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この異世界によろしく -機械の世界と魔法の世界の外交録-  作者: 漆沢刀也
【異世界言語習得開始編】
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ある日の白峰晃太の休日

久しぶりの白峰回。そして、休日の一コマ。

エピソードの意味としては、次章への繋ぎ。

 言葉を覚えることは、昔から苦では無かったように思う。

 好きこそものの上手なれ、という言葉はあるが、その通りだ。

 切っ掛けが何だったのかは、よく覚えていない。両親が共働きで、主な暇潰しの手段が本を読むことだったというのが、そうなのかも知れない。


 勿論、ゲームだって他の子どもと同様にやった。けれども、RPGのような物語があるものばかりをやっていたように思う。格闘ゲームやシューティングゲームのようなものは、あまり得意ではない。不思議と、パズルゲームのようなものは得意だったように思うけれど。

 文章から情報を適切に汲み取るには、その言葉の並びから、それぞれの関係を適切に整理していく能力を獲得する必要がある。その整理能力が低いと、機能的非識字といった「読めるけれど情報が汲み取れない」状態に陥る事にもなる。


 そういう意味では、文章を読み続けることで、自分のその情報整理能力は鍛えられてきたのだろう。白峰はそう考えている。

 また、情報整理のルール。即ち構文というものを意識したことが、日本語以外の言語も、単にちょっとそのルールが変わるだけ程度にしか思えず、意識的にハードルが低くなっていた。そんな風に思う。


 例えば「This is a pen」をそのまま「これ です 一個 筆」などとしてしまえば、それだけで意味が分かる。また、逆も然りである。じゃあ、後はひたすら覚える単語を増やすだけだ。実に単純な理屈。

 この理屈がどこまで通じるのかを試したくて、色々な言語を覚えてきたと思う。実際、通じるのが楽しかった。

 かつてのクラスメイトには「理屈はそうだけど、そんな風に簡単に出来るかあっ!」とか、呆れられたが。

 ともあれ、そんなこんなで、これまでの研修でもその経験を生かして、言語の習得はスムーズに進められていたと思う。


 イシュテン語は、日本語の構文に近い。それが、佐上のおかげで実証された。ならば、今回も後はひたすら、日常生活で使用頻度が高い単語を優先して覚えていくのみだ。佐上の技術力は凄いと思った。

 これまでの経験を照らし合わせて、それなら一ヶ月から二ヶ月もあれば、日常生活に苦も無い程度には話せるようになるはず。広く使われているという言語は、もう少し時間が掛かりそうだけれど。

 そういう訳で、今日も一日、白峰は言葉の習得に時間を費やした。

 と、机の脇に置いたスマホが鳴った。盤面には、古い友人の電話番号が映し出されていた。


「もしもし?」

『よお、久しぶり』

「ああ、久しぶり。元気だったか?」

『いやあ? そうでもない。会社に扱き使われているよ。外務省ほどじゃないんだろうけどさ』

 嘆息混じりに、彼の笑い声が聞こえた。でも、その割には元気そうな声をしていて、安心する。

『でさあ。電話したのは、ちょっと気になってさ。お前だったら何か知ってるんじゃないかって。ほら、魔法? そんなのがあの異世界にはあるってニュースで言っているだろ? あれ、もうちょっと詳しく何か知らないかって』


「いや? 官房長官の発表の通りだって。別に、隠しているわけじゃない。君もそうだけど、少しでも情報を知りたいっていう気持ちは分かるけど。正直、訊かれてもあれ以上は答えようが無いよ」

『ふ~ん? まあ、やっぱりそんなもんだよなあ』

 つい先日、自分に答えた桝野と同じ事を言っているよなあと、白峰は苦笑した。

『じゃあ、俺達があっちに行ったら凄い魔法使いになれるとか、そういう可能性は無いのか? 一部で、そんな期待している連中がいるんだけどさ?』

「一部って、どうせお前もそうなんだろ?」


『まあなっ! だって魔法だぜ魔法? 子どもの頃、一度くらいは思うだろ? 何かこう、呪文唱えたりしたらエネルギー弾を撃ち出せないかとか』

「まあ、思ったけどさ。でももう俺達も大人だぞ?」

『仕方ないだろ。そういう願望はいくつになっても、消えないものなの。心理学的には固着って言うんだけどさ』

「お前は、そういうものには詳しいよなあ」


 分野が違うだけで、この友人もまた、色々なものの知識を集めるのが好きだったりする。だから、長年付き合えているのだろうが。

『でも、本当にそういうものがあったりは、しないのか? あと、相手がそういう魔法を使えるとして、もしもこっちと戦うことになったとして、そういうときどうなると思う?』

 実際、ネットではその手の話題を語るところも出ていたりする。


「さあね? そもそも、まだそんな情報すら確認出来ていないし。そういうのを考えるのは、また自分とは違う人達だから、何とも言えない。でも、そこまで深刻なことにはならないと思う」

『何でだ?』

「官房長官も言っているとおり、あの世界にとって魔法ってただの技術なんだよ。こっちの世界で、技術を冷蔵庫や電球に使うか、武器に使うかといった違いくらいしかない。魔法でエネルギー弾を撃ち出せようが、バリアを張れようが、こっちの銃や装甲に勝るものを警備隊にしろ歩兵にしろ装備するとは思えない。歩兵に、核弾頭は持たせないだろ? 普通。ある程度の戦力で収まるようになっているんじゃないか?」


『とんでも兵器に、M388 デイビー・クロケット(戦術核兵器)というのがあってだな?』

「だから、普通じゃないだろそれはっ!」

 電話の向こうで、友人の笑い声が聞こえた。

『まあ、お前の言うとおりなんだろうけど、それでもちょっとは心配なんだよ。言っても仕方ないんだろうけど、早く、その情報も発表されたらとは思うな。まあ、外務省も頑張っているんだろうけど』


「君みたいに、話の分かってくれる国民ばかりだと、助かるんだけどなあ」

 とはいえ、不安はなるべく早く取り除きたい気持ちはある。

「まあ、それもあと数日で発表されると思うよ。何だかんだで、そういうところはお互い気になるようだしね」

『ふ~ん? じゃあ、それまで俺は待つことにするよ。まあ、何にしても元気そうな声が聞けてよかった。俺の用はそんだけだ。そっちからは何かあるか?』

「いいや? ああ、他にそっちに変わったこととか無いか?」


『無いなあ。うん、無い。せいぜい、東京の仕事が全部こっちに来て、忙しくなったくらいだ』

「なるほど。俺も元気そうな声が聞こえてよかったよ。それじゃあな」

『おう、またな』

 さて、言語の勉強もそうだけれど。もう少し、待って欲しいと回答された、互いの装備の確認。これの折衝をどうしたものか?

 白峰は天井を見上げた。

次回は、アサ=キィリン回。

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