異世界血液型談義
輸血のクロスマッチテストの様子です。
今回は短いので、平日に投稿しています。
秋葉原からゲートを抜けて、白峰は採血の様子を眺めていた。
異世界側からの提案により、互いの世界の人間の間で輸血が可能か確認しようということになった。
言われてみればもっともな話で、こちらでもあっさりと話は通った。それでも、世界各国への説明には色々と苦労したと、桝野から聞かされたが。
この結果を日本が見つけた新発見だとか、そういう扱いにするのではなく、あくまでも世界各国の管理下で行われたものということにするとかどうとか。
正直、白峰にしてみれば、誰がやろうがどうでもいい話だと思うが、面子だとか功績だとかに拘る国も多い。そういう感情を逆撫でしないための配慮だそうな。
白峰の隣には、アサとミィレが立っている。
「何だか、浮かない顔ですね?」
「まあね」
眉間に皺を寄せて、アサは応えてきた。ミィレも、曖昧に笑みを浮かべている。
「注射、苦手なんですか?」
「好きな人は、いないと思うわよ?」
「そりゃまあ、そうかも知れませんが」
アサもそうなのだが、衛士の人達も皆一様に顔が暗い。その顔色は、予防接種に向かう子供達の方が、まだ精神的に余裕があるのではないだろうか?
「シラミネはもう血を採ったの?」
「はい」
白峰は首肯した。
恨めしげな視線がアサから向けられる。
「そっちの注射針は細くていいわよね。私も初めてそっちに行ったとき、血を採られたけど。全然痛くなかった。ああいうのならいいのよ。ああいうのなら」
採血したものが間違いなく、互いの世界のものであるということを証明するため、こうして場所はゲート近辺で、採血は互いの医療関係者が行っている。
「こちらは、違うのですか?」
「ええ」
アサは肩を落とし、大きく嘆息した。
「こっちの注射針は、中が空洞で細くて硬い、そういう植物の茎(桿)を使っているんだけど。でも、それでもまだ太いのよ。箸の先くらい? 何百年も品種改良しているんだけど。そこからなかなか細くなってくれないの」
それを聞いて、思わず白峰は呻いた。それは確かに、かなり恐い。献血用の注射針より、もうちょっと太いくらいかも知れない。
「い、痛そうですね?」
「痛いわよ?」
悲痛な笑みがアサに浮かんだ。
そして、少し離れたところで、衛士の一人が採血を受ける。彼は声なき声で悲鳴を上げていた。苦悶の形相を浮かべている。
「しかし、実際のところ、シラミネ=コウタはどう思いますか? 輸血、出来ると思います?」
ミィレに質問され、白峰は小首を傾げた。
「さあ、どうなんでしょう? ちなみに、ミィレさん達の血液型とかどうなっているんですか?」
「私は0(ゼロ)型で、お嬢様は2型になります」
「数字で型が分かれるんですね。じゃあ、その血液型って何種類あるんですか?」
「4種類です」
「種類の数は、我々と同じですね」
「じゃあ、ひょっとしたら?」
「輸血できる可能性、あるのかも?」
血液型については医学書から情報が知られていて、それなりに可能性がありそうだからこそ、今回のような実験が許可された。そんな側面もありそうだ。
「シラミネは何型なのかしら?」
「自分はA型になります」
「他には、何型があるの?」
「B型。AB型。O型になります」
アサは顎に手を当て、ふむふむと頷く。
「尚更似ているわね。こっちも、0(ゼロ)型。1型。2型。12型に分かれるのよ。12型とAB型って、同じものとか?」
「有り得そうですね」
交流する上では、そういう具合に一致していると有り難い。
だが、そうなると。今度は何故そんな事が成り立つのかと、これまた学者達は頭を抱えそうだが。
「そういえば、そちらの世界では血液型で性格が分かれるとか、そういう考えってありますか?」
アサとミィレは顔を見合わせた。そして、二人とも首を横に振る。
「いいえ? 無いわよ? そっちの世界にはあるのかしら?」
「こっちの世界というか、この国くらいですね。血液型が割と均等のバランスになっているから、そういう占いが生まれたようです」
「ふぅん? で? 当たるの?」
「さあ? 遺伝的な根拠があって、当たっていると言う人もいれば、ただの迷信だって言う人もいますね」
「シラミネ=コウタは、その占いだとどういう結果になるんですか?」
「自分はA型なので、几帳面とか真面目とかいうことになるらしいですよ?」
「当たってるかも?」
くすりと、アサとミィレに笑みが零れた。
しかし、それもほんの一時のこと。
「あ、お嬢様の順番のようですよ?」
それを聞いて、たちまちアサの表情が曇った。
「それじゃあ、行ってくるわね」
観念したと。そんな表情を浮かべて、彼女は医者へと向かった。その背中は、予防注射を嫌がる犬猫のような哀愁を漂わせていた。
少し、失礼かな? と、思い返したが。
【異世界植物図鑑】
チュウシャバリザサ。イネ科タケ亜目。
背丈は20~30 cm程度で、細くて非常に硬い中空の茎(桿)を持つ。
その名の通り、異世界では注射の針として古くから使用されている。
輸血が試みられるようになった前帝国時代頃に較べ、品種改良によって少しずつ茎(桿)は細くはなっているが、それでもまだ人に恐怖を与える太さである。
ちなみに、針は使い捨てである。
こういう、異世界生物とか考えるの好き。
どこかに、こういうのを真面目に考察した生き物が出てくる作品無いですかね?
最悪、自分で書けという話になりそうだけど。書けるものなら書きたいけど。