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各国外交官との交流会

謁見に続いて、今度は各国との交流会です。

 グランドヒルホテルのパーティ会場にて。

 佐上弥子は、アサと共に各国の外交官達との交流を深めていた。

 服だとかメイクだとか、そういうのはホテルの美容院でセットしてもらって、その状態で参加している。


 交流会の前に、アサと合流したのだが、彼女の話を聞くに、謁見の出来は上々だったようだ。

 でも、本当に自分達の話まで話題に上ったと聞いたときは、少し頬が引き攣った。いや、覚悟はしていたし別に恥ずかしい話でも何でもないのだが、畏れ多いというか何というか。


 「知り合いには言えんな」と、思う。特に母親には。もし聞かせようものなら、ご近所と親戚中にまた話が広まることになりかねない。というか、柴村技研と翻訳機開発の件がニュースになって以来、既に今の自分がこういう立場になっていることも、広められているくらいだ。正直、帰るのが恐い。


 まあ、自分自身も言うのを我慢出来るかというと、ちょっと自信無かったりするのだが。

 聞けば、自分達以外にも彼女の使用人達についても、語ったらしい。まだ会ったこと無いけど、ご愁傷様と思った。


 しかしまあ、次から次へと。この地球上に、よくもまあ、こんなにも国が有ったものだと思う。聞けば、日本が国家承認している国のほとんどが、この場に来ているそうだ。

 そりゃ、これだけ多くの人間を相手しないといけないとなると、接待するのもアサ一人でというわけにはいくまい。話すだけで疲れてしまうだろう。


 「会話の内容は、当たり障りの無い世間話で結構です」と月野に言われているので、言われたままに従って、佐上は話をしている。もう、これで何ヶ国目の人なんやろ? それはもう、数えてもいない。

 最初は少し緊張したが、話しているうちに緊張も解けてきた。話してみると。なんや? みんな、いい人やん? どんだけ偉いのか、さっぱり分からんから、取りあえず社長のときと同じように接しているけど。あと、アサの真似をしていれば、大体何とかなっているようだった。ここら辺は、流石に場数の問題だろう。


 まあ、方言を話すと、いくら日本語に堪能でも海外の人間には辛いこともあるそうなので、そこだけ徹底しているのだが。

 あと、どいつもこいつも、アサの耳に触れてきた。言い出しっぺはイタリアらしいが、それを聞いて各国の人間も興味を抑えられなかったらしい。自重しろイタリア。お前ら、桜野はんが報告していたけど、異世界の4歳児と同じやぞ? アサは、笑って応じているけれど。


 そういや、あいつは今、どうしているんやろか? ふと気になって、佐上は月野の姿を探した。

 一応、これまでに話した相手に聞く限り、自分の出身だとか身分について賭けをしている様子は無いようだが。ちなみに、そんな質問をしたときは、結構ウケた。自虐ネタではあるが、ウケると気分はいい。

 軽く、会場を見渡す。数秒も探して、姿を見つける。


 あの人は確か、ロシアの男やったと思う。その人と彼は話していた。何を話しているのかは分からないが、何だかんだで接待しているようだ。折り目正しくお辞儀をして別れ、他に話をしていない人のところへと向かう。今度は、あれはどこの女の人何やろな?


「佐上さん、どうかしましたか?」

「えっ? あっ、はいっ!? ごめんなさい。失礼しました。ちょっと、知り合いの様子が気になったものですから」

 目の前の男から訊かれ、佐上は我に返った。慌てて頭を下げる。

 幸い、温厚な人だったようで、その瞳に怒りの色は浮かんでいないようだったが。


「月野渡さんですか?」

「ええ、まあそうなのですが。どうしてそれを?」

 チッチッと軽く舌打ちをして、彼は人差し指を振って見せた。

「何。簡単な推理ですよ。聞けば、主にあなたと月野さんが、アサさんとの交流をこれまでしてきたそうじゃないですか? となると、あなたが気になる男性となると、導かれる答えは、ほぼ決まったようなものです」


 佐上は苦笑した。

「なるほど。言われてみれば、確かにその通りですね。あなたは、名探偵なんですね」

「シャーロック=ホームズには、ほんの少しだけ負けますけどね?」

 アサが首を傾げた。


「あの? シャーロック=ホームズとは何ですか?」

「ん? ああ、昔書かれた、世界的に有名な小説の名探偵のことです」

「メイタンテイ?」

 ああ、そういえば、まだ彼女には探偵という言葉は教えていなかった。ええと? これどう教えればええんやろな?

「『探偵』というのは、事件とか秘密とか、そういうのを調べて明らかにしていく職業のことです」


「『刑事』とは違うのですか?」

「少し違います。刑事は警察の仕事の一つですが、探偵は民間の仕事になります」

「そして、シャーロック=ホームズとは、ほんの僅かな手がかりから難しい事件の謎を解いて、真犯人を暴き出す。そんな探偵なのですよ。お嬢さん」

 佐上の説明に、彼が続ける。それを聞いて、アサは「なるほど」と両手を合わせた。


「ちなみに、そちらの世界には、そのような物語はあるのでしょうか?」

「ええ、ありますよ。有名なものがいくつか。例えば――」

「おっとっとっ!? お願いですから、犯人は教えないで下さいね? 題名だけでいいですから。私は、そういう小説を読むのが大好きで、読むまで楽しみにしていたいのです」


「はい、分かっています」

 にこりと、アサが微笑む。

 どうやら、ミステリー小説のネタバレ禁止は、あちらも含めて世界共通の様だった。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 昼から夜にかけての交流会も、ようやくお開きになった。

 実際のところは、一人あたり数分程度しかアサと話をしていないのだろうが。それでも、アサと直に会って話をしたことが、彼ら彼女らにとって意義の有るものであった。有って欲しい。そんな風に、佐上は思った。


 グランドヒルホテルの一室で、佐上は下着姿となり、ベッドの上に寝転ぶ。

 本当なら、やっぱりこんなホテルの一室は落ち着かない。でも、前々から夜遅くなるとは言われていたし、疲れているし、今日くらいは慣れない真似を頑張った自分へのご褒美ということでいいんじゃないか? そんな風に思う。


 ちなみに、明日は休みである。流石に、今日のこれで明日も仕事するのは体力が保たない。

 と、スマホが震えた。

 メールが着信。送り主は、月野渡。題名は「お疲れ様でした」。

「あいつ、何を書いてきたんや?」

 ぼやきつつ、メールを開く。


 "月野渡です。佐上さん、今日はお疲れ様でした。"

 "アサさんへのフォローをして頂き、とても助かりました。"

 "各国の外交関係者の方々も、佐上さんとの交流が出来て喜ばれたようです。"

 "今日は本当に、有り難うございました。お休みなさい。"

 "それでは、失礼します。"


 "追伸。

 "私はヒギンズ教授とは違うので、佐上さんの出身についてどう思われたのかは、訊いて回っていません。ご安心を。"


 はぁ。と、佐上は嘆息した。

 ポチポチとメールの返信を書く。


 "おんどれは、本当にアホやなっ!"

 "そっちこそ、お疲れさんや。o(>▽<)o"


 そして、送信。

 くっくっくっ。と、笑みがこぼれて仕方ない。

 月野から、何かを窘めるような返信は無かった。

異世界のミステリー小説については、多分ネタに出てこないだろうなあ。

ミステリー。さっぱり読んでいないし、書けないから。

あ、気付いたらそういえばもう一年書いているのか。これ。

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