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彼女のイメージ

異世界でのアサ達の台詞や口調については、話の都合上イシュテン語をそれっぽく和訳しているのだということで。

今回の話は、ひょっとしたら後々手を入れるかも知れません。

この章よりも、後で使うかもなあという程度の話ですが。そんな具合で入れています。

 最近のアサの言葉遣いに、少し違和感がある。

 佐上からの報告に、白峰も同意だった。ゲートで擦れ違うときに交わした言葉遣いが、妙にお嬢様言葉に過ぎるのだと。特に問題になることも無いと思っていたので、彼からは報告していなかったのだが。

 しかし、謁見ともなると、今出来る最高の結果を残したい。敬意を払いたい。そのために、より自然な日本語を習得したいというのも、もっともな話である。


「――そういうわけで、アサさんにとって最も自然な日本語のイメージがどのようなものかを考えるため。その参考材料として、皆さんからもアサさんの印象をお聞かせ願いたいのです。そこから、両陛下に謁見したときに話される内容についても、例えばこのように話すとよいのだと、彼女に伝えますので」

 アサの屋敷の一室。白峰の前には、ティケア、ミィレ、そしてシヨイが座っていた。

 ここにアサの姿は無い。これまで通り、東京に行っている。本人にしてみたら、何を言われるのか気が気ではないだろうが、逆に言う方にしても、本人がいたら言い辛い。


「ふむ。話は分かった。しかし、その前に私からも少し教えて欲しいことがある。いいかね?」

「何でしょうか?」

 ティケアに対して、白峰は頷いた。

「謁見するときに話す話題について、確認させて欲しい。そちらの世界では、このような謁見では、どのような話を話題とするのが一般的なのかね? 前回は、言葉が通じないということもあり、ややもするとこちらの流儀を押し付けてしまったのではないかという思いがある。時節の挨拶や、家族についてなど、身近な事柄について話をさせてもらったのだがね」


「はい。それで問題ありません。宮内庁からも、確かにそのような話題を出されていたようだと、そう聞いています。気になるようでしたら、宮内庁に対し、控えた方がよいと思われる話題について確認します」

「はい、それは頼みたい」

「分かりました。ちなみに、何を話題としようか? みたいなお考えは、既にあったりするのでしょうか?」


「いや、それはまだ何も決まっていない。何しろ、まだ謁見については日取りも、頂ける時間も分からない状態ですからな」

「それもそうですね。失礼しました」

「構いません。いずれ、相談させて貰うことになるかも知れないので、そのときは力を貸して欲しいが」

「はい、そのときはこちらこそお願いします」

 白峰は頭を下げた。


「あの? ところで、今はお嬢様の日本語って、シラミネ=コウタから見てどのような印象になっているんですか?」

 ミィレが軽く手を挙げて訊いてきた。

 白峰はしばし、顎に手を当てて考える。

「もの凄く高貴なお姫様。でしょうか? いえ、確かにこの市にとってはお姫様だと思うので、間違ってはいないと思うのですが」


 そう答えると、ミィレが虚空を見上げた。

「例えば、こういう屋敷よりも、もっと大きなお城に住んで、ドレスを着飾って常に沢山の従者を連れているような?」

「多分、そんな感じだと思いますよ。自分達の世界でも、そういうお姫様が出てくる作品は多いので、そのイメージで言っていますけど」

 ミィレは乾いた笑みを浮かべた。

 ティケアもシヨイも、微妙な表情を浮かべている。


「確かに、少し違うようですね。少なくとも、私の知るお嬢様はもっと、品を保ちつつも親しみを押し出していく。俗っぽいものもお好きな方です」

 シヨイの言葉に、白峰は頷いた。

「子供の頃は、やんちゃで屋敷を駆け回って遊ぶような子供でした。意志も強く、曲がったことが大嫌いで、気に食わないことがおありになれば、はっきりと言ってくる方ですな」

「好奇心旺盛で、優しい子ですよ。凄く努力家で、でもそれを努力だとか思っていないような」

 次々と続く人物評に、白峰も頷いた。彼のイメージとも相違が無い。


「やはり、そういう印象なのですね。だとすると、自分や佐上さんともイメージがそれほど大きく食い違ってはいなさそうですね。何というか、偉ぶっているようなものを感じたことはありませんし」

「だと、思いますよ?」

 ねえ? とミィレが問いかけると、ティケアもシヨイも首肯した。

「では、これでお嬢様が日本語でどのように話すのがいいのか? そういうイメージは出来るのでしょうか? シラミネ=コウタとサガミ=ヤコが相談して、イメージを付き合わせるんですよね?」

「そうですね。自分には、一応思い浮かぶものは有るのですが」

 だいたい「~ですわ」を「~です」に置き換えて、丁寧な口調に持っていけば、それっぽくなりそうな気がする。既に佐上も、大まかな方針としては、それでいくことを考えているそうだが。


「一応、それで謁見時に適した口調というものは方向性が打ち出せそうですが」

「まだ、何か?」

「どちらかというと、この翻訳機の精度を上げるために必要なことなのですが」

 少しだけ躊躇った後、白峰は続けた。

 言い出しにくいが、黙っていても仕方が無い。何事も、覚悟である。

「アサさんって、怒ったり悲しんだりしたときって、どのような言葉を話すのでしょうか? 佐上さんによると、その様な場合のサンプルが圧倒的に不足しているらしくて、上手く訳せない可能性が高いそうです」

 訊ねると、ティケアが顔をしかめた。


「その件、お嬢様には話が通っているのかね?」

「許可は貰っています。本人からは『私にとって不名誉な真似は話さないで欲しい』『もっとも、不名誉な怒り方なんてした覚えないけどね』と承っていますが」

「なるほど。お嬢様らしい」

 そう言って、ティケア達は苦笑を浮かべた。

「どんなときに、あの人は怒るんですか?」

「そうですね。他人の大事なものを傷つけたときなどですな。盗みや嘘を嫌い、人の心を踏みにじるような真似は許しません」


「例えば?」

 ちらりと、ティケアが隣に座るミィレに視線を向けた。気がした。

「一時期、この屋敷の使用人達の間で、摘まみ食いが流行ったことがありましてな?」

 一瞬、ミィレが目を逸らした。気がした。「気がした」が、敢えて気付かないふりをする。

 ひょっとしたら、犯人達の中に彼女も混じっていたのかも知れない。触れるつもりは無いが。


「そのときのお嬢様は、酷く怒り、そして落胆していました。そして、哀れみを込めて訊くのです。『あなた達。恥はあるの?』と。それから――」

 どうやら、感情にまかせて怒るようなことは無いようだ。と、白峰は思った。

 そして、そんな話でも懐かしそうに語るティケアと、それを聞くミィレやシヨイを見て。ああ、やっぱりあの子は愛されているんだなと、白峰は再確認した。

いい加減、魔法関連のネタを使ったエピソードを書きたい。

投稿スピードが速ければ、気にしなくていい心配なのかもだけど。

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