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この異世界によろしく -機械の世界と魔法の世界の外交録-  作者: 漆沢刀也
【交流拡張準備編】
51/279

もう少しだけこのままで

白峰、無事に生還。

 今日の予定だった視察を終えて、アサは秋葉原のゲート前へと戻った。白峰がゲートを抜けて、こちらにやってくる。

 白峰が無事で、アサは一安心した。これで、思いあまったミィレが白峰に危害を加えていたら、目も当てられない。いや、流石に無いとは思うのだけれど。

「何とかなったみたいね?」


 そう言うと、白峰は微苦笑を浮かべた。

「まあ、そうみたいです」

「ミィレとは何を話したの?」

「いえ? 特には? 朝にした内緒話の内容を白状したくらいです。ミィレさん自身、無自覚だったようですけど。やっぱり、どこかで自分のことを警戒していたみたいです。貞淑な人ですね」

「まあね。イシュテン女は大体そんな感じだけれど、ミィレは特にそうでしょうね。うん」

 納得だと、アサは頷いた。


「それと、少し自分に嫉妬もしていたかも。とか、言っていました」

「嫉妬?」

「ミィレさんは、そんなにすぐにはアサさんと仲良くなれなかったからって」

「ああ、確かにそれもありそうね。私もサガミ=ヤコに相談してみたんだけれど。そういう可能性を言っていたもの」


「ええ、アサさんとミィレさんは、本当に仲が良いんですね」

 そう言って、白峰が優しい視線と微笑みを向けてきた。アサは小さく呻く。何か、凄く嫌な予感がする。

「ちょっと? あなた、ミィレから何を聞いたの?」

 軽く、白峰を睨んでやった。まったく、彼は動じなかったが。


「個別の話は長くなるので、ミィレさんに確認して下さい。昔話に花が咲くと思います。あと、自分も、これから戻らないといけないですし」

 愉快そうに笑う白峰に、むぅとアサは呻いた。

 ゲートの向こうに立つミィレが、凄く上機嫌な笑みを浮かべている。こいつら、グルか? こうして、私をネタにして楽しんでるんでしょ? 目を離している間に、すっかり仲良しになっちゃってっ!


「分かったわよ」

「ああ、変な話は聞いていないから、そこは安心していいと思いますよ?」

「そういう問題じゃないんだけど。……もう」

 アサは大きく溜息を吐いた。まあ、不愉快というわけでもないのだけれど。


「あと、これは提案ですが」

「何よ?」

「アサさんからも、ミィレさんに態度で示した方がいいのかも知れません。ミィレさんから離れようしているわけじゃないんだって。その方が、ミィレさんも安心すると思います」

「それ、サガミ=ヤコからも言われているのよねえ。どうしようかって悩んでいるけど。何かいい方法、無いかしら?」


 そう訊くと、白峰は親指を立てて白い歯を見せてきた。


"大丈夫。アサさんならきっと出来ます。自分は信じていますから"


 ここで、朝の意趣返しかっ!?

 ミィレはシラミネのことを自分と似ていると評していたけれど。こうして人をからかうあたり。この男、実はミィレとも似ているんじゃないの?


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ゲートを抜けて、ミィレと共に馬車の中へと乗り込む。

「お帰りなさい。お嬢様」

「出迎えご苦労様。ミィレ」

 隣にミィレが座った。


 近くで見ても、ミィレの表情は大分晴れやかなものになった気がする。なるほど、ここ数日の間で、気付かないうちに随分と鬱屈とした感情を抱えていたのだなと、今更ながらに気付いた。小さな変化が少しずつ積み重なっていたから、分からなかったのだろう。

「随分と、上機嫌じゃないの?」

「えへへ。何かこう、シラミネさんに色々と話を聞いて貰っていたら、気分がすっきりしました」


「あなたねえ? それで、一体何を話したのよ? シラミネからは、色々と私のことを聞かされたって聞いたんだけど?」

「変なことは話していませんよ?」

「それは、分かっているけどっ!」

 アサは軽く睨み、唇を尖らせて見せた。それでミィレが狼狽えたりしないのはいつものことだが。

 そして、こういったいつものやり取りをするようになって、随分と経ったものだと思った。お互いにもう子供じゃない。大人になった。


 ミィレが懐かしそうに微笑む。

「そうですね。私とお嬢様の、最初に出会った頃の話とかしていました。私は、なかなかお嬢様に心を許して貰えなかった。みたいな話とか」

「あ~。まあ、そういえばそうだったわね。最初に来た頃って、あなたいっつもピリピリしていたもの。私もミィレみたいな歳の知り合いって、当時はいなかったから、どう接していいか分からなかったし」

