方針検討
白峰とアサの会話第二回。
今回はもうちょっと、どうやって軍縮(?)していこうかという具体的な話になります。
軍事的に。というには規模は小さすぎるのかも知れないが、一般市民の生活に対する影響は大きい。
その緊張を緩和しようという意見に、彼女達からも賛成を得ることが出来た。
では、次はそれをどのようにして実現しようかという話だ。具体的に現実可能な方法が無ければ、意味が無い。
「私は こちら あちら 行く 来る 人 増やす 案 考えています。武器 誰も 持たない。人 通路の 近く だけ」
要するに、もう少し交流を活発化させようということか。その形であれば、確かに侵略という真似は難しくなる。何しろ、互いに人質を差し出しているのだから。
「その方針は、私達も考えてはいます。ただ、いくつか問題があります」
「問題?」
白峰は頷く。
「具体的には、これから話し合って決めていこうという話だとは思いますが。まずは、いつから? どれだけの人数を? どのような立場の人間を? といった問題があります」
アサは顎に手を当てて、しばし考えた。
「王 街 話を 伝えて 話が 戻ってくる 多分 7日から10日 くらい。いつから? は、早く それより 後に なる 思う です」
「分かりました。そちらの回答がどうなるかは分かりませんが、それくらいの日数が必要なのですね」
「肯定 です」
であれば、関係者に説明し、準備する時間も作れそうではある。
「では、次にどういう立場の人間を行き来させるか? になりますが――」
一拍おいて、白峰は続けた。
「まず、こちら側の立場として、難しいと思われる人達について、先に話したいと思います」
「分かりました」
「例えば自分以外の、外務省の人間にも、こちらに来るようにするという方法もあるかと思いますが」
「『信頼 出来る 人間』考える。問題 ある?」
「いえ、ですが各国への説明などに、こちらの人間が働き詰めの状態です。なので、肝心のこちらに送り込むだけの人間を確保するのが、非常に厳しい状態です。これは、失礼ながら自分のような若輩を担当にすることからも、察しが付いておられるのではないか? と、思いますが」
んぅ? と、アサは小首を傾げた。
「恐らく それは 違う。私 考える。シラミネ=コウタ もっとも よい 人間。理由 がある。私 考えて いる」
「そうですかね?」
今度は、白峰が小首を傾げる番だった。そんな自分を見て、アサが小さく笑った。
「それと 私達 も 外交 する人 用意 出来ない です。出来る 人間。私と ティケア だけです」
「確かに、それもそうですね」
であれば、この案はお互いに不可能だったとボツに出来るわけである。
「では同様の理由で、自分達の世界から、各国の外交官に来て貰うという訳にもいきませんね」
「出来る 否定 です」
「まあ、各国からそういう要望も沢山来てはいるんですけどね。そのような事情を伝えて、すべて断っていますが。どこか一例でも許すと、それはそれで面倒なことになりかねません。なので、あくまでも公平に対応をしています」
交渉の詳細については説明を聞かされていないが、柔に剛にと、手練手管を尽くして話が持ちかけられているそうだ。
「日本 外交 強い 国 疑問?」
白峰は苦笑を浮かべた。
「強いかどうかは、分かりません。ですが、力によって易々と潰されるような外交だけはしない国だと、自分は信じています」
「よい 外交 国 私 考える。考えること 共に 利益 伝える 大事」
アサが頷く。どうやら、好印象を持って貰えたようだ。これを伝えたなら、各所で踏ん張っている諸先輩達も報われるというものだろう。
「それから、学者を交換するというのも避けたいところです。これも、一部にだけ利益を与えることになり、後に問題を生み出しかねませんから。希望者は非常に多いのですが」
「分かります」
アサは軽く手を組んで、身を乗り出した。
「新聞 働く 人間 出来る 疑問? 国民へ 伝える 大事 仕事」
白峰は首を横に振った。
「残念ながら、それも一部の利益という意味では問題になります」
「私 新聞 働く人間 信頼 する。知っている 人間 いる。国民のため 働く。日本 違う です 疑問?」
「はい。日本では新聞業界は完全に政府から独立しています。また、情報を自由に編集出来るという点で、強い権力も持っています。早い話、こちらの世界の情報は彼らにとっては最も欲しく、高値で売れるものです。また、情報を収集するために、ときとしてよろしくない手段を採ることもあります。金に目がくらんだとき、彼らがこの世界で問題を起こす可能性のリスクを考えると、それは避けたい。勿論、真面目に働いている人間もいるのですが」
「真面目 働いている 新聞 人間 だけ 可能 疑問?」
「いえ。無理です。それを見分ける方法がありませんし。何より、出来たとしても、今度はその人が攻撃されかねません」
そう伝えると、アサは渋い顔を浮かべた。
