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食と歴史と国際ジョーク

白峰とアサの会話回。いや、割とただ会話させてみたかっただけ。

作中でも書いていますが、今回は白峰は基本的にイシュテン語で。アサは日本語で会話。そして、それをティケアとミィレは翻訳機で聞いていると思って下さい。

 もしも、残念なことに犯罪が起きてしまったら?

 その時は互いの国の法律に則って犯罪者を裁く。その為にも「何が犯罪に当たるのか?」「その罰則はどのようなものか?」について概要を纏める。そういう話が出たところで、会談は終わった。

 他にも何か話し合わないといけない事はあるのかも知れないが、一旦はこれで思い付く話は無い。

 丁度、そんな頃合いで昼食の時間となった。


 星群の間から移動し、食事を用意した別室へと白峰は案内された。

 テーブルに並べられた昼食は四人分。アサとティケア、ミィレ、そして白峰の分だ。

 白峰に向かい合う形で、アサ達は着席している。

「シラミネ=コウタ。あなたに 苦手 食べ物って ある? もし あるのなら、遠慮 しない 言って 欲しい」

 ふと、日本語でアサがそう訊いてきた。

 どれも異世界の食べ物なので、確かに場合によっては苦手なものも出てくるかも知れない。それを我慢はして欲しくないという心遣いは嬉しい。

 翻訳機を通していないが、こちらの方がより日本語として近いような気がした。


「そうですね。自分は特に、これまで用意して頂いた食事で苦手なものはありませんでした。日本は色々なものを食べる国ですが、それでも虫やトカゲなどを食べるようなことは、基本的に無いのでそういう食材があるとしたら、避けて欲しいです。蜂の子とかは、地方によってはありますけど」

 上手く伝わったかどうかは分からないけれど、白峰もイシュテン語で話してみる。むこうがそう来るといえのなら、何となく、試してみたくなった。


「何? そんなもの食べる 場所 あるの ですか?」

 アサはギョッとした表情を浮かべた。

「その表情を見る限り、イシュテンでも食べないようですね。安心しました」

「食べないわ。そんな 国も ある らしい けれど」

 うんうんと、ティケアとミィレも頷く。彼らは、翻訳機で聞いたものから、アサの言っていることを理解したのだろう。


「ちなみに、カタツムリ。陸で生きる貝。とかはどうですか?」

「陸で 生きる 貝。――の こと?」

 ビクリとアサは身を震わせた。顔を青ざめさせる。

「その様子だと。そのような料理は無いようですね」

「に、日本の人 達は 食べる? ひょっとして、これまでにも そういう 料理 ありましたか?」

 白峰は首を横に振った。それを見て、アサは少し安堵の色を浮かべた。


「いえ、我々は食べません。エスカルゴと言いますが、フランスという国の料理では、そういうものもあります。この国は料理が美味しいことで有名なのですが、カタツムリを食材にした料理もあるんですよ。ちなみに、美味しいですよ?」

「どんな味なの? シラミネ=コウタは食べたことあるのかしら?」

「食べたことはあります。味については、海の貝と変わりがありません。肉は軟らかいです」

 無言のアサに、白峰は微苦笑を浮かべた。


「我々の世界でも、あまり食べることが無さそうなものについては、アサさんが食べる前に説明するようにします」

「そうね。お願い するわ。こちらも 同じ 言っておきますけれど」

「そうですね。お願いします。匂いが強いものがあれば、先に説明が欲しいです。どうも、他国の料理を食べるときは、まず匂いから好き嫌いを判断する人が多いようですから」

 この点、嗅覚は距離が離れていてもその判断材料として使えるわけで、これは動物の進化の結果ではないだろうか? そんな風に白峰は考えている。


「ちなみに、アサさんが苦手な食べ物はありますか?」

「無いです よ。 親は、何でも食べる、よいこと。私に教育した。それと料理 する人 よいです」

 と、アサがミィレに視線を向けた。「って、何よミィレ? その目は?」とか、そんな感じの言葉がイシュテン語で聞こえた気がする、。

 何か言いたげなミィレの視線にアサは唇を尖らせた。

「む、昔の話よ? あれは、昔の話なんだからね?」

 小声で、且つ早口のイシュテン語でそんなことを言っているのが聞こえた。一方で、ミィレは何も言わずにニヤニヤと笑みを浮かべていた。それが何だか仲のいい姉妹みたいのようで、白峰は微笑ましいものに見えた。


 アサは咳払いをした。

「ごめんなさい。でも、もし日本に行く。そのとき、食べられないもの ある場合、そのときは 言いたいです」

「はい。遠慮無く言って下さい」

 言わないで不愉快を我慢して貰い後々に爆発するよりも、いっその事先に言って貰った方が気が楽だ。


 マグロのステーキ? のようなものを一切れ箸でつまみ、白峰はそれを口にした。醤油ベースのようなソースが舌に馴染む気がして、美味だ。何となくだが、先日に「魚が好き」と言ってから、魚料理が割合多くなっている気がする。

 まだ会ったことは無いが、この屋敷の料理長というのは、アサが自慢するとおり優秀な人物なのだろう。


「それにしても――」

 アサは感慨深げに、息を吐いた。

「私は、ゲートが 繋がる 日本の国で よかったと考えている。戦いを 好き違う。初めに、こう 話をする。親しいを 考える国で」

「それは、こちらも同じ思いですよ」

 そう伝えた上で、白峰は続けた。

「私達の国は、己が私利私欲のために他国を攻めるということだけはしない。そういう考えを強く持って国を運営しています。国民の生命財産を損なうというのであれば、全力を以て守りますけどね」

