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異世界とマスコミの動き

お待たせして申し訳ありません。今回から、マスコミ編です。

 アサ=ユグレイは執務室の机の上で、新聞を広げていた。

 新聞は一部だけではない。この王都で発行されている主要紙を揃えている。

 見比べた限り、書き方は様々だが、異世界と友好的な親書を交換出来たことは、概ね好意的に受け止められているようだ。


 王家には、日本の絵皿が送られてきた。皿には日本を代表する花や鳥、風景が描かれている。多様にして大胆な色使い。それでいて落ち着きのある絵皿は、王室関係者にも高く評価された。

 色々あって、一度あちらに返したタブレットも、一緒にこちらに送られている。

 タブレットには、アサ=キィリンがあちらの皇室と謁見したときの様子。そして、あちらの天皇皇后両陛下によるメッセージが動画として追加されていた。


 そして驚くことに、こちらに送られてきた親書とメッセージは、日本語とイシュテン語が使われていた。

 こちらに深く関心を持ち、そして敬意を払って貰えている。天皇と皇后のその細やかな心遣いは、王と王妃の胸を打った。

 そんな、一連の情報や解説が細やかに記事に書かれていた。


 しかし、ユグレイは軽く唸る。

「どうかしたんですか? また、眉間に皺が寄っていますよ?」

「ああ、うん」

 彼は頭を掻く。

「何か、気がかりなことでもあるんですか? 無事、あちらの。ええと? 日本との友好も深まったんでしょう? キィリンも、世界各国の外交関係者と直接会って交流して、それも問題なく終わったようですし」


「まあね」

 ユグレイは新聞から妻へと視線を向けた。

 娘からの報告書は、既に目を通している。

 たったの半日やそこらで、二百ヶ国近い国の外交関係者と会ったという。報告書には到底、その時の出来事は書き切れていない。覚え切れていないとは書かれていたが。それでも、上出来な方だろう。


「あちらとこちら、双方に敵意は無い。友好的な交流が可能であることは、より強く示された訳なんだけど」

「いいことじゃないですか?」

 ユグレイは頷く。

「そう。とても、いいことだよ。それは間違いない」

「だったら、何もそんな難しい顔することないじゃありませんか?」


 ユグレイは、新聞の一つを手に取り、指さした。

「『私達は、ルテシア市への特派員を派遣することを決定しました』って、書いてある。他の新聞社も、同じみたいだね。多分、この王都だけじゃない。他の都市や海外からも、同じ動きがあると思う」

 そう言うと、妻は首を傾げた。

「あら? 今更なんですか? てっきり、もうとっくにルテシア市に入っているものだと思っていましたけど? 案外と、マスコミも動きが遅いんですね」


 妻の指摘に、ユグレイは苦笑する。

「いやまあ。実際、僕もそう思うよ? ああ、既にいくつかのマスコミは、ルテシア市に行っていただろうっていう意味でね? 特に、国外の記者はそうだろうね。とはいえ、ゲートを超えてあちらの世界に行けるわけでもないし。せいぜい、ルテシア市の新聞を書き写すか、市の様子を書く。というくらいしか出来なかっただろうけど」

「では、何故今になって?」


「安全が確認されたなら、いよいよ以て自分達の手でネタを掴みたい。あわよくば、直接あちらの世界に行ってみたい。そして、そこで見聞きしたことを報道したい。そんなところだろうね。これからが、その大きな機会だと思っているんだよ」

 恐らく、彼らは数日後にルテシア市に発つ船で行くのだろう。その船には、大陸六大国の外交官と魔法学者、生物学者が乗り込むことになっている。ちなみに、イシュテンだけは既に娘(アサ=キィリン)がいるからということで、外交官の派遣は無い。


「全国や海外で取材が出来る資格を持つ記者は、限られていますから、特に問題が起きるとも思いませんけれど?」

「それも、確かにその通りだ。ただね?」

「ただ?」

「以前、娘からの報告で気になることがあった。あちらの世界のマスコミは、信頼できる人間の見分けを付けることが非常に難しいらしい」

 だから、交流はまず衛士からということになったのだった。


「つまり、私達の世界のマスコミと、あちらのマスコミとで、報道に対する意識や常識が異なるかも知れない。そういうことかしら?」

「そういうことだよ。最悪、近代以降のマスコミ制度が確立する前に近しいこともあるかも知れない」

 そう言うと、妻も眉をひそめた。


 彼女も、こちらの言いたいことが分かったようだ。マスコミが力を付け過ぎ、意図的に情報統制をして民衆を煽り、国を歪めた歴史や事例はあちこちにある。最悪、それで滅んだ国すらも。

 だからこそ、この状況下では彼らにはより慎重な報道と、重い責任があるのだ。

 報道如何で、交流の行く末が大きく異なることになるのかも知れないのだから。


「あちらの世界の人間も、こちらと同じだというのなら。ひょっとしたら、あちらのマスコミも、こちらと同様のことを考えているかも知れないね」

「つまり、双方のマスコミ関係者に対して、ゲートを超えてよいか、見極めが必要になってくる。そういうことですね?」


「そういうこと。キィリンには、注意するよう言っておくことにしよう」

「そうですね」

 ただ、それでも気がかりなことがある。

 あの子はこれまで、あちらの世界でも、信頼できる人間に囲まれてきた。

 それが、もしも何らかの悪意に晒されたとき、どう考え、どう動くのだろうか?

マスコミ編と言いつつ、次回とその次は、番外編になると思います。

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