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心理性帰属障害

 白峰は日中にアサやアイリャ達と共に要人達を巡り、それが終わるとそのまま病院へと向かった。

 アイリャは手際よくそこの手配も済ませており、特に待たされることもなく、白峰は診察を受けることが出来た。

 この世界の人達にとって、白峰が別の世界から来た人間だということもあり、これまでの行動や状態については、かなり詳しく問診を受けた。


 そして、長い診察を終えて下された診断結果は。敢えて日本語に直すなら、心理性帰属障害といった訳になるのだろうか。そんな病名が言い渡された。

 それは、何か治療が難しかったり、命に関わったりするような病気なのかと訊いてみると、医者は首を横に振った。


 医者が言うには、新しい土地で新しい生活を始めたとき、その環境に慣れずストレスを溜め込んでしまい、そのストレスによって精神的に参ってしまっている状態だという話だった。可能なら、少し仕事を休んで、今の環境を落ち着いて考えるようにしてみて下さいと言われた。

 そこまで説明されて、白峰もまた、これが何か理解する。

 要するに、地球ではホームシックと名付けられているものだ。


 そこに気付くと、白峰としてはちょっと認めがたいものがあった。何故なら、大学進学を機に一人暮らしを始めたときも、研修などで海外に出たときも、ホームシックとは無縁だったからだ。少なくとも、白峰にその自覚は無い。

 だから、どこに行こうと自分一人でやっていけると自信を持っていたつもりなのだが。それが、傷付いた気がした。更に言うと、ホームシックに罹るのは、新生活を始めてから数ヶ月くらい経ってからというケースが多いと学んでいたので、王都に来てまだ半月やそこらでそんな状態になるのかと、疑わしく思った。


 しかし、病名を絞り込んでいく医者の論理的な説明に異議を唱えられるだけの知識や経験は持っておらず。結局、白峰はその診断を受け入れるしかなかった。

 こんな早期に発症してしまったのも、それだけ王都に来てから集中して、気を張り詰めて仕事に向き合っていたからこそだろうと言われたし。また、これまでのように、いざとなれば故郷と連絡が取れるという状況ではなくなったことも、可能性として言われた。

 そう言われると、白峰にも思い当たる節があると思った。


 取りあえず、命に関わるような病気ではないと知り、心配して付いてきてくれたアサとアイリャは、そう説明すると安堵の表情を浮かべた。

 考えてみれば、異世界に来て、また治療不能な深刻な病気になるよりは、勝手の分かっているものであって良かったと。そう、白峰は思い直した。


「で、何でこうなるかな」

 そういった病院での出来事を振り返りつつ、白峰は宿のベッドで横になりつつ、天井を見上げぼやく。

 事情が事情だけに、これ以上白峰をこのままのスケジュールで働かせるのは無理という話となり、暫定的に数日の休養が与えられることになった。

 そこまでは分かるのだが。


 「シラミネ。私が案内するから、一緒に王都を見て回りましょう」。そう、アイリャからの申し出があった。

 何でまた? と、思ったが。彼女曰く、心理性帰属障害の治療には新しい環境や人間関係に対して、兎に角慣れることが重要という話だった。これそのものは、ホームシックの対処法にも通じる話である。


 なので、新しい人間関係の代表であるアイリャと共に、新しい環境である王都を巡ることで、この環境に親しみを感じて貰いたい。そうすることで、症状は緩和されるはずだ。とまあ、そういう理屈だった。

 理屈としては、間違っていない。そう、白峰は思う。


 それは流石にアイリャに依存しすぎではなかろうか? と、白峰としては素直に頷きがたいものがあったものの。

 しかしアイリャからは「気持ち的には勿論、私の仕事としても、シラミネには速やかに立ち直って貰いたいの」「そのためには、やれる限りのことはなんでもやりたいし、やらせて貰わないと気が済まない」と言われてしまい。

 断る理由も思い浮かばず、結局、白峰はその提案を受け入れることにした。


「でも、何なんだろう? この、妙なプレッシャーを感じるんだよなあ」

 胸がつかえたというか。重苦しいというか。そんな感覚を覚える。これも、心理性帰属障害というやつの症状なのだろうか?

 思っていた以上に、症状は重いのかも知れない。医者から処方された、結構強めと言われた睡眠薬を飲んで、白峰は目を瞑った。

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