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銃の脅威

銃に対する対抗策とかそういった会議です。

 アサは今晩も、異世界から戻ってくるなり、そのまま市役所へと直行した。

 会議室で着席する議員や幹部職員の顔には、疲弊の色が滲んでいた。あのお披露目会の解散の後、延々とここで話し合いをしていたのだろう。

「みなさん、夜遅くまでお疲れ様です。それと、私にこれまでの話の経緯について、説明をお願い出来るでしょうか?」


 市長が頷いた。

「そうですね。大雑把に言って、あの銃というものはどのような仕組みのもので、我々に再現は可能なのか? あれらを用いて彼らがこちらに攻めてくる可能性はどの程度あるのか? もしも、攻めてこられるなら、そのとき我々に勝ち目はあるのか? そのときの対処方法は? そういう話をしていました」

「なるほど。それでは、それぞれのそういった話に何らかの結論は出たのでしょうか?」


 その問い掛けに、市長は一瞬だが顔をしかめた。

「いえ、残念ながらそこまではっきりとしたものは。申し訳ありません。ただ、それでも申し上げるのであれば、仕組みについてはこの際深く考える必要は無く、再現も直ぐにどうこう出来る話ではないという具合になりました。優先度は、あの銃が我々にとって脅威となり得るかどうかの方が高いと思います」

 アサは頷き、同意する。


「ええ、その通りです。その認識で問題ないと私も考えています。では、脅威であるか否か? については、どのようにお考えなのでしょうか?」

「一言で言えば『脅威』ですね。いや、武器である以上は何であろうと脅威であることは間違いないのですが。それでも、詠唱のタイムラグも無しにあの攻撃を繰り出せるというのは恐ろしい。また、障壁を展開してもそれが破られないという保証はどこにもありません。防げる可能性が高い。とは考えていますが」


 端の席に座る男が手を挙げた。彼には見覚えがある。ゲートで毎日顔を合わせている。衛士隊長のサラガだ。

「彼らが着込んでいる防護服もですが、見た目は軽そうなのですが、かなりの強度を持っているのではないか? そんな風に思えます。魔法による障壁が無いのであれば、銃を防ぐにはそういう鎧というか防護服というか、そういうものを発達させると思うのです。関節などに隙間はありますが、それでも我々の攻撃が必ず通じるとは限りません。一斉に突撃と掃射をやられると、それだけで被害は相当のものになるかと思います」


 また、別の議員が手を挙げた。

「それと、あの銃というのはあくまでもゲート付近にいる、向こう側の衛士の装備なのですよね? 軍隊が持つものに比べたら大人しい代物である可能性があるかと。そうなると、銃の発展系として、どんな兵器がその後ろに控えているのか? それを考えると、やはり脅威かと」

 会議室の中に、渋面が並んだ。


 市長が口を開く。

「そうそう、攻め込まれることは無いだろうとは、思いますけどね。シラミネ=コウタやサクラノ=シンヤの態度を見る限り」

 それはアサに行っているようで、自分にも言い聞かせているような口ぶりだった。

「それでも、最悪を想定しておくことは間違いではありません。皆さんの考えは正しいと思います。現場の人間の想いを越えて、決定が下されることは有り得ます」

 もっとも、そんな事態を招くことだけは、アサも避けたいのだが。


「では、そのような事態になったとき、勝ち目はあると思いますか?」

 サラガが答えてくる。

「まず何を以て『勝ち』とするかですが、少なくとも市民の避難を完了させるまで時間を稼ぎ、ゲートの向こう側に彼らを封じ込めることは可能です」

「どのようにしてですか?」


「基本的な方針は、従来と変更ありません。彼らが銃を構える。ゲートを越えてくることがあれば、障壁を展開しゲートを囲みます。変更点は、障壁の層を増やし、防御力を上げるくらいです。あちらに魔法が無い以上は、銃による攻撃は単純な物理力で間違いないでしょう。対魔法の貫通概念は付与されていないはず。その上であの威力であれば、防げる可能性が高いと見ていいです」

