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恋バナ?:異世界関連事案総合対策室

今回は、他人から見て白峰達がどんな関係に思われているのか? そこら辺をちょっと説明。

 異世界関連事案総合対策室の夜は長い。

 今日も今日とて、残業である。それでもまだ、あのゲートが現れて不眠不休の毎日だった頃に較べれば、大分落ち着いてきたと言えるのだろうが。

 月野と白峰の報告を纏めたものが、メールで流れてくる。差し当たって、問題は起きていない。彼らに関しては、すべて順調に進んでいるようだ。


 報告会ではアサ=キィリンとの会話の様子を記録した録音も公開されたそうだが、日に日に自然なものへと成長しているのを実感する。この点、あのお嬢さんは恐ろしい学習スピードをしていると、もっぱらの評判だった。

 日本語と英語を一度に覚えてみせると言い出したのも、それだけの自信があったからなのだろう。

 そしてまた、白峰も負けてはいないようだった。彼の才能もまた、恐ろしい。あと、どうも彼も二つの言語を覚えてみせると言い出したのは、単なる若い意地によるものが大きそうだった。


 そして、彼のイシュテン語での言葉遣いが、女性的な印象に寄っているという問題。

 異世界に行っているときは、ミィレという女性に。そしてこちらでアサと話をしているときは彼女に確認しながら、直しているそうなのだが。月野によると、それが何だか、どちらがより早く言葉を覚えるかの競争のように見えているそうだ。二人とも、上手くいったときは、お互いに見せつけるように、微かにどや顔が浮かんでいるのだとか。


 この辺りは、何だかんだでまだまだ青臭いものだと思う。彼らはこんな案件の最先端にいるのだ。やがては大きく出世する道にいるのは間違いない。そして、より大きな責任を背負い交渉するようになるまでには、そういった感情を表に出さない術を学んで貰う必要がある。それが、いつになるのかは分からないが。

 そんなことを考えながら、この場で働いている一人の女が、隣に声を掛ける。昼に較べれば、仕事も少しは余裕がある。


「ねえ、最近ちょっと月野さん変わってきたように思わない?」

「そう? どの辺が?」

「丸くなった? いや? 感情的になった? 何か、そんな感じ」


 隣の女性が首を傾げる。

「あんまり、私にはよく分かんないんだけど? 気のせいじゃない? だって、あれよ? 月野さんでしょ?」

 表情筋が死んでいる。彼が笑うところを見た人間は、数日以内に死ぬとか、そんな噂すらあるのが、月野渡である。

 いつも冷静沈着で、仕事の能力も非常に高く、誠実ではあるのでその点は上からの評価も高いのだが。


「いやいや、そんなこと無いって。私、こないだ見ちゃったのよ」

「何を?」

「月野さんが、佐上さんと廊下でアサ=キィリンについて、どうするかと話し合っているところ」

「で?」

「それがさあ。何だか娘の教育方針について言い争う夫婦喧嘩みたいだった。いや? 無愛想なシベリアンハスキーと、それにちょっかい出しては、たまに吠えられる猫? 仲良く喧嘩しな? まあ、そんな感じ。それまでの月野さんだったら、そこまでご丁寧に話に付き合わずにさっさと距離を取るし。何て言うの? 別に感情的にはなっていなかったんだけど、声色に感情が乗っていたっていうか。あの人がそんな感じで言い争うのって、レアだなって。そういうところ、変わったように思ったの」


「なるほどねえ。でもまあ、偏見だけど大阪の女性って腰が強いし? 佐上さんに食い付かれて、月野さんもそうなったのかも?」

「そう、それ」

「いや、何が?」

「思えば、佐上さんも変わったなあって。以前見掛けたときはもっと地味で大人しいというか、引っ込み思案で緊張しやすい人の印象だった。それが、段々と態度が堂々としてきたし。少し綺麗になったように思うの」

「人は成長するって事よね。慣れて本性が出てきたのかもだけど」


「それもあるわ。でも、何だかんだであの二人も、一日一緒にいることが多いでしょ? アサちゃんもいるけど」

「何が言いたいのよ?」

 彼女は人差し指を立てた。

「月野さんに、遅い春がやって来た? という、可能性」

 声を潜め、大真面目な口調で言う。


 しかし、隣はうろんな視線を返してくるだけだった。

「もうすぐ夏も終わるわよ?」

「知ってるわよっ! そうじゃなくて」

「分かってるわよ。でも、月野さんでしょ? あの月野さんよ? 有り得なさすぎでしょ。あの人、能力あるから当然、上からもお見合いを何度も勧められてきたけど、悉く断られたフラグクラッシャーよ?」