 ん? と、アサは気付く。


「じゃあ、ひょっとして話したのってそれ? 私が書斎で寝ていたらミィレに寝込みを襲われて、頭を撫で回された」

「人聞きの悪い言い方をしないで下さいっ!」

 ミィレが抗議の声を上げる。いつものお返しよ。

 でもまあ、反応からすると、やはりその話は出ていたようだ。

「それで、シラミネに嫉妬でもしていたの? 自分は時間を掛けて仲良くなったのに、いきなり現れた男が、私とあなたの間に割り込んでくるんじゃないかって?」

 気恥ずかしそうに、ミィレは頬を赤らめた。


 小さく、アサは嘆息する。恥ずかしいが、覚悟を決めた。

「ミィレ」

「はい、何でしょうか?」

「私の頭、撫でなさい」

 えっ? と、ミィレの口から戸惑った声が聞こえた。

「はい。分かりました」

 けれどすぐに、嬉しそうな声が返ってくる。ふわりと、アサの頭の上に彼女の手が置かれた。


「お嬢様も、大きくなりましたよねえ」

「お互い様よ」

 身長は、大体同じくらいのはず。初めて会った頃は見上げていた彼女が、今では視線が並んでいる。

「安心しなさい。私はシラミネに取られたりしないから」

 こんな風に私の頭を撫でることが出来るのは、あなただけなのよ? ミィレ?


「はい、安心しました」

 ミィレが頷く。

「でもどこかで、私もシラミネに気を許しすぎていたかもね」

「そうですか?」

「ええ。ミィレが言っていたじゃない。私とシラミネが似ているって。私は一人娘だけど、兄がいたらあんな感じだったのかもとか、どこかで思っていたのかも?」


 くすくすと、ミィレの笑い声が聞こえた。

「本当によく似ていますね。シラミネさんも、お嬢様のことを妹がいたら、ああいう感じなのかもと言っていました」

「シラミネには言わないでよ?」

「言いませんよ? 私、口は堅いつもりです」

「本当に? あなた、さっきシラミネからの私の印象をあっさりとバラしたんだけど?」

「だって、約束していませんから?」

 けろりと言ってくる。


 これを知ったら、シラミネはどう思うことやら? いやまあ、苦笑いで済ませそうな気もするけど。

 やれやれと、アサは小さく息を吐いた。

「まあ、何にしてもミィレの気が晴れたようでよかったわ」

「そうですね」

 小さく、頷いてくる。そして、彼女はどこか遠くを見詰めた。

 

"ええ、きっとそういうことなんです。だから、もう少しだけ、このままでいさせて下さい"


 噛み合わない返答に、アサは首を傾げた。

「ねえ? それ、どういう意味?」

「いえ、何でもありませんよ。ただの独り言です。私の中で、納得したっていうだけですから」

 ミィレは曖昧に微笑む。


「ふぅん? ならいいけど」

 心の中は誰にも分からない。本人でさえよく分からない事なんていくらでもある。

 今回の件はミィレも中でも、何がどうだったのかよく分かっていなかったようだから、そんな呟きが漏れることもあるのだろう。

 でもまあ、それで心の中の整理が付いたのなら、それでいいと思う。

 ミィレ。これからもよろしく。そう、アサは心の中で呟いた。

実は前回が、白峰の死亡フラグ回避エピソードでした。

そして、今回がアサの死亡フラグ回避エピソード。

色々と考えたのですが、ここで選択肢を間違えていたら、バッドエンド一直線になりました。

ミィレ、恐ろしい子(白目)。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 死亡フラグってそんな重要分岐点だったのか、 それって社会的にって事ではなく生物的にって事ですよね?
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