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スイートルームで日本の料理に挑戦してみました

ちょっと連休は日中に時間を取るのが難しそうな気がしたので、今回は金曜に投稿しました。

アサがこっち世界の生活について、学んでいる様子をちょっと入れてみたかった。

 丁寧に人参を乱切りに切って見せると、サガミ=ヤコは感心したような声を漏らした。

「はあ。私、てっきり貴族のお嬢様だから、料理とか作るの苦手なのかと思ってましたけど、そんなことないんですね」

 アサはにっこりと、少し自慢げに微笑んだ。


「家の 方針に違い あるけれど。私の家 では 一人で生きること 出来る。それが 大人として 資格だと 教えられて いますわ。だから、料理も 勉強 してます」

「なるほど。立派な考えです」

「ありがとう。でも、料理 作るの 久しぶりですわよ。上手く作れるか 不安が ありますわ。イシュテンの女だから 上手く作りたい ですけれど」


「イシュテンの女だと、何かあるんですか?」

「シラミネ=コウタ達から 聞いていないですの? イシュテンの女は 料理上手い。世界的な 冗談が あるのですよ」

「へえ? それは、聞いてませんでした。でも、これなら大丈夫じゃないですか? あ、次はこのジャガイモの皮を剥いて下さい」

「はい」


 日本に訪れてから、ずっと利用させて貰っているスイートルームのキッチン。今日はそこで、日本の料理を作ってみようという話になった。

 ちなみに、今日はツキノ=ワタルは来ていない。何でも、天皇皇后両陛下との謁見について、宮内庁との打ち合わせをしたいという話だった。

 なので、今ここには彼女ら二人しかいない。


 ツキノ=ワタルという、カメラマン兼ボディーガードもいないので、今日は外出は無し。そして、折角だから庶民的な料理を作ってみよう。と、そんな話になった。

 これは、アサが両親達から聞いた教えにもよる。その国のことをよく知りたいのなら、高官達と会うだけではダメなのだ。実際にその国の人達がどのように生活しているのかを体験し、肌で感じ、リアルに想像できるようにならないといけない。


「あ。ちょ。ちょっと待ってて下さいね?」

 慌ててサガミ=ヤコがカメラを向けてくる。ツキノ=ワタルがいないので、撮影役は代わりにサガミ=ヤコがやっている。

 こういうものを触るのは苦手なのか、おっかなびっくりといった感じで、初々しい。その姿が、年上ではあるのだけれど、アサには見ていて何だか可愛らしいと思ってしまう。

 パシャリと音がした。


「はい、大丈夫です」

 その声を聞いて、アサは料理を再開した。鼻歌交じりにジャガイモの皮を剥いていく。

 レシピについても、サガミ=ヤコからタブレットで見せて貰っているので、何とかなる。過程の様子と出来上がりまでが載っているので、イメージがしやすい。

 金属製の刃物というのは、少し重い気はするけれど。それを除けば、使い勝手は自宅にあるセラミック製の刃物と対して変わらない気がする。


 あと、扱っていて凄く贅沢な気もするが。でもそれを言ったら、この世界では身の回りが金属で溢れかえっている。いい加減慣れたというか、麻痺した。

 ガスコンロのスイッチを回す。カチッという音と共に、蒼い炎がコンロから浮かび上がる。可燃性のガスを送り込み、それを電気による火花で発火させる仕組みだと説明されたときは、それもまた驚いたものだった。金属だけではない。この世界ではそういった可燃性のガスについても採掘、利用する技術が進んでいるのだと。


 彼女の住む世界では、魔法を施した熱板(大抵は石製)を発熱させ、それで調理するのだが。

 いつになるのか分からないけれど、自分達の世界出身の人間達がこちらの世界に住むようになったとき。今の自分のような思いをしながら、慣れていったりするのだろうか?

