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この異世界によろしく -機械の世界と魔法の世界の外交録-  作者: 漆沢刀也
【異世界言語習得開始編】
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目が覚めたら平行異世界に転生していたかも知れない件

異世界の使者や、憎き月野渡(ド腐れ眼鏡)の前で、めっちゃ眠いオーラ全開という醜態を晒してしまった佐上。

もう、ここにはいられない。翻訳機の夢も消え失せる。そんな失意の中で、気付けば彼女は平行異世界に転生していたのかも知れません?

 ふと、目を開けるともう部屋は真っ暗になっていた。とっくに日は落ちていた。

 ベッドの脇に備え付けられたデジタル時計へと顔を近づける。眼鏡を掛けていないから、ほとんどよく見えない。

 時計は既に20時を回っていた。

 深く、嘆息する。

 二度寝しようかとも思ったが、皮肉なことに、たっぷりと寝たせいで、頭が冴えてしまって眠ることも出来そうにない。

 朝から何も食べていないというのに、食欲は湧かない。


「まずは、謝らんといかんよな」

 出来れば定時内に起きて謝っておくべきだった。いや、寝る前に謝るべきだったのかも知れない。けれども、とてもそんなことに頭が回る状態ではなかった。

 ベッドの脇に備え付けられたスイッチを入れ、部屋の灯りを点ける。のそのそと布団から這い出て、ベッドの脇に置いた眼鏡を掛けた。

 スマホを手にすると、既に何度か社長から電話が入っていた。

 どんな風に怒られるのかを想像すると、今から胃が痛い。

 リダイヤルを実行し、社長のスマホへと電話を掛けた。生憎と、直ぐに電話は繋がった。


『おう、佐上か』

「……はい」

『お前、とんでもないことをやらかしてくれたな』

「そう、ですね。はい」

『こっちの方も、エラい騒ぎや。外務省の人、吃驚しとったで?』

「……そう、ですよね」

 吃驚どころか、呆れ果ててたやろうなあ。こんなどうしようもない社員を抱えているような会社なんて、信用出来るわけがない。これで、お付き合いは無しになったことだろう。

 どんな風に、社長達は怒られたのかと考えると、胸が締め付けられる。


「あの、すんまへん。うち、本当に何て言ったものか分からなくて」

『まあ、せやな。まさかこんな事になるなんて、俺も思ってもみんかったわ』

 深々と、電話越しに社長の溜息が聞こえてきた。

『本当に、お前。あの翻訳機になんちゅう事してくれたんや』

「うちも、そんなつもりやなかったんです。けど結果、こんな事になってしもうた責任は取るつもりです」

『おう、そうだな。いい覚悟だ』

「それで、外務省は何と言ってはりましたか?」

 キュッと、佐上は唇をかみ締めた。


"ああ、是非ともこの***を***て欲しいそうや"


 まったく、予想もしていないその言葉に、脳が理解を拒絶していた。

 何を言われたのか、さっぱり分からない

「はいっ!?」

『という訳でな? 多分俺も、近いうちに見積の意識合わせに一度そっちに行くことになるわ』

「は、はあ。そうですか」

『何や? 佐上? お前、外務省の人から何も聞いていないんか?』

「ええ、まあ。ちょっと行き違いがあったみたいですね」


 どういうこと?

 マジで、何を言ってきたんや外務省?

 佐上は乾いた笑いを浮かべ、取り繕いながらも、まったく混乱が収まらなかった。

「えっと? ちなみに、うちはその。こっちに残ったままになるんですか?」

『当たり前やないか。お前がそっちに残らんで、どうすんねん?』

「そ、そうですねえ。あは、あははははは~」


 ようやく、状況を脳が理解し始めてくる。

 どういうわけか、まだ自分はここで必要とされていて、しかも翻訳機も評価されて、正式な契約の話まで繋がったらしい。

 でも、何が起きたというのか? 実は自分、自殺していて、平行異世界にでも転生しているんじゃなかろうか? そんな、非現実的な想像すら思い浮かんでくる。


『まあ、そういう訳や。こっちもしばらくは忙しいことになりそうや。みんな、帰れっちゅうのになかなか帰ろうとせん。手当をいくら払えっちゅうんや。まあ、その分も外務省さんに請求してやるけどな』

 上機嫌な社長の声が伝わってくる。

『お前も、あまり根詰めすぎるなよ? 寝不足で、異世界の使者さんや外務省さんの前で居眠りでもしてみい? エラいことになるで? 外交問題になったらどないするんや?』

「確かに、そうですね」

 すんまへん。もう既に自分はやらかしました。流石に、それを馬鹿正直には言えないが。


『おう。それじゃあ、お前も大変やけど、そっちで気張ってくれや? 期待しとるで。ほならな』

「あ、はい。どうも、お休みなさい」

 そして、電話は切れた。

 自然と、大きく息を吐いていた。理屈はまだよく分かっていないけれど、取りあえずまだクビは繋がっているようだ。


 と、電話が鳴った。今度はスマホではない。部屋の中に取り付けられたものだ。

「あ~もう、今度は何やねん」

 一度咳払いして、受話器を取った。

「はい、もしもし?」

 余所行き用の声へと声色を変える。

『もしもし。佐上様、お休みのところ失礼致します。私、フロントの中村と申します』

「あ、これはどうもです。何か、ありましたか?」


『はい。外務省の月野様から、佐上様に伝言がございます』

 月野。その名前を聞いた途端、佐上の目は細められた。あいつ、今度は何を言ってきたんや?

「はあ。伝言ですか。一体、何でしょうか?」

『はい。まず一つは明日の会談、交流は無しだそうです。休日をどうするかという話が纏まったそうなので』


「え? 無しなんですか?」

『左様でございます』

 それは、正直ちょっと助かる。親に送って貰うように頼んだけれど、着替えとかはもう少し用意したい。

 ひょっとして、外務省の誰かが自分の事情を慮ってくれたのだろうか? まず、それがあの月野ということだけはあり得ないだろうが。


『それともう一つ。明日は月野様と、買い物と食事にお付き合いして頂きたいそうです』

「ふぁっ!?」

 思わず変な声が出た。

『待ち合わせの場所と時間ですが、渋谷駅のハチ公像前に15:00をご希望とのことです。問題があれば、外務省に連絡を入れて下さいと仰っていました』

「あ、はい。そうですか。分かりました。はい、大丈夫です。問題ありません」


 いやいや? うち、何を口走っとるねん? 大丈夫やない。大問題やっ! と、佐上は自身にツッコミを入れた。

 しかし、実際のところ外務省に何か言えるような、そんな問題も無いわけで。

『月野様からの伝言は以上になります。それでは、私はこれで失礼致します』

「はい、ありがとうございました」

 受話器を置いて、佐上は自分の頬をつねってみた。痛い。

 でも、やっぱりうちは、既に死んでいて異世界に転生したのかも知れない。

次回から、月野と佐上のデート回になります?

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