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この異世界によろしく -機械の世界と魔法の世界の外交録-  作者: 漆沢刀也
【共にに歩む編】
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手術の成功を祈って

 ルホウが日本の病院に入院した翌日。

 白峰とミィレは再び病院に訪れた。

 担当の医者から、ルホウの検査結果について説明を聞く。

 ルホウは今も、集中治療室の中にいるため、診察室にはいない。


「お待たせしました。ルホウさんの検査結果と、今後について説明致します」

「よろしくお願いします」

 担当医に、白峰とミィレが頷く。


「造影剤を使用したCT検査の結果ですが。ルホウさんの心臓は、血管がかなり細く、詰まっているところが数カ所ありました。まだ完全に詰まっているという訳ではありませんが、血の巡りは相当に悪くなっています。正直、いつそうなってもおかしくないという状態でした。よく、今日まで保っていたと思います。非常に、危険な状態です」

 そんな医者からの説明に、白峰もミィレも青ざめた。


「ヤコン先生から、翻訳機を介して診断記録と薬の説明を聞きましたが。ルホウさんの病気は、日本語で言うなら狭心症ということになるのでしょうが。しかし、幼少期から進行していたという話と、血液検査の結果から、コレステロールが原因による動脈硬化といった、よくあるケースとは違うのでしょう」

「はい。私も色々と調べたのですが、ひょっとしたら私達の世界特有の病気なのかも知れません。発症するのは小さい頃なので、生まれつきの要素も多いのではないかと言われています」

 ミィレの説明に、担当医は頷く。


「それで、狭心症の薬も使ってみたのですが、体質の問題なのか効果は弱めなようでした。そこで、すぐに持参して頂いた薬に切り替えたのですが。こちらの方が効果的なようですね。ですので、数が限られていますが、今はそちらを使用しています」

「分かりました」


「そして、治療ですが。これは普通の狭心症の手術と同じくステント手術を行います。ひょっとしたら、既にご存じかも知れませんが、腕の血管からカテーテルと呼ばれる細い管を通し、心臓の血管でバルーンを拡張させます。これは、体の負担から考えても、危険性は低いという判断です」

「分かりました。よろしくお願いします」


「緊急を要しますので、可能であればこの後すぐにでも手術を行いたいと考えています。こちらが、手術の同意書となります。身内の方のサインをお願い致します」

 ミィレは医者から同意書を受け取り、サインをした。


「先に言っておきますが、この手術一回だけで完治するかどうかは難しいかも知れません」

「どういうことでしょうか?」

「血管の詰まっている場所や詰まり具合によっては、バイパス手術。つまりは、詰まっている血管を正常な血管と交換する手術が必要となります。これをやる場合、胸を開いて心臓を直接手術する必要があります。患者さんへの負担も大きいので、今回は出来ません。まずは、ステント手術をして、上手くいけばそのまま完治することを期待したいところですが。それが難しい場合、その後の体力回復を待ってバイパス手術という流れになります」

 その説明に、ミィレは少し顔をしかめた。


「ステント手術後に、体力は回復するのでしょうか?」

「申し訳ありませんが。そこは、患者さんの生命力次第としか言えません。ただ、ルホウさんはまだお若い方です。希望を捨てないで頂きたいと思います。我々も、全力を尽くします」

「そう。ですよね。どうか、よろしくお願いします」

 ミィレは深く、頭を下げた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 手術中。と書かれたランプの近くに置かれたベンチに、白峰とミィレは座った。

「昨日は、眠れましたか?」

 白峰の問いに、ミィレは首を横に振った。


「いいえ。あまり。少しは、眠れたんですけれど」

 弱々しく、ミィレは笑みを浮かべた。

 彼女は、赤く光るランプを見上げる。


「本当に、現実感が湧かないです」

「そうですね。本当に慌ただしく変わっていますから、無理もないと思います」

 ミィレは頷く。


「私達、本当に結婚したんですよね?」

「はい。法的にはそうです。昨日、一緒に役所に行って婚姻届を出したので。あれで自分達はもう、法的には夫婦です」

 そう言うと少し照れくさい気がして、白峰は頬を掻いた。


「それも、実感が湧かないです。シラミネさんには、悪いように思いますけれど」

「いえ、それも無理ないと思います。自分だって、あれだけだとまだ、ミィレさんと結婚したんだっていう実感、湧いてないですから」

 白峰は苦笑した。


「どうしたら、実感が湧くんでしょうね?」

 白峰は虚空を見上げた。

「そうですね。色々と片付いて、落ち着いて。結婚式を挙げて。そうしたら、実感も伴ってくるんじゃないかなって。そう、思います」

 白峰の答えにミィレは肯定も否定もせず、何も言わなかった。


「ルホウ君って、小さい頃はどんな子供だったんですか?」

 何か話し続けていないと、ミィレは不安に押し潰されてしまいそうな。そんな気がして、白峰は話題を探した。

「ルホウの小さい頃ですか? そうですね。信じられないかも知れませんけど、本当にやんちゃで一日中そこらを駆け回っているような子供でしたよ? 一時もじっとしていることが出来ないような。そんな感じで」

「え? そんな子供だったんですか?」


「そうですよ。『綺麗な花を見付けた』とか言っていたんで、持ってきた花を見たら本当に遠く山の高いところにしかないような花だったりして。あの歳でどうやってそんなところまで言ってきたのかと、家族みんな驚いたこともあります」

「へえ。凄い子だったんですね」

「ええ。だから、急に倒れたときは本当に驚いたし。外を駆け回ることが出来なくなっていくときは、本当に辛い顔を見せていました。私は、それでもう一度、あの子には元気になって貰いたかったんですよ」


「きっと。もうすぐ、その夢も叶いますよ」

 びくりと、ミィレは震えた。

 彼女は項垂れる。


「一つ、お願いいいですか?」

「はい」

「私の手、握って貰っていいですか? さっきから恐くて、仕方ないんです」

「うん。勿論。喜んで」

 優しく言って、白峰はミィレの手に自分の手を重ねた。

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