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二度目のご引見

 もうじきに昼に差し掛かろうかという頃、贈答の品と親書を手に、アサ=キィリンは皇居へと訪れた。

 贈るものはセリテル陶の大皿だと聞いている。これならば、確かに我が国を代表する品として、申し分ない筈だ。

 案内役に導かれるまま、宮殿の奥へと進む。どうやら、向かう先は初めて訪れたときと同じ部屋のようだ。胸が昂揚する。


 幸いにして、昨晩はあの後ゆっくりと眠ることが出来た。シヨイとミィレには感謝してもし足りない。体調は万全だ。

 もし、機会があれば、両陛下には両親だけではなく彼女らのことも話してみたいと思った。

 謁見の間にたどり着いた。静かに、そして厳かに扉が開かれる。

 部屋の奥には、以前に拝顔したときと変わらぬ姿で、両陛下は笑い、椅子に座っていた。


 アサは一礼して、奥へと進んだ。両陛下の前へと向かう。

 初めて訪れたときと同じく、近習の指示に従う形で、彼女は両陛下の前で足を止めた。

「お久しぶりです。本日はお忙しい中、お目通りの機会を与えて頂き、恐悦至極に存じます。ミルレンシア皇国と、その東を統べるイシュテン王国に忠誠を誓うアサ伯爵家が長女、アサ=キィリンです。特使としてイシュテン王国両陛下よりお預かりした親書と贈答の品を届けに参りました」

 一度、同じようなことはイシュテン語でも挨拶している。それが日本語だと出来ないという道理は無い。

 我ながら、自然に話せているとアサは自負した。


"こんにちは。今日は、よく来ましたね。あなたの訪問を歓迎します"


 アサは、初めて訪れたときと同じように、目を丸くした。

 先ほど皇后陛下が話された言葉。それは、イシュテンの言葉ではなかったか?


「皇后陛下? あの、失礼ですが。先ほどの言葉は、私達の国の言葉ではありませんでしたか?」

 くすりと、皇后陛下は笑みを浮かべた。

「よい機会だと思い、少し勉強してみました。どこか、おかしくなければよいのですが」

「い、いえ。とんでもありません。むしろその逆です。とても自然なイシュテン語で、驚きました」

「そう、それはよかったです」


 アサの言葉には偽りは無い。だからこそ、本当に驚いたのだ。

 そして、思い出した。今の皇后は、若い頃は外務省に勤めていたが、そこから天皇へと嫁いだのだと。語学の習得力も高いと聞いている。

 まさか、自分をこの日に迎えるためだけに。ということはあり得ないが。それでも、自分達の国の言葉を覚えてくれたというのは、胸が熱くなる思いだ。


「贈答の品をこちらに渡しては頂けないでしょうか?」

 隣に控えていた女性の近習に声を掛けられ、アサは我に返った。頷き、手にしていた箱を渡す。

 彼女は封蝋の押印を確認した。日本には、既にイシュテン王家の印章がどのようなものかは伝えてある。これが本物であることは、検められた。


「失礼します。中身を拝見させて頂きますね」

「はい」

 アサが頷くのを確認して、彼女は封蝋を割り、紐を解いて箱を空けた。

 箱の中から、黒地に蒼く輝き、数多の星々が散っているかのような斑紋を持つ大皿が現れた。

「セリテル陶の大皿です。古くから、我が国の王家機密の窯で焼かれております」


 アサが周囲を見渡すと、天皇と皇后、そして他にも何人かの人間が、息を飲む様が見て取れた。皿の美しさに目を奪われている。といった具合に見える。

 この様子なら、贈答品は喜んで貰えそうだと、アサは安堵した。

え~っと、すみません。

色々と畏れ多かったりするので。

作中の天皇皇后両陛下は、明仁様と雅子様そのままをモデルにしているとか、そんな真似はとてもじゃないけど出来ないです。

どんな風に話されるのかも、全然分からないし。これ書いているとき、指震えて仕方なかったし。

なので「口調がおかしい」「その振る舞いはおかしい」「皇室を何だと思っている」とか思われても、そこはマジで堪忍して下さい(汗)。


ちなみに、セリテル陶ですが。ちょっと後のエピソードでも取り上げるつもりですが。ぶっちゃけ、曜変天目茶碗の何か物凄いバージョンだと思って下さい。

あと、いつの間にやら曜変天目茶碗って、(作者曰く)不完全ながら再現されているみたいですね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここまでぶっとしで読んでて、面白くて止まらない。 読者にストレスをかける展開にはせず、読みやすさ重視なのかな?良くも悪くもあっさりしてる。 その上で背景の情報量はしっかりしてるから薄味では…
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