きていないだけマシだとも言えるのだろうが。


 とはいえ、いつまでもこのままでいいわけでもない。いい加減、何らかのアクションを起こさなければ事態は先に進まない。特に、良好な方向へ進める必要がある。

 そう考えると、行政の動き、意思決定は遅いと言わざるを得ない。マスコミからも散々言われているが。


「なまじっか、切迫していないからこそ。何だろうけどな」

 桝野はぼやいた。

 これが、武力衝突になるかならないかという緊張状態であれば、流石に違う動きになったのだろうが。今求められるものが「とにかく選択を下す」ではなく、「よりよい選択を下す」になったが故に、各所も慎重になった。

 彼の目の前には、書類の山がある。書類は、現時点で日本にいる外務省職員の経歴をまとめたものだ。


 あくまでも、雰囲気やスケッチブックに書いた絵を交換した結果で。ということだが。機動隊員からの報告で、どうやら一度お互いの人間を交換して、話がしたい。そんな話が上がってきた。

 そして、国を代表して対話をする機関がどこになるか? となると、外務省だろう。そんな理由で、こちらに白羽の矢が立てられた。総理大臣。外務大臣。言語学者。他にもそんな案はあったが、万が一が起きたときの影響の大きさなどを理由に、除外された。


 国外にいる外交官を呼び戻す。というのは、難しい。進展そのものは進んでいないが、突然の事態に説明の要求は各国からせっつかれている。そんな中で担当を変えるのは、関係の再構築という点でよろしくない。そして、引き継ぎをする余裕も、とてもではないが無い。


 ちっ、と。桝野は舌打ちした。

 実績だけを考えれば、候補はいないわけでも無い。そして、それら数人は一応、既に選別済みとしている。

 だが、出来ればあまり選びたくはない連中だ。派閥や閨閥の問題が絡む。それがどうにも、上手くいこうがいくまいが、後々に問題を生みそうな気がしてならない。ここから更に選ぶのも、頭が痛い。

 そういう、余計な要素が絡んでいない。そんな、都合のいい人間がいないものか?


 人員のリストも、残り少なくなってきた。どうやら、リストは選別がしやすいよう、経歴が立派な順に並べてくれたようで、徐々に期待値が下がってきたような気がする。

 実を言うと、全部の人間を見る必要は、本当にあったか? そう考えると、実を言うと無駄な気もする。だが、他人に任せて、その候補から選んだ人間が本当に最適かというと、それもまた納得出来る気がしない。


「ん?」

 ふと、桝野は手を止めた。

「月野渡。出身は、青森か」

 現地の水が合わなかったのか、国外勤務ではあまり長続きせずに日本に呼び戻されているが、能力そのものは低くない。むしろ、高い方かも知れない。日本では結構実績があるようだ。そして、この海外の経歴の瑕疵のせいか? 元々は有望視されていたようだが、派閥にも閨閥にも縁が無いようだ。

 こいつ、案外と使えるかも知れねぇな。詳細は後でまた調べさせるが、既に選んだ候補とはまた別という意味で、桝野は月野渡の名前をそれらとは別にメモに追記した。


 そして、ふと思う。

 いや、待てよ? 今必要なものは何だ? 立派な経歴じゃねぇな。月野渡もそうだが、経歴で派閥や閨閥が絡むくらいなら、多少の傷があってもいい。優先すべきは、そこじゃない。

 今、あちらに行く人間で最も求められているものは、言語の習得能力と相手の懐に入り込む能力だ。


 月野渡よりリストの後ろにいる人間の経歴を確認。いずれも「無し」と判断。

 そして、続いて桝野は候補者リストとは別に用意されたリストを手に取った。海外研修から戻ってきた若手についてまとめたものだ。異世界の対策室としては、猫の手でも欲しい。というわけで、そっちに入れるということで参考までにと用意されたものだ。

 あわよくぼ、という思いで桝野は資料に目を通す。


「まあ、流石にそう上手くはいかないか」

 数人を見たところで、桝野はまたぼやいた。

 いずれも、優秀な人間ということは間違いない。まず、ほとんどの世界で通用する人材だろう。しかし、異世界と渡り合うだけの「何か」を感じない。

 強いて言えば、良くも悪くも秀才レベルといった具合だ。まあ、それを言えば既に選んだ人間もそんなものなのだが。


 諦めを感じつつも、桝野は次の経歴を見る。

「あ?」

 なんだこいつ? というのが、その時桝野が思ったことだった。

 ネイティブ並みに話せる言語が、十を軽く超えているだと? この歳でか? 欧米に南米に中東にアフリカ。世界のほとんどの地域に送り込んでもやっていけるじゃねえか。いや? 歴史上の人物には、それくらいを話せる人間は珍しくないが。つまりはこいつ、そのレベルということか。

 言葉を覚えることが、趣味か何かなのか?


 名前は、白峰晃太。

 そういや、数年前に噂を聞いた気がする。一人、化け物がいると。あの頃は、どうせ話を盛っているのだろうと、さして気にもしなかったが。なるほど、それがこいつか。

 研修の様子も、どうやら悪くはない。交渉力は平凡。だが、相手に用件を伝える。相手の話を理解する能力には長けている。性格は温厚だが、引いてはならない一線だけは、決して引かないと。意外と、頑固というか、芯のある面もあるのかもな。


 習い事で武術をやっていたこともあり、研修先では、あっちの知り合いに何度か披露を頼まれたこともある。これも多少は、護身にもなるか? というか、まだあるのか? 日本人と空手を結びつけるイメージ。

 モットーは、「何事も覚悟を持ってことに当たる」。ならば、この件でも、うだうだと尻込みはしなさそうだ。


「出身は、九州の鹿児島か」

 分かるような気がした。戦国時代の島津氏だとか、明治維新をやった人間だとか、そういう連中に通じるものがありそうだ。

「見てみるもんだな」

 にやりと、桝野は唇を歪めた。


 後付けのような気もするが、この件に向いた人物とは、おそらくこういう人間だ。「派閥に無関係」「高い言語習得能力」「護身の術」「コミュニケーション能力」といった条件を満たす者。

 更に言えば、かなり長く相手と付き合う可能性がある。それこそ数十年単位で。そうなると、年齢が若いというのもメリットだろう。


 問題は、相手が年齢を以て何をどう判断するか? そこがまだ分からない点だ。若さを理由に、侮られたと感じるかどうかは、実際にやってみないと分からない賭けだろう。そこは、文化傾向を知る機会として活かすしかないが。

 出来れば、若手を送ったことは「初手から何らかの約束や交渉をする気は無い」という意図として、汲み取って貰いたいところである。


 上への報告をシミュレートする。おそらく、通せるはずだ。

「よし」

 月野渡と白峰晃太。最有力候補はこの二人とする。

 まだ分からない部分は多いが、そこはこれから調べることにしよう。

実を言うと、彼らの出身地については割と早くから決めていました。

でも、県民性とか調べる前からイメージしていたのに、調べるとだいたいよさげな気がしています。

問題は、その通りのイメージでキャラが伝わっているかどうかですが。

伝わっているといいなあ。

というか、出身地を予想できた人とか、いるんだろうか? いや、そもそも考えない人がほとんどな気もしますけど。自分も、気にして本を読んだことないですし。

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