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この異世界によろしく -機械の世界と魔法の世界の外交録-  作者: 漆沢刀也
【交流拡張準備編】
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異世界研究に関する管理組織について

世界各国の外交関係者が集まって、密談するの巻。

 都内の某所。その会議室。

 マスコミの目も届かないその場所に、桝野は訪れた。

 これが、外相だとか大使だとかになれば、マスコミの扱いもまた違う話なのだろうが。だが、それはもう少し先の話だ。これからする密談は、そこに至るための認識確認のようなものだ。

 こうやって密室で雁首並べて向かい合っていると、まるで悪巧みをする悪の組織のように思えてくる。


 集まっているのは、G7の外交高官だ。スケジュールの都合と、国際的な影響力の都合で、こうなった。

 予定時刻直前。最後に、イタリアの高官がやってくる。こいつは、ダンディな伊達男だ。

 桝野は、何かの催し物でイタリア人は遅れてやってくるとか、そういう国際ジョークがあったことを思い出した。まあ、流石にジョーク通りに、日本人もドイツ人も開始の1時間前に来たりはしないし、イタリア人も遅刻はしないが。


「全員、お集まり頂けたようですな。感謝致します」

 桝野は席に着いたまま会釈する。それに、彼らも応じて頭を下げた。

「それと、感謝と言えばもう一つ。先日は輸血の可否の確認について、ご理解と各国への説得の協力についても、助かりました」

「いや、事情は分かるし、問題となる影響が出る可能性が低かったしね」

「それに、我々も興味がある。これは世界的な問題だ。であれば、互いに協力し合うべきだよ」

 カナダとフランスがにこやかな笑みを浮かべる。他の面々も、無言で頷いた。


 とか言いつつ、互いの国益を最大限得るため、どうやってその影響力を食い込ませようか、あるいは引こうかと計算するのが外交だ。桝野は額面通りに彼らの好意的な発言を受け取ってはいない。

 これまでは、異世界という未知を直接相手にするリスクを引き受けてきた。ここで支払ったリスクの分、これから最大限受益したい。それが日本の立場だ。

 また、同時にそこに存在感を出したいという各国の思惑を利用し、諸々の活動費の「援助」を貰っている。使途は報告するが、予算についてはほとんど考えなくていいのは、その「援助」のおかげだ。


 そして、これからはその「援助」に対するリターンの駆け引きが始まってくる。そういう段階に差し掛かろうとしている。頭が痛えなあと、桝野は考えている。

 同時に、これこそが一番この仕事の面白いところなのだが。一旦、今はそういう戦意は腹の奥にしまっておくけれど。


「しかし、驚いたな。まさか、完璧に輸血のクロスマッチが成立するとは」

 昨晩からはそのニュースが世界中を飛び回っている。異世界の人間でも血液型が4種類に分かれているらしいというのは、翻訳された医学書から分かっていた。

 だから、あるいはとか、ひょっとしたらという期待感もあってやってみたのだが。結果はそんな具合だった。


 ちなみに、こちらの世界でA型と呼ばれるものが、あちらでは2型。B型が1型。O(オー)型が0(ゼロ)型。AB型は12型ということになる。

 この輸血が出来ないようであれば、献血したものをお互いの世界に送ってストックにする。そういう案も考えていたが、幸いにしてその必要は無かった。念のため、用意はするということにはなったが。

 そして、この成果が誰のものになるのか? という話だが、それは国連預かりということになった。実際にクロスマッチテストを行ったのは、秋葉原の献血センターの人間だったのだが、彼らが論文にしたりということは無い。


「ああ、そして今度は、次から次へと更なる学術的研究の許可や提案が活発化してきたわけだ。私達も、抑え込むのには苦慮しているが」

 「苦慮」ねえ? 抑え込んでいるのはその通りだが、どっちかってえと「調整」だろうに。こっちの加減を見ながら、圧力掛けているじゃねえか。そんなことを桝野は思う。

「ええ、そういうわけで、こちらからもまず何を教えて貰うか? 共同で研究出来るか? その優先度付けをするための、基準と管理する体制が必要になってきた。そういうわけですな。これまでは、日本が都度開示していたと通りですがね。軍事防衛に絡みそうな部分は避ける。現代の兵器に拘わらず、ここ百年の戦術、戦略の類いすべてにおいて」


 まあ、その証明は今は出来ないわけだが。これは彼らに信用して貰うしかない。いずれ、交流が世界規模になったとき、明らかになることでもある。だから「私を信じて(トラスト ミー)」などとは言わない。問答無用で信じさせる動きを見せるだけだ。

