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この異世界によろしく -機械の世界と魔法の世界の外交録-  作者: 漆沢刀也
【共にに歩む編】
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病院にて

 ミィレの弟、ルホウは説明を聞くと驚きはしたが、あっさりと納得した。

 むしろ、姉が結婚すること。飛行機に乗れること。異世界に行くことも含めて、貴重な経験が出来ると喜び、弱々しいながらも笑みを浮かべた。


 ミィレがどんなに「無理をしないように」と言っても、彼は決して飛行機の中で横にはならず、食い入るように窓の空を眺めていた。

 ルテシアに到着し、渡界管理施設まで来ると、月野達は既に手配は済ませており、彼は待つこと無く日本の病院へと救急車で運ばれることとなった。


 そして病院では、そのまま集中治療室へと入っていった。

 残された白峰、ミィレ、そして彼らに合流したヤコン医師はルホウのこれまでの病状について、病院の医師に説明を行った。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ここから先は、医師同士の会話になるというので、ヤコン医師を残して、白峰とミィレは病院のロビーへと向かった。

 空いている長椅子へと座る。


「ミィレさん、慌ただしい移動でしたけど、お疲れ様でした」

「そうですね。シラミネさんの方こそ、お疲れ様でした」

 少しだけ、安堵した表情をミィレは浮かべる。


「でも、病院まで辿り着くことが出来て、良かったです」

「そうですね」

 白峰のような素人から見ても、ルホウは衰弱しきっていた。ミィレにしてみれば、不安で仕方なかったことだろうと彼は思う。


「あとは、あの子の病気が治せるものなら、いいんですけど」

「治りますよ。きっと。必ず。治るはずです」

 白峰自身、祈るような気持ちでミィレにそう伝える。

 詳しいことについては、まだ何一つとして分からない。けれど、そう思わずにはいられなかった。


「ミィレさんには、ルホウ君の病気について何か思い当たる節はあるんですか?」

 白峰の問いに、ミィレは首を横に振る。

「ときどき、調べはしたけれど。どれも疑わしい気がして、全然分からないです」

「そうですか。でも、それも無理はない話かも知れないですね。やっぱり、本職の医者じゃないと難しいのかも知れませんね」


 だからこそ、どんな結果になるか聞かされるのが恐い。

 これ以上、何を話していいのか分からず、白峰は口を閉ざした。

 二人とも沈黙したまま、10分程度が過ぎる。


「あの。シラミネさん」

「はい、なんですか?」

「王都は、どうでしたか? そういえばまだ、その話って全然聞いていなかったなって思って」

 その言葉に、白峰は苦笑する。


「そういえば、そうでしたね。すっかり、忘れていました」

「忙しかったですか?」

「はい。物凄く忙しかったです。全部スケジュール通りにやっていたら、約束していたお土産、ひょっとしたら買えなかったかも知れませんでした」


「じゃあ、無理に時間を作って、あれを買いに行ってくれたって事ですか?」

「あ、いや。そういうことじゃなくて」

 照れくさそうに、白峰は頭を掻いた。


「実を言うと、あまりに忙しかったりしたせいか、ちょっとホームシックっぽい感じになっちゃって、数日休んじゃったんです。その話、ミィレさんには伝わっていなかったんですか? 報告か何かで」

 ミィレは首を横に振る。


「その休みの時に、買いに行きました。あと、そのホームシックっぽくなったときに、気付いたんです」

「気付いた? 何をですか?」

「自分が、ミィレさんの事が好きだっていうことです。ミィレさんと会えないことが、こんなにも寂しいんだって。だから、やっとルテシアに帰ってきたと思ったら、そうしたらミィレさんがいなくて。それは、堪えました」


「そうだったんですね。でも、あれは本当に無茶しすぎですよ? 私、本当に怒っていたんですからね? 分かってます?」

「はい。あの後、ルテシアに帰ると月野さんにも物凄いのに怒られましたね。顔を出すなり、怒鳴られて殴り倒されました」

「殴られたんですか!? ツキノさんに?」


「ええ。そのまま気を失って、疲れもあったのか、目を覚ましたらもう日も暮れてました」

「まったくもう。あなたっていう人は」

 呆れが混じった声で、ミィレが小さく笑う。

 久しぶりに見ることが出来たその笑顔に、少しだけ白峰は心が安らいだ気がした。


 と、視界の端にヤコンの姿が見えた。彼は手を挙げて、彼らの所にやってくる。

「あの? お話しは、どうなったのでしょうか?」

「うん、その話についてこれから説明させて貰う。翻訳機を交えての話だから、正確な理解では無いかも知れないが。ニホンの医者の人達、忙しくて他の患者さんに向かってしまってね」


「構いません。お願いします」

「弟さんについてだけれど、診断書や薬の効果を考えても、やはり心臓に何か問題がある可能性が高いと思われる。そして、病状によってはまず体力の回復を優先するべきかという考えもあったが、それは――」

「私は、難しいと思います。あの子は、寝たきりでも日に日に弱っています」

 ミィレの言葉に、ヤコンは頷いた。


「私も同意見だ。なので、早朝に検査をして原因を調べる。そして、なるべく早く手を打つことを考えるという方針になったよ」

「検査というのは?」

「内臓や血管の様子を写真で細かく見ることが出来る機械があって。それを使うという話だ。体への負担は少ない検査だと聞いている」


「つまり、造影剤を使ったCT検査ということですね」

 そう言って「なるほど」と頷くミィレに、ヤコンは目を丸くした。

「そう。確か、そんな名前の検査だったように思う」


「分かりました。先生、ありがとうございます。先生は、これからどうされるんですか?」

「もう少しだけ、ここに残るよ。ルホウ君にも、同じ説明をしにいくから」

「そうですか。あの子の事、どうかよろしくお願いします」

 ヤコンは頷いて、白峰達に踵を返した。

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