「衛士達も、ゲートからは離れるのですか?」


 サラガが首肯する。

「はい、私他数名のみを残し、残りをこれまでよりも距離を取らせます。あの銃というものは、使い方を見る限り、攻撃をするまでの時間は短いですが、それで即座に正確に照準を合わせられるようなものではないでしょう。近距離用の武器です。距離を取れば被害を受ける可能性は一気に落ちます」

「あなたは後ろに下がらないのですか? いざという時、指揮する人間は必要だと思いますが?」

 その問い掛けに、サラガは笑みを浮かべた。


「何、私がいなくてもみんな動けるように、既に話は通ってます。そうとなると、あちらの人間とゲート越しで話をするのにも、こちらの現場を指揮する立場の人間でなければ、色々と都合が悪いでしょう」

「分かりました。あなたのその責任と覚悟に敬意を払います」

 アサはサラガに頭を下げた。ゲートが繋がったとき、酒を持ち込むような非常識な男だと思っていたが、彼も彼なりに信念や矜持を持っていたのだ。


「あと、私からも意見を言わせて貰います。市民の避難という点で見れば、恐らくは無事に達成出来ると思います。その上で、さらにそれが、残念ながら衛士の皆さんの撤退までは出来ず、不幸にもこのルテシア市が陥落した場合ですが」

 アサは少しだけ瞑目し、続けた。


「それでも、少なくともこの世界は破れません。どういうことかというと、確かにあの世界には銃を始めとしてその奥には恐ろしい力を持った兵器が存在していると予想されます。しかし、魔法と違い、物質的な補給が必要になるものでしょう。その補給線はあの人一人が通れる程度の、非常に細いものです。また、大型の兵器は持ち込めません。こちらで兵器を組み立てるのも、そうそう出来るものではない。なので、戦線を拡張するのは難しい。また彼らがこのルテシア市を拠点化している間に、こちらの反撃体制は十二分に整える時間はあるのです」

 きっぱりと、断言する。

 その言葉に、アサの目の前の人間達は幾ばくかの安堵を覚えたようだった。


「そして、あちらの人間達はその可能性、リスクも見出せないような愚か者ではないと、私は信頼しています。サラガさん。私はあなたの覚悟に敬意を払いますが、残念ながらそれは無駄になると思います。何故なら、お互いに武器を納めるからです」

 そう言うと、サラガは苦笑を浮かべた。

「いや、むしろそうなってくれるとありがたいんだけどなあ。私も、緊張感がある状態が続くよりは、そっちの方がずっといい」

 サラガに続いて、会議室の空気が少し緩んだ。


「しかし、どうやって武器を納めるという話に持っていくおつもりなのですか? 向こうが可能性について理解を持っていても、それを口に出すとは限らないと思うのですが。それに、武器を納めるのなら、ここで我々がこうして対応策や脅威について話し合っていたことも、ひょっとして全部無駄だったりしませんか?」

 アサは首を横に振った。


「そんなことは無いわ。我々の認識を説明し、そして向こうの認識を確認し、その上で合意が得られるものと私は考えています。具体的な体制や手順については、話し合いながら決めることになるでしょうが、そういう話に持っていくためにも、ここでの話は非常に重要なものとなるのです」

「分かりました。では、これから先は姫様のお仕事である。そういう事なのですね?」

「そうなります」


 期待と不安が混じった眼差しが、自分に集中しているのをアサは感じた。そんな彼らに、自信たっぷりにアサは笑みを返した。

 民を導くのなら、不安と恐怖を人一倍感じてありとあらゆる可能性を考えろ。そしてその上で、それをすべて押し潰して笑顔を見せて安心させろ。それがアサ家の先祖から伝わる教えだ。

 この問題、必ずや解決してみせる。何しろ、勝機は十二分にあるのだから。

異世界サイドの戦略級兵器については、色々と考えはするものの、多分出番は無いんだろうなあ。

あっても、物語のテーマとしては凄く困るんですが。

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