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自己分析

 軽く呻いて、白峰は目を開けた。

 医者から処方された薬は、伝えられていた通り、結構強めのものだったようだ。久しぶりに熟睡出来たし、それは良かったと思うが、同時に眠りが深すぎて軽い頭痛を起こしている。


 もっとも、このくらいに頭痛であれば、少しすれば収まるだろうと白峰は見立てたが。それに、満足に眠れなかった事による不調に比べれば、大分ましになっている。そういう意味では、頭も冴えた感じはする。

 アイリャとの待ち合わせは昼過ぎだ。スマホとは別に持ってきた時計で確認して、まだのんびり出来る余裕があることを確認する。


 一晩寝て、休日であることも実感して、気分も落ち着いた。白峰は、改めてここに来てからの自分について振り返ってみる。

 今回の訪問について、何も緊張やプレッシャーを感じていなかったと言えば嘘になる。流石に、そこまで神経が太いつもりは無い。

 とはいえ、無意識にそれを軽視していたか、あるいは無視していたかも知れないとは、思う。医者に対して見せた反応を考えても、認めたくは、無かったのだから。


 新しい人間関係に馴染めなかった? 果たして、本当にそうだっただろうか?

 ここに来てからの新しい人間関係。それも、特に深い人間関係となれば、それはアサの両親とアイリャになる。だが、彼らに対しても、白峰は特に付き合いにくさを感じているつもりは無い。彼らは親身で、気さくで、白峰は尊敬出来る人物であると評価しているつもりだ。


「そう考えているのが、間違いって事なのかな?」

 白峰はぼやいた。

 そう考えると、心当たりが全く無いとは、言い切れない気がしてきた。


 アサとはこれまでの付き合いから良好な関係を築いていると思っているし、今もそうだと思う。何か、お互いに変わったとは思わない。しかし、あくまでも仕事上の節度は弁えた上で、彼女とその両親の間にある空気は家族特有の近しさがあって。その中には割り込めないものを感じる。

 割り込めないのは当然で、むしろ彼らのそんなやり取りが微笑ましいものだとさえ、白峰は思っているのだが。どことなく、疎外感を感じていたようには思う。


 では、アイリャはどうか?

 彼女は、今日のような時間を手配してくれたように、細やかに気を遣ってくれる。よく話しかけてきてくれるし、白峰の話も聞いてくれる。仲良くなろうとしてくれる努力がよく見えるし、それは白峰にとっても嬉しく思う。少々、距離間が近すぎるのではないかと思うところがあるが、それは彼女の母、ルウリィもそうだし、国際ジョークから考えるに、シルディーヌ女性の一般的な感覚なのだろうと考えている。


 そんな彼女に対して、自分はこれまで、積極的に馴染もうとしていただろうか?

 そう考えると、それもまた、白峰には出来ていないように思えた。

 決して、アイリャのことは嫌っていないし、むしろ好印象を覚えている。ただ、そう。彼女に対してはどこか及び腰で、壁を作っていたように思う。

 これは、彼女の努力に対して甘えていたとも言えるかも知れない。


"まずは、互いに敬意を持つこと。その上で、お互いのことをよく知ろうとすることが大切だと思います。"


 ここに来て、インタビューで答えた言葉を白峰は思い出す。

 そう言っておきながら、アイリャのことをどれだけ知ろうとしていたか。どれだけのものを知っていたかと考えると、あまり思い浮かぶものが無い。


 白峰は苦笑を覚えた。

 ホームシックは、新しい人間関係に馴染み切れていないことが大きな要因となるし、逆に言えばその問題さえ解決すれば、同時に解消されるようなものでもある。

 そういう意味では、これからアイリャと王都を見て回るというのは、それこそいい機会だ。今日は、アイリャのことを色々と教えて貰おうと白峰は思った。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 一方でその頃。

 アイリャはというと、台所に立って上機嫌に鼻歌を歌っていた。また、含み笑いが抑えられなかった。

 シラミネにしてみれば、自分はまだ会ってものの半月程度の女に過ぎない。それはアイリャも理解している。しかし、アイリャにとっては、シラミネはもっとずっと前から意識していた相手なのだ。


 去年の夏に、母親から送られてきた一通の手紙。アサの別荘で過ごした短いバカンスでの出来事が書かれていた。その手紙には、写真も同封されていた。

 その写真に写っていた、若き外交官。シラミネ=コウタ。彼の水着姿を見た瞬間、アイリャは思わず「むっはぁ❤」とか叫んでしまった。要するに、好みのドストライクだった。絶対に、この男と結婚してみせると決意した。

 だから、それからのここ半年間、全力で少しでもこうして彼に近付く機会を得るための工作、もとい努力をしてきた。


 ちょっと大変なスケジュールを用意して、ほどほどに彼が弱るようにもした。

 そう、すべては弱ったシラミネを支え、そうして彼にとって掛け替えのない女性というポジションを得るために。


「辛い思いをさせてしまって、ごめんねシラミネ。でも、臆病な私はこうでもしないと、あなたに想いを届けられないの」

 決して、直接は言えない謝罪をアイリャは吐露した。

 恋人いない歴■■年。「絶対恋人いるでしょ」とか言われつつ、今まで何度も恋には破れてきた。けれど、今度という今度こそ、必ず成就させてみせるっ!

アイリャ「計画通り(暗黒笑顔)」

ソル「この子、仲良くなれそうな気がしますわね」

リュンヌ「ソル様。別の話に顔出すとか、本当にフリーダムですね」

ソル「ところで、さっきから物凄い殺気を巻き散らかしているこの女、誰ですの?」

リュンヌ「あまり、刺激しない方がよろしいかと思います」

闇ミィレ「…………」

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