 ふと、アサはそんなことを考えた。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 テーブルの上に、作った料理を並べた。

 今日の献立は以下の通り。


 ご飯。茶碗に盛られてホクホクとよい香りを漂わせている。

 油揚げとネギの味噌汁。具沢山。

 肉じゃが。具は、女性の口でも食べやすいように、少し小さめ。

 鮭の切り身を焼いたもの。脂が乗って香ばしい。

 ほうれん草のおひたし。ちょっと多すぎたかも知れない。


「うんうん。これは美味しそうや」

 サガミ=ヤコからの評価は上々だった。思わず、関西地方の言葉になっている。ツキノ=ワタルはいないが、サガミ=ヤコなりに、そういう言葉遣いは控えるように気を付けているようだが。

 あとは、この料理が彼女の期待に応える味だったら嬉しいのだけれど。

 サガミ=ヤコがカメラを手に写真を撮っていく。


「いやあ。これなら、アサさんはいつでもいいお嫁さんになれるんじゃないですか?」

 サガミ=ヤコの言葉に、アサは苦笑を浮かべた。

「それを 私のお父さんが 聞いたら、きっと もの凄く心配しますわね」

「何でですか? アサのお父さんって、親馬鹿なんです?」


 アサは小首を傾げた。

「『親馬鹿』とは、どのような意味の 日本語 でしょうか?」

「子供のことが可愛すぎて仕方ない。そういう親のことを言います」

 なるほど。と、アサは頷く。嘆息が漏れた。


「ええ、それはもう。もし私の身に何かあったら、王都 からこっちに 来て 暴れると思いますわ。外交する 人間としては 凄く優れている人間 なのですわよ? 尊敬しています。娘として 好きですけれど」

「なるほどなあ。娘としては、複雑な気持ちなんですね」

 まったくだと思う。


 サガミ=ヤコが写真を撮り終えて、席に着いた。

「さて、それじゃあ冷めないうちに食べましょうか」

「そうですわね」

 サガミ=ヤコと共に「いただきます」と両手を合わせた後、料理に箸を延ばした。さて、この国の庶民的な料理とは、一体どのようなものなのか?


 早速、と言わんばかりに肉じゃがを口に入れる。少し熱すぎた? はふはふと口の中に空気を送って冷ます。

 しかし、これは美味しい。甘辛いつゆが具材から染みだす。何だか心が落ち着く味だ。

「美味しいです。ニチェッカ のような 味ですね」

「ニチェッカ?」


「私達の 国の 昔からある 料理なんですわ。根 野菜と 芋と肉を使う 煮込む 料理です」

「ふうん? 面白い話ですねえ。どんな味なのか、私も食べてみたいなあ」

「いつか 食べられる ようになる と思います。私が 頑張ります から」

「そうですね。期待して待ってますわ」

 嬉しそうに、サガミ=ヤコは微笑んだ。

「けれど、もしいつかうちらが自由にお互いの世界を行き来できるようになったとして。魔法のある生活っていうのも、結構便利そうな気がするなあ。そこんとこ、アサはどう思っているんです?」


 便利? 意外な言葉に、アサは首を傾げた。

 自分達の世界にはタブレットも無ければ自動車も無い。高速で移動できる鉄道も無ければ、飛行機も無い。それのどこを便利だと、サガミ=ヤコは考えているのだろう?

 自信と誇りを胸に振る舞い、弱みは誰にも決して見せていないつもりだが。それでも時には、恐怖と劣等感に押し潰されそうになる瞬間もある。さきほど、料理をしていたときもそうだ。自分達はガスコンロも電子レンジも作れない。それが、この世界と本当に対等な関係を築くことが出来るのか?


「不便ではないと考えています。でも、逆に訊きたいです。魔法のことを そんなにも凄いものだと サガミ=ヤコは考えているのですか? この世界 凄い ものが沢山ありますわよ?」

「そりゃそうや」

 断言してくる。


「私達の文明っていうのは、結局のところ地下から掘り起こしたものを使っているわけやさかい。いつかは資源を使い切って無くなってしまうことになる。それに、地下資源を奪い合ったり、公害を引き起こしたりもしています。それに引き替え、魔法はクリーンなエネルギーなんじゃないかとか。そういう期待があるわけです」

 アサは、少し顔をしかめた。


「ええと? でも、私達も 理屈を分かっているわけでは ないのですわよ? それに、こちらの世界で使える 可能性 分からないですか?」

 というか、マナが無い以上は、使えない可能性の方が高い気がする。

 その期待が裏切られたときの落胆と怒りは、想像すると少し恐い。

「でも、その魔法を生み出したのは、アサ達のご先祖様のはずです。それなら、解析していけばこちらの世界でも、いつかは使えるようになるはず。そう考えている科学者、多いらしいですよ?」


 魔法を生み出した? 自分達の祖先が?