 だからこそ、『何も起こらない』という絶大なる信頼を得て、彼は今の役を与えられた。というのが、彼女らの見解であった。


「いや、でもさ? 逆に考えてみてよ? 月野さんにあれだけ食らいつき続ける女とか、他に見たことある?」

 隣はしばし、虚空を見上げた。

「無いわね」

「でしょ?」

 力強く頷いて、彼女は持論を続ける。


「だから、月野さんにしてみたら、ああいう風にいつまでも、感情的に構ってくれる女なんてのは、ほとんど初めてなんじゃないかと思うの。あの人にとっては、新鮮な経験なの」

 大抵の女性は、そこに行くまでに月野に見切りを付けて去ってしまう。堅物でつまらない男だという烙印を押し付けて。ついでに言うと、彼女もその評価には異論は無い。


「そして、月野さんは数日置きにあのスイートルームを使って、佐上さんにテーブルマナーだとかを教えているわけよ。教える側と教わる側。二人の間に特別な感情が生まれた可能性だって――」

「それ、アサちゃんもいるけどね。やるのも昼だし」

 流石に、ホテルの一室で男女二人一緒にはしない。あと、アサにもこっちの世界でのテーブルマナーを同時に教えているのだ。


「まあねえ」

 うーん。と、唸る。

「やっぱり、この説は厳しいか」

「厳しいんじゃない? でもまあ、確かに言われてみれば、月野さんが仕事のためとはいえ、佐上さんには妙に世話を焼いている気はしなくもないけど。でも、仕事の範疇に納まるしなあ」

「そうなんだよねえ」

 もし、自説の通りだったら面白いのに、と言ってみただけなのだが。


「むしろ、若い方はどうなんだろ?」

「白峰君とアサ=キィリン?」

「うん」

 彼女は首を傾げた。

「どうかしら? 実際に二人の様子を見たこと無いけど、月野さんとかからの話を聞いた限りだと、浮いた話っぽい様子が全然無い感じなのよねえ。仲は悪くなさそうだけど、友達感が強そうな気がする」

「まあ、世界を超えた恋とか、そんな物語のようにはいかないわよね」


 仮に結ばれたとしても、実際に結婚できるかというと、法整備を初めとして何もかもが足りていなさすぎる。生物学的に考えると、子供だって、出来るかどうか怪しい。そんな状態で、浮いた展開を自重するだけの理性は、彼らにもあるだろうし。


「若い頃の桝野局長だったら、怪しかったけどね」

「桝野局長?」

「あれ? 知らない? あの人の昔の渾名。外務省の007。仕事出来るし情報も集めてくるんだけど、あちこちに赴任しては次々と現地で女を取っ替え引っ替え作っちゃって? それで、色々ヤバくなって日本に封印されたっていう噂。あと、それが色々と祟って、独身のままになっちゃったって」

「うわあ」

 呆れるやら感心するやら。そんな溜息が隣から漏れた。


「その点、白峰君はまだ安心よね。ミィレ=クレナさんだっけ? 年齢も近くて? それこそ、二人っきりで言葉を教えて貰ったり? 異世界の街をあちこち回ったり? これもうシチュエーション的に、ほとんどデートじゃない。でも、報告は真面目一辺倒だし。浮いた様子が全然無いし」

「それもそれでまた、面白くはないわよね。いや、何かあって貰っちゃ困るから、それでいいんだけど。白峰君、そっち方面枯れすぎ?」

 そう言って、彼女は苦笑を浮かべた。


「写真とか無いけど、ミィレさんって可愛くなかったりするのかしら? もしくは、白峰君にとって全然タイプじゃないとか?」

「分っかんないわよねえ」

 興味は尽きないのだが、何しろ情報が出てこないのだから何とも言いようが無い。


「あ、ところで全然話変わるけど」

「うん、何?」

「異世界との『武器の持ち込み、持ち出しを禁止する約束』についての話って、どうなったの?」

 あくまでも約束であって、条約ではない。まだ正式にそういったものを結べる関係には至っていない。


「プランは大分固まってきたわよ。明日になるけど、計画についての資料は夕方には纏まると思う」

「OK。それなら、安心ね」

 親書が交換されることになっても、まだまだ片付けないといけないことは山ほど残っているのだ。

「彼が笑うところを見た人間は、数日以内に死ぬとかいう噂」

これが本当なら、アサはとっくに死んでいるんだよなあ。24話あたりで。

白峰が、浮ついたような情報を報告していないのは、まあ彼だって色々と考えている訳なのですよ。


色々と予定に無かったエピソードを追加していますが、あと数話で親書交換編も終わる。終わるはずっ!

あと、短いエピソードを書いてしまったので、そっちはどこか平日に投稿するつもりです。

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