「私達 国 新聞 働く人 国民が 見る。国民が 選ぶ。問題 したら 国民が 選ばない。直ぐに、罰」
「つまり、新聞記者は文字通り国民が選んだ『国民の代表』であると? また、常に国民にも監視されていて、問題を起こしたら職を失うということですか?」
「肯定 です」
そういう制度もあるのか。と、白峰は面白く思った。
「なるほど。ですが、こちらではそのような制度にはなっていません。近年になって、国民はネットを使って彼らを監視することが出来る様になりました。またそれによって、監視の目も厳しくなっているようなのですが、それを分かっていないのか、昔ながらの問題を繰り返しては怒られています」
「分かりました」
やれやれと、アサは肩を竦めた。
「では、次に出来る可能性があると思った案なのですが――」
「警察?」
いきなり先に答えを言われ、思わず白峰は言葉に詰まった。
ウィンクをして、アサが得意げな笑みを浮かべてきた。白峰は苦笑する。
「残った 人間。可能性。それ 思う」
「はい、その通りです。これまで顔を合わせていた警察官同士なら、抵抗も少ないだろうかと。まだ、答えを聞いていないのでこちらの警察にも伝えていないのですが」
「彼ら 聞きます。多分 大丈夫」
「そちらの警察の人達は、素手でも戦う事は出来ますか? こちらは、出来ますが」
「可能 です」
「分かりました。では、この方向で上にも伝えてみます」
「分かりました。私も、王 街 報告 する 予定 です」
「よろしくお願いします」
白峰は頭を下げた。アサもまた同じように頭を下げてくる。
「それと、暫定ですが通貨の基準と、購入した物の持ち込み禁止が必要になると思います」
アサは首を傾げた。そういえば、翻訳機の一部が『訳せません』の警告音になっていた。
「一時的に。お金。基準」
今度は警告音が鳴らない。ああ、なるほど。と、アサが頷く。
「食べ物 お金 使う? 許す」
「はい」
「物 買う ダメ?」
「はい」
「何故? 理由」
「食べ物や飲み物のお金を各自、あるいは政府が出すのは問題がありません。しかし、個人が物を買ってそれを持ち帰り、互いの世界で高値で売るという真似が起きた場合、そのときもまた利益が絡んで様々な問題が生まれる危険性があるからです」
「理由。分かります」
アサは納得したようだった。
「お金。基準 どう 考える?」
「お金の原則は物と物との交換です。なので、互いの国に等価か、それに近いと思われるものの値段でどうでしょうか?」
「よい。考え 思う。何 ある 疑問」
「例えば、お米とかどうですか? どうやら、互いに主食であり、それ故に生活費の中で占める費用も近いのではないかと、こちらは考えていますが」
「米の 値段 基準。一時的」
アサの表情を見る限り、そう悪い感触でもなさそうに思える。
「米 値段 基準。長い 間 する 問題。日本 分かる 疑問」
「はい。日本は数百年前には米をお金の基準とした社会を経験しています。そのときは、米を作れば作るほど、即ちお金が増えるということになり、耕作地の拡張や豊作不作による経済の不安定化といった問題を生みました」
「私達 も 同じ。だから 一時的 なら。一時的 の 時間 疑問」
「この方法により、一方にのみ多大な不利益が偏る場合は、その都度協議し修正をするというのでどうでしょうか? 長く適用する基準に移す場合も、同様にこの基準からの修正という形を取ります」
「王 街 へ 報告 予定 です」
アサはティケアへと顔を向けた。
「ティケア。米 他に食べ物 国民 生活 使う お金 割合 調べる」
「分かりました」
アサの言葉に、ティケアが承諾する。
「あと 私 本 買う 出来る 疑問? 売る 考え 無い」
アサは直接、本を買いたい? 別に、売るつもりは無いようだが。
何となく、白峰はミィレの顔を見た。頬が一瞬だが引き攣ったような? そういえば彼女から「アサは図鑑を夜遅くまで読んでいた」とか、そういう話を聞いたことがあるような気がする。
ということは、案外とこれは、純粋にアサの個人的な欲求なのかも知れない。
ティケアを見ると、素知らぬ然とした無表情であったが。
「売却目的などではないことを証明出来るのであれば、可能性はあるかも知れません。上に聞いてみます」
「よい 返事 願う」
重々しく頷くアサであったが。どうも、その瞳が期待でいっぱいになっているような気がするのは、気のせいだろうか?
白峰としてはアサは才媛。という印象ではあるが、ひょっとしたら毅然としたお嬢様などではなく、可愛らしいところも結構あるのかも知れない。
次回も、白峰とアサの会話回。割と雑談多めで。
会話させてみたけど、思ったよりもこの二人、相性悪くないのかも知れない。
ただ、感情が割とストレートに出るのは、白峰もアサも外交官としてはまだ青いのかなあとか思います。
次回かそのくらいで、「銃と魔法編」も終わりです。
でも、本当だったらそのまま次章に移りたかったものが、間に別の章とか小話的なものが挟まりそうな気がします。