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この異世界によろしく -機械の世界と魔法の世界の外交録-  作者: 漆沢刀也
【ファーストコンタクト編】
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アサ=キィリンの出立

異世界サイドの出立状況です。

ヒロインが登場。ようやく、これで人を中心として物語が動き始めた気がします。

 広場に至る大通りの一つ。アサ=キィリンはそこに立っていた。

 周囲には衛士達が物々しくも周囲を警戒し、また現出した異世界を囲んでいる。

「まさか、アレがこのようなものだったとはね」


 アレとはつまり、この広場の中央にある古代遺物のことだ。どの国の歴史よりも古くからそこにある遺物。この時代のどのような技術を以てしても再現出来ない、虹色に輝く物質の床。

 概ね、世界各国に一つか二つ程度に点在するその遺物は、神代遺跡と呼ばれていた。

 その遺物のほとんどは動いていない。また、動くまでは何のために存在していたのかも分からない。


「しかも、私の生きているうちに、これが動き始めるなんて、思いもしなかった」

 数は少ないが、稼働している神代遺跡は他にも存在している。例えば、隣国の『無限の泉』遺跡もそうだ。数百年の昔に再稼働を始めたその遺跡からは、今もなお澄んだ水が豊富に湧き続けている。

 その一方で、目の前にある遺物はつい先日までは眠っていた。単に観光対象としてそこにあり、たまに学者達が調査するといった程度のものだった。


「全くです。お嬢様。私も驚いていますよ」

 傍らに控える侍女が、うんうんと頷いた。

「でも、向こうの人達は野蛮ではなさそうでよかったですね。いきなり攻め込まれていたりとかしたら、どうなっていたことか」

「そうね。聞くところによると、あちら側も事情が分かっていないようだし」

 だからこそ、攻め込むのを踏み止まった可能性もある。戦力差が見えない状態で相手に挑むのは、愚か者のすることだ。


 そして、その点において、もう一つ推察出来ることがある。つまり、あの空間の向こう側は「戦いをよく知っている」ということ。

 圧倒的な戦力差で、突如として蹂躙されたかも知れない可能性よりはよっぽどマシだが、もしも戦うことになるとしたら、その戦う相手には侮りが無いということだ。それは、非常に面倒なことになる。

 そんな未来だけは勘弁したい。それがアサの考えだった。


 アサの視線の先、ゲートの傍らで衛士長のサラガと向こうの衛士らしき男が何事か遣り取りしている。言葉は通じていないが、世間話をしているらしい。どの食べ物が美味しかったかとか、そんな話だろう。

 遺物が起動した夜。お互い、何が毒になるのかも分からない状態だったというのに、彼は突然酒と肴を向こうに渡したのだった。何でも「酒酌み交わせばどんな相手か分かる」というのが彼の信条だとか。


 アサにしてみると乱暴過ぎる理屈で、その場にいたら引っぱたいていただろうが。でもそれで、お互いの食べ物が毒では無いことを確認出来たのでよしである。

 朗らかに笑う彼らを見ていると、アサには未来に希望が持てそうな気がしてきた。


「ああ、どうしてこういうときに限って、旦那様も奥方様もいらっしゃらないのでしょうか」

「仕方ないわ。父上も母上も、遠方で重要な折衝を任されているのだもの。それを切り上げることは出来ない」

「でも、何でよりによって、とは思います。ひょっとしたら、お嬢様にこの世界の命運がかかっているのかも知れないのですよ?」


 アサは小さく嘆息した。

「ミィレ? それは、私では不安だという意味かしら?」

「いえ、そんな滅相も無いです」

 慌てて侍女は首を横に振った。


「分かっている。私の身を案じてくれているのよね? 女一人で、しかも成人したての身であちら側の世界に行こうというのだもの。でも、これでもアサ家の娘よ。爵位を持つ家の人間として、臆する気は無い。むしろ、天より賜った、栄誉を掴む機会と考えているわ」

 アサは長く伸ばした髪を撫でた。癖の無い漆黒の髪。

 聞けば、向こう側の人間は皆、黒髪であるという。遺物が起動した直後は、髪が茶色だったり肌が褐色だったりした者も見かけたという報告もあるが。であれば、この髪も有利に働くかも知れない。姿形が似通っていれば、本能的にも異物としての刺激を抑えられるだろう。深紅の瞳は、どう受け止められるか分からないけれど。


「それに、やることといえばちょっと顔を見せるくらいよ。難しい話をするわけじゃないわ。そもそも、言葉も通じないんだし。これで歴史に名が残せるのなら、楽なものよ。あと、さっきも言ったけれど野蛮ではなさそうだし、予定も伝えられているしね。何か起きる可能性は低いわ」

「はあ。でも、それがよく分からないです。どうして、言葉も通じないのにそんな真似を?」


「少しでも、こちらのことを知りたいっていうことでしょうね。まずは、お互いに一人ずつ交換して、世界そのものの情報を知る。言葉は通じなくても、直に見聞きした経験というものから判断出来ることは多々あるわ。そういう意味では、私のやることは、決まっているから簡単。堂々と誇りを持って振る舞うこと、敵意が無いことを伝えるため、笑顔を絶やさないこと、なるべく見聞きしたことを覚えること。それくらいよ」


 しばし髪を弄んで、アサは侍女に視線を戻した。

「むしろ、あなた達の方がよっぽど責任重大だと思うんだけど? 大丈夫? くれぐれも、出迎えに失礼の無いようにね?」

「大丈夫です。お任せ下さい。お嬢様の申しつけ通り、万事抜かりなく準備は整っております」

「ええ、よろしく頼むわ」

 もっとも、その点についてもそれほど心配はしていない。ミィレはまだ危なっかしいところはあるが、相手をもてなす気配りには長けている。最終的にすべてを取り仕切る侍女長は、父の代から長く勤めている経験豊富な人物だ。必ずや、信頼に応えてくれることだろう。


「あとお嬢様、もうそろそろお時間ですが。ご予定を確認されますか?」

「そうね、そうさせて貰うわ。予定表を」

 ミィレは頷いて、予定表をアサに渡した。

「それにしても、興味深い表現方法よね。これ」

「ですねえ」


 紙には四角で区切られた区画がいくつもあり、その区画の中には絵が描かれていた。ちょうど、その絵を追っていけば次に何が起きるのかが分かる仕組みだ。丸い耳の人物があちらの世界の誘導役であり、尖った耳の人物が、こちらからの訪問者。つまりは自分ということなのだろう。

 アサは後で知るのだが、それは、漫画と呼ばれる表現方法だった。

次回は「アサ=キィリン秋葉原に立つ」です。

魔法について少しだけ触れます。よりによって、ゲートで繋がった先が秋葉原って、何となくで決めたけど、初見で見るとカオスな街な気がした。


2019/08/28追記

ちょっとエピソードを並び替えて、アサの来訪エピソードは次の次に移動しました。

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