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彼と彼女の言葉遣いイメージ

 天皇皇后両陛下に謁見した際の話題。それについては、「アサの家族について」「イシュテンの食べ物について」「日本に来てからの交流の様子」といったものを話す。

 月野と宮内庁の間では、そういう提案で固まった。

 アサも特に反対するつもりは無く。謁見時に話す日本語の予行練習としては、そういう話題で考えることになった。

 一応、王都にもその方向で報告はするが、恐らく反対は無いだろう。


 どうやってアサの話し方を直したりしていこうか? そんな話をした翌日。

 白峰はアサの屋敷を訪れていた。ティケア、ミィレを前にして説明をする。

「そういう訳で、今日からしばらくの間、午後からは日本へと戻らせてもらいます」

「うん。昨晩、こちらもお嬢様から聞いている。君も、お嬢様の練習に付き合ってくれるそうだね」

「はい、そういう事になります。ですので、その間は皇共語のレクチャーもルテシア市の見学も、控えさせて欲しいのです」


「分かっている。こちらこそ、お嬢様のために協力して貰い、有り難いくらいだ」

「もし、緊急に伝えて頂くような話がありましたら、ゲート付近にいる人間に伝えて下さい。そちらから、自分に連絡がいくようになっています」

「分かりました」

「練習の状況は、シラミネ=コウタから見てどんな具合ですか? お嬢様は、手応えを感じているようでしたけど」


 ミィレの質問に、しばしシラミネは昨日の様子を思い出す。

「そうですね。実際、悪くはないと思います。問題は語尾の使い方と、単語と単語の間に間が空くことがしばしばあるというぐらいですが。あの様子なら、謁見までには問題なくなると思います」

 彼女は、自分の分からない分野に対して素直だ。変に自分の考えに固執したりはせず、聞くべき意見をきちんと受け入れている。


 単語と単語の間に入る間については、単純に慣れの問題だ。

 イシュテン語は構文としては、動詞が最後に来るという点で、日本語の他には韓国語やドイツ語に近い。その上で、単語を分かち書きで文章を書くので、ドイツ語寄りかも知れない。

 この、単語が分かれるイメージの方が強くて、その相違に慣れていないとか。そんなことを彼女は言っていた。


「でも、これまで話していた言葉遣いや、これから話す言葉遣いで、相手にどういうイメージの違いが出るのか。それが分かりにくいって、お嬢様は言っていましたけど」

「それについては、方法を考えています」

「どんな方法ですか?」


 どう説明したものか? と、白峰は一拍を置いて考えた。

「ええと、以前に日本では漫画やアニメと呼ばれる表現方法が盛んだと説明したと思います」

「ええ。路上紙芝居の一枚絵を纏めて本にしたようなものが漫画。テレビやモニターという機械で絵を映し出して、その絵を高速で切り替えることで絵の中身が動いているように見せるものがアニメでしたよね?」


 ミィレの返答に、白峰は首肯した。

「そうです。そういった創作物の人物を見て貰って、どんなイメージになるのかを感じて貰おうと考えています。いくつか、参考になりそうな作品に心当たりもあるので」

 まさか、外務省で漫画やアニメの購入を請求することになるとは思いもしなかったが。


 ちなみに、提案したのは佐上である。恐る恐る、ではあったが。

 そして、月野は渋い顔を浮かべた。が、必要性も理解しているので、そこまで抵抗も無く「露骨に萌え路線に突き進んだものでなければいいです」という程度で納得して貰えた。

 まあ、そこに至るまでも。佐上と月野の間で「オタク文化馬鹿にすんなやっ! これも大事な文化やぞ。表現に貴賤無しや」「私がどう思っているとかではなく、上に説明し難いんですっ!」とか、軽い衝突があったりしたのだが。

 あの二人はひょっとして、いつもあんな調子だったのだろうか? 対策室への報告時には、そんな様子は全く感じていなかったのだが。


「お嬢様、楽しみにしているようですよ? 路上紙芝居、お好きですから」

「らしいですね」

 路上紙芝居は、この世界では広く親しまれている娯楽の一つだ。

 演目は子供向けから大人向けへと色々とある。昔、日本でやられていたような紙芝居と違うのは、紙芝居が大きめなことと、演者が複数人いることだ。でもって、イケメンボイスだとか可愛い系の声の演者だと、それもまた人気があるそうな。


「小さな頃は、何度も屋敷を抜け出そうとして大変でした。日も暮れてからやるシリーズがあったもので。流石に、そういうズルはよくないということで、きちんと屋敷の大人に言えば同伴で外出が許されましたけど」

「それで、お仕事の都合では旦那様や奥方様と一緒に出かけることも出来て、それも子供心には楽しかったようです」

「私も、お嬢様には振り回されましたけどね」

 くっくっ。とティケアは懐かしそうに笑った。この話は、先日にティケアからも聞いている。


 当時流行っていた作品のタイトルは詳しく覚えていないが。確か訳すと「お忍び」「王子の」「漫遊記」みたいなものになったような気がする。

 内容は、暴れん坊な将軍が市井で悪事を暴いたり、天下の副将軍が全国を旅するような時代劇を色々と足して割ったようなもののようだ。

 あと、その主人公の王子のモデルが、数百年前のイシュテンの王子らしい。そして、紙芝居に描かれた主人公がまたイケメンで、それが幼いアサの心を鷲掴みにしていたそうな。


「何にしても、これでアサさんには言葉遣いのイメージも伝わるかと思います」

「だと、いいですな」

 うむ。と、ティケアが頷く。

「ああ、あとこの際だからシラミネ=コウタにも言っておこうと思うのだが」

「何でしょうか?」


 ティケアは軽く咳払いをして続けてきた。

「実は、少し言いにくいのだが、君のイシュテン語の言葉遣いは少しばかり女性的な印象になっている。恐らく、一番会話をし、また参考にしているのがミィレだからだと思うのだが。いや、決して間違っているわけではなく、発音の仕方の問題なのだがね」

「えっ!?」

 全くの、寝耳に水だった。


 思わずミィレを見返すと、彼女は小さく震え、頭を落とした。

「ごめんなさい。私のせいで」

 小声で謝ってくる。

「あ、いえ。大丈夫です。気にしないで下さい」

 でも、そうだったのかと思うと、多少の気恥ずかしさはある。


「なので、これからはその点もミィレに確認した方がいいと思います」

「分かりました。教えて頂きありがとうございます。ミィレさんも、お願いします」

「はい。分かりました」

 どうやら、アサだけではなく、自分もまだまだ訓練が必要なようだった。

ちょっと、異世界側の娯楽について書きたかったので差し込んだエピソードになります。


【2019/11/16】

設定メモに一部キャラの脳内イメージを貼り付けてみました。

キャラメーカーでやっているので、再現率はまあお察しなのですが。キャライメージの参考になればと思います。

違うと思う人は、各自のイメージでお楽しみ頂ければと思います。

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