「私達の世界では、珍しい考え です。シラミネ=コウタの 世界では、それ 普通 なの?」

 白峰は首を横に振った。


「日本ぐらいですよ。こういう考えの国は。だからといって、どの国も好戦的だという訳でもないのですが」

「何故、日本はそういう考えになったの? 理由を 知りたい です」

「数十年前。いえ、やがて百年にもなろうかという昔のことです。私達の世界では世界を二つに分けた大きな戦争がありました。そういえば、まだティケアさんには話していませんでしたね」

 ティケアが頷く。

 これまでの話は、主に現代のことや言語についてのレクチャーで、そういった話は話題に登らなかった。


「戦争の理由については、話すと長くなるので今は話しません。ただ、その戦争が終わるまでは、大国が小国を支配していくのが普通でした。負ければ国は滅亡する。そんな世界でした」

「まるで、――時代ね」

 ポツリと、アサがイシュテン語で呟いた。どうやら、こちらの世界にもそのような戦乱の時代があったようだ。何と言ったのかは分からないが、意訳すれば、「前帝国時代」とかそういう意味のように思えた。

「その戦いで私達の国は最後まで戦い。そして負けました」

「負けた?」

 アサ、ティケア、そしてミィレも唖然とした表情を浮かべた。


「しかし、負けた 場合、すべてを失う。そういう 世界 でしたね?」

 白峰は頷いた。

「その通りです。アサさんがゲートを通って訪れた街も、戦争の直後は何も無い焼け野原だったんですよ」

「それが、何故?」

「私達は確かに負けました。しかし、それによって世界が変わったんですよ。その戦争に勝った側も、それまで支配していた国々を押さえ付けることが出来なくなった。支配されていた国々も、私達の戦いに続いて戦い始めた。そして、彼らは独立を勝ち取った。こうして、強い国だけが支配を強めていく時代は終わりました。残念ながら、まだその時代からの問題は残っていますが」

 一拍を置いて、白峰は続けた。


「我々も、一時的にですが、勝った国から統治はされました。正直に言えば、こちらから戦わないという考えはそれらの国から押しつけられたものです。しかし、悲劇を経験したことで、徹底して戦争を回避しようという考えだけはそこから根付いたものだと思います。もはや、力によって支配するのも、支配されるのも、私達の国は嫌なのですよ」

 だから、異世界に侵攻しようなどという考えは出てこないし、仮に出てきても賛同されない。どういうわけか、野党の一部議員やマスコミは、しつこいほどにそういった野望の有無を政府に対して追求しているようだが。


「まあ、そういう具合に、滅多に怒りを表現しないので、その点は冗談のネタにもなっているようですが」

「興味ある です。例え、どんな もの ですか?」

 白峰は軽く虚空を見上げ、覚えているジョークの中からネタを選別した。


◆ ◇ ◆

【日本の怒らせ方】


 会議の途中、日本が離席した。その間に、残った国が「どうしたら日本を怒らせることが出来るのか?」と話し合った。

 ある国は、何度も日本の領海を侵犯した。しかし、日本は攻撃してこなかった。

 ある国は、大戦のどさくさで島を奪った。しかし、日本は友好的な対応を維持してくる。

 ある国は、大量破壊兵器を日本に使用した。しかし、日本は強い絆を結んでいる。


 途方に暮れる国々。


 そんなとき、彼らはふと思い出した。

 ある国は、日本に深刻な病気の原因となる可能性のある肉を輸出した。そのとき、日本は激怒した。

 ある国は、日本に病気の原因となる可能性のある野菜を輸出した。そのとき、日本は激怒した。

 ある国は、日本に病気の原因となる可能性のある魚を輸出した。そのとき、日本は激怒した。


 国々「日本って、ひょっとして食べ物以外じゃ怒らないんじゃ?」


◆ ◇ ◆


「――実際のところは、いずれも怒りは伝えているんですけどね。ただ、怒りとは理解をしてもらうためにしているわけであって。感情的に、戦いに繋がるような真似はしていないというだけですが」

「へえ、なかなか面白いわね」

 そう言いながらも、アサは口元を押さえていた。意外と、ツボに入ったのかも知れない。ミィレも同様だった。ティケアは無表情だったが、微妙に口元が震えている気がする。

「ひょっとして、日本の人は、食べ物に 誇り 興味が 強く あるの?」

「そうですね。食べ物に対しては、強いこだわりを持っていると思いますよ?」

「親しい 気持ち です。私達の 国。イシュテンも、冗談があります」


◆ ◇ ◆

【最強の兵士】


 堅牢で知られるライデン要塞をイシュテン人が攻めることになった。


 兵士達「隊長、もう限界です。こんな食事ではとても戦えません。日に日に酷い食事になって、士気も下がっています」

 隊長「君達に残念な知らせがある。あのライデン砦を落とさない限り、我々に満足な食事が届けられないそうだ」


 それから半日後。ライデン砦は落ちた。

 飢えて本気になったイシュテン人ほど、恐ろしい兵士はいない。


◆ ◇ ◆


 今度は、白峰が口元を押さえる番だった。

 と、足音を立てることなく、年配の侍女の一人が部屋に入ってきた。

 途端、怪訝そうにアサは彼女を見詰めた。侍女は無言でアサの傍らへと近付く。

「何かあったようね? シヨイ=サァク」

 イシュテン語でアサは彼女に問うた。侍女が頷く。


「クムハ=ハレイが戻りました。王都からの返事を持っています。食事中ですが、早めにお知らせした方がよいと思い。お邪魔致しました」

「なるほど。それは重要な知らせね。教えてくれて、ありがとう」

 昼食の後も、まだまだ話し合いは続きそうである。

ああ、色々と執筆時間取れなくてこんな時間に。orz

「銃と魔法編」本当に、あともうちょっとだけで終わる。終わるはず。

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