 宗教的には、マナは神の意思だとされている。人々の願いを聞き届け、そして具現化するのだと。

 神々は実在した。そして、神代遺跡や魔法といった様々な痕跡を残して世界から去った。そして、我々は神の知恵を受け継ぎながら生きている。そして、神の御業を理解し、神へと近付くことが学問だ。世界は論理的な法則によって動いている。その法則を読み解いていくのだ。


 失念していた。とアサは思う。この世界は言うなれば「神のいない鉄の国」だった。であれば、学問に対する考え方にも、相違があって然るべきだ。だから、実在した神ではなく、人を前提として考えるのも自然ではある。

 「実在した存在を解析」という共通点があるため、アプローチ方法にそこまで大きな差が生まれるとは思わないけれど。


 でも、宗教上の認識の違いについては、慎重に相互理解を進めていく必要があるのかも知れない。

「分かるようになるまで 凄く時間 かかる 問題だと 思うけれど。大丈夫 ですか?」

「多分、大丈夫やと思いますよ? 物理学以外もそうですけど、研究したら面白そうなこといっぱいあるらしいですし。まあ、私はアホやから、月野さんが言った事さっぱり分からなかったんですけどね」

 そう言って、サガミ=ヤコは自嘲の笑みを浮かべた。


 アサは鮭の切り身を口に運んだ。これも美味しい。塩加減が絶妙で、思わず白いご飯へと箸が続く。

「それと、こっちの知識というか発想を持ち込むことで、今ある魔法でも色々と便利になるかも知れないですし? まあ、それ抜きにしても、うちはアサ達と仲良くなりたいですけどね」

「どうして?」


 訊くと、サガミ=ヤコは少し頬を染めた。

「なんや、あんたらいい人そうやからや。生まれた世界がどうとか関係ない。いい人とは友達になりたいっちゅうことや」

 その言葉に嘘は無い。そんな嘘が吐けるほど、この女性は器用な性格をしていない。短い付き合いだけれど、それくらいは分かる。


「ありがとう。サガミ=ヤコ。私の方こそ サガミ=ヤコと友達に なれて、嬉しいですよ」

 そう言うと、サガミ=ヤコは顔を真っ赤にして俯く。

 少なくとも、この人達は自分を対等に扱ってくれる。それがとても、嬉しかった。

「あの、サガミ=ヤコ?」


「何ですか?」

「折角、今日はツキノ=ワタルが いないの ですから、サガミ=ヤコみたいな 普通の人 が どのような 生活を しているのか、色々と教えて欲しい ですね」

「ええ、喜んでっ!」

 サガミ=ヤコは満面の笑顔を浮かべてきた。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 なお、今日のアサの様子がwikiに記事としてアップロードされるなり。

 日本人男子どもは、エプロン姿のアサに萌えまくっていた。また、全国規模で利用される巨大な匿名掲示板で、自然発生的に「お嫁さんにしたい女性アンケート」が企画されていたのだが。

 その結果、アサは堂々のトップを飾ってしまったりする。

 だがそれは、また別の話である。

よくある物語だと。宗教は神に近付く行為はタブーとして、その手の科学的分析はタブーになっていたり。

そっちに科学的アプローチを仕掛ける現代人が迫害されたりすること多そうなイメージですが。

そうはしない予定です。(※あくまで予定です)。

対立展開に持っていかない理由は、物語的にはもの凄くご都合主義な理由かもですが(汗)。


あと、作中外で佐上がオタク文化をアサに教え込んでいないか、ちょっと心配になる(フラグ)。

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