 それでも、痛くもない腹を探られるようなら、相応の抵抗を見せることを既にちらつかせている。だから、彼らもそういう真似はしてこない。


「その枠組みは、やはり国連が適切だと? それが、日本の立場なのか?」

「率直に言えばその通りですな。具体的なものは、これから詰めますが。他に何か案があれば、お聞かせ願いたい。と言っても、今日はそういった枠組みを作るというのはどうか? その提案をしに来たというだけですがね。後ほど、他の国々にも伝えますが、すぐに各国で考えが纏まるとは思えませんし」


「回答期日の希望はあるのか?」

「それについても、これから確認したい。ただ、日本としては一ヶ月後くらいが適切なのではないか? そう考えています」

「それは、この場で決めなければならない話か?」

「希望があればお聞かせ願いたいですが。無理にとは言いませんよ。まあ、そちらの返答は近日中に頂きたいとは思いますがね」

「いいでしょう。理解しました」


 桝野は彼らの表情を確認した。

 自分も含め、彼らも決定権を持っているかというと、微妙なところだ。この話はそのまま持ち帰りということになるだろう。

「あと、今回の輸血の一件で、あちらの人間のゲノム配列の解析をしたいという要望が特に強くなりました。魔法現象の物理学的解析の要望は、これまでもずっとですが。まあ、それについては皆さんもよくご存じかと思いますがね」

「そうだな」


「魔法については、どうもあちらでも、どこまでこちらに教えていいか検討している最中のようだ。なので、すぐに実現するのは難しい。ただ、ゲノム配列については興味が大きい上に軍事的な問題に発展するとも考えにくい。なので、日本としてはあちらにも提案してみたいと考えている」

「それで? 可能性としては大きいと思うが、あちらの人間がヒトではないとハッキリしたとき。人種差別的な問題が起きたらどうするつもりか?」

「それは、反対であるということですか?」

「いや、ただの懸念だ。私一個人のね」


「それについては、ゲノム配列に関係なく彼らも人間であるという主張を大々的に広めておくとか? 可能なら、互いの世界で我々と彼らが共に『人間』であると、法の下に保証するなど。ですかね? そのあたり、これまでは慣習的にやっていましたが。あちらに提案するとすれば、その懸念も含めて、伝えますが? ああ、やはりこういう場や話し合うための枠組みは大切ですね。テーマごとに何が問題で、それをどう解決すべきなのか見えてくる」

「分かりました。その件についても、話を持ち帰って検討しましょう」

「ええ、よろしくお願いします」

 桝野は頭を下げた。


「ああ、それと。これまでの話とは全く関係のない話なのですが」

「何でしょう?」

「急ぎとは言わないが、出来れば私達、日本以外の人間にも、あの異世界の外交官と会う機会を用意してくれると嬉しい。実際に会って、どのような人物なのか確認したいという気持ちは、やはりある」

 そう言ってきたのはイタリアだ。どうも、イタリアが言うと、美人の娘に会いたいという邪念が混じっているんじゃないかと、そんなことを思ってしまう。


 桝野が周囲を見渡すと、イタリア以外の国々の視線にも力が籠もっていた。このプレッシャーは大分強い。ひょっとして彼ら、裏で結託していたんじゃなかろうか? そんな疑念が浮かぶくらいだ。

 まあ、薄々とそういう話も、確かに以前から持ち上がってはいたのだが。

 そして、ここで要求だけを言って終わるというのも難しい。要求を出した以上は、何らかの要求を出されるのも仕方ない。

「分かりました。あちらの方と相談してみましょう」

「よろしく頼む。あと、もう一つ気になることが」


「何ですか?」

「あちらの人って、耳に触れると無礼にあたるとか、そういう話はありますか?」

「そういう話は聞いたこと無いですが? 未確認です。しかし、また何でそんなことを?」

「いや、あの可愛らしい耳が本物なのかと、気になる人が多いから。許しがあれば触ってみたいとね?」

 照れくさそうに、彼は笑みを浮かべた。

 気持ちは分からないでもないが。自重しろイタリア。

 桝野は頬が引き攣るのを自覚した。

今回もちょっと短めですね。平日にも投稿したので、勘弁して下さい。

でも、書き始めた最初の頃は、みんなこのくらいだったんだよなあ。

自分の当初の予定よりも、長くなりましたが、次回で「交流拡張準備編」も終わりです